「言っとくが、何をしたって無駄だぜ。なにしろ俺は何も知らないんだからな」

両手を後ろ手に縛り上げられて、抵抗できないように椅子に座らされたバティスタは、相変わらずにやにやとした笑みを浮かべていた。

輸送船襲撃者最重要参考人としてあの戦闘の後、バティスタは捕らえられた。いくらバティスタが何隻もの輸送船を沈める力量を持った男だとしても、六対一では分が悪すぎた。数々の抵抗を行ったが、最終的にはバティスタはリオンの手で捕らえられたのだった。

結局、今回の件は一行の……特に作戦の指揮を取ったリオンの大手柄。捕らえられたバティスタはその足でイレーヌの屋敷へと連行され、こうして尋問が執り行われることになっていた。

「本当に知らないかどうかはじきに分かる。マリー、こっちに来い」
「リオン、なんだ?」

リオンに声をかけられて、マリーは不思議そうに首を傾げながらもやって来る。
なぜバティスタの尋問にマリーが呼ばれる必要が?疑問符を浮かべる皆の中、は一つの思い当たることがあって、何とも言えない表情で成り行きを見守っていた。

「動くなよ……」
「綺麗な飾り……取るのか、リオン」

ついつい忘れがちになってしまうが、スタン、ルーティ、マリーは罪人として捕らえられている身だ。そのため旅が始まる前に、逃げ出すことがないよう囚人監視用のティアラを付けさせられている。……無理に外そうとしたり、リオンの持っているスイッチを押すことによって致死量には満たないものの、苦痛に感じられるレベルでの電流が流れるようになっている、可愛らしい見た目と裏腹にえげつないという代物を。

リオンはそれを、マリーからバティスタへと付け替えるつもりなのだろう。

「ちょっと、なんでマリーだけ外すのよ!あたしのも外しなさいよ!」

それを見て、何度か電流を喰らったことのあるルーティが猛抗議の声を上げる。しかし、そんなルーティへのリオンの言葉は冷ややかなものだった。

「一つで十分だ。それにお前らにはつけておかないと何をしでかすか分からんからな」
「あたしがいつ何をしたってのよっ!」
「尋問の邪魔だ。街でも見物してこい!」

なおも噛み付いてくるルーティにいらいらとリオンが声を上げる。
……そろそろ、まずいぞ。色々な意味でリオンに怒られ慣れているは、これからの顛末が容易に想像できて目を瞑った。
ごめん、ルーティ。多分止めることは不可能だ。

「なによ、このクソガキ……ッ!……」

そうルーティが言ったところで、リオンがそろそろ見慣れてきたティアラの電流操作スイッチを押す。瞬間流れた電流に、ルーティが悲鳴を上げた所でようやく事態は落ち着いた。

「ルーティ、スイッチ握られてるんだからあんまり無茶しない方がいいよ……」
「……ふ、ふん……。負ける……もんですか……」

あまり抵抗しすぎない方が、身のためだと思います。

「何をつけやがった!」

ルーティが電流によって床に突っ伏したという一連の出来事を見届けていたバティスタが、自身に取り付けられたものを確かめるようにして、じたばたと暴れ始める。

「あのバカ女と同じ物だ」

そんなバティスタを冷ややかな視線で見下ろしながら、リオンは淡々と語った。



























Tales of destiny and 2 dream novel
18 桜の下の誓い






「……フィリア、無理しない方がいい」

男の叫び声が聞こえる。その度にフィリアはびくりと身を竦ませて……でも、そんな自分を叱咤するかのように細い腕が青くなるほど握り締めていた。
そんなフィリアの痛々しい姿は、見ている方だって胸が締め付けられるような思いがする。けれど、彼女を無理に止める事は出来ない。……だって、本当に辛い思いをしているのはフィリアの方なのだから。


すでにスタン、ルーティ、マリー、イレーヌの姿は屋敷にはなかった。

スタンはイレーヌに外に誘われて、ルーティは寝ると言っていたけれども外に出て行ったスタンのことが気になったのか、マリーを引き連れてそのまま出て行ってしまった。そのため、この屋敷の中に今いるのは、リオン、バティスタ、、フィリアの四名だけだった。

今、この屋敷で行われているのは尋問、というよりむしろあれは拷問の類に近い。誰だって苦しむ人間の声なんて聞きたくないだろう。……そう言った意味でも、外出した四人の行動はある意味正解だったのだろう。

けれども、フィリアだけはここに残ると言ってきかなかった。何となくフィリアの心情を理解したは、フィリアと共に屋敷に残ることにしたのだが。

さんこそ、外に出られた方が……?顔色が優れません……」

の言葉に弱々しく微笑んだフィリアに、逆に心配をされてしまった。

「……確かに私だってこんなの平気で入られないけどさ。でも、私より真っ青なフィリアに言われても説得力ないよ」
「……そうですか…」

……本当に辛いのはフィリアなのに。
こんな時彼女に何もしてあげられない自分が、不甲斐なくて、情けなかった。

「駄目ですね、私。こんなことに動揺してしまうなんて……」
「フィリアは駄目なんかじゃない!」

思わず、声を荒げてしまう。

ドアを背にしていたは思わず口を押さえて、背後を振り返った。
ドアの向こうでは、相変わらず男の呻き声が聞こえている。リオンは相変わらず容赦がない。

「……バティスタは、昔からあんな人でした」

男の声は絶えず、耳の中へと吸い込まれてゆく。
そんな声を背にしながら、フィリアは困ったように微笑んで話し始めた。

「口が悪くて、とても司祭の態度ではない……何度大司教様から注意されていたか」

確かにバティスタはあれでも神官かと思わざるをえないほど口が悪い。しかしそれは昔からだったのか。意外な事実に、目を丸くしてはフィリアの言葉に聞き入った。

「でも、バティスタは……私が大司教様からの頼まれ事で調べ者をしていた時………手伝ってくれました……」

ぽつり、ぽつりとフィリアは語る。

「夜遅くて、真っ暗な部屋で、一人で作業していた私の………体を気遣って、鈍くさいって言いながらも、手を貸してくれて……」

そう言って、困ったように微笑んだフィリアの。

「……口は悪かったですけど、優しい人でした……」

――…顔を見たは、何も言えなくなってしまう。
だって、フィリアの顔があんまりにも哀しげで……でも、思い出を語る時は少しだけ嬉しげで………ようやく捻り出すことのことが出来た言葉は、あまりにも陳腐なものだった。

「……そっか、そんなことが」
「あの頃とバティスタは変わってしまったのでしょうか……?」

そう囁くように言ったフィリアは、どこか遠い所を見るような眼差しでドアの方をを見つめていた。

「……す、すみません。こんな話をしてしまって。……やはりさん、顔色が良くありませんよ。一度お休みになった方が……」

そうして暫くの間降りた、間。
そんな微妙な空気を吹き払おうと、彼女なりに気を使ってくれたのかもしれない。もしかしたら、一人きりになりたかったのかもしれない。

……でも、こんな顔をしているフィリアを置いとくなんて……そんなこと出来ない……!

「ねぇ、フィリア。私、フィリアの事、友達って思いたい」
「………え?」

暫くの間聞き役に徹していたは、唐突にそう言った。

「いいかな?」
「……そ、そんな!勿論ですわ……!」

そんなの言葉に、フィリアは驚いたようにぱちぱちと瞬きを繰り返した後――…何度も何度も頷き返した。

「だからね、私、そんな顔してる友達のこと、放っておくなんて出来ないんだ」
「………!」
「私はフィリアの気持ちを理解してあげることは出来ない。……でもさ、隣にいてあげることは出来るよ」

そう言ったの言葉に、フィリアは目を丸くして……それから目元を一心に拭いながら、呻くようにの名を呼ぶ。

……さん……」
「友達はさ、さんなんて付けないよ?」

そんなフィリアの姿につられたのか、の方も胸が一杯になる。

「そう……ですね……」

どうか、バティスタの尋問が少しでも早く終わりますように。……そう、思うことしか出来ないけれど。



微笑んでくれたフィリアの笑顔に、少しだけ癒されるような想いだった。





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07.3.31執筆
07.4.16UP