「……そこ、通して」
「あーら、あんたみたいなみすぼらしい格好の子が何でこんな所歩いてるのかしら?」
「それにこの道は先に僕たちが歩いてたんだぞ!それなのにお姉さまに向かって通してだなんてブレイじゃないのかよっ!」
「……でも、とうせんぼ……」
「何?……あたしたちが悪いって?それってブレイを通り越しておこがましいって言うのよ?そーんなことも知らないのぉ?」
「そーだそーだ!お姉さまの言うとおりだよ!」
「……っ!」
「あ、下の道から帰るんだ?ふーん。あそこって君の仲間がいるんだよねえ?」
「親のいない子供がいっぱいうろうろしてるでしょ?あたし、怖くて通れなーい」
「まったく嫌だよね。貧乏な人がいると街が暗くなっちゃう」

遠くから声が聞こえる。
幼くて、少し舌足らずな声が。いつもだったらそういう声が聞こえたら、思わず頬を緩ませて見てしまうものだけど。

「いい加減にしなさいっ!」

幼いだけでは許すことの出来ない意図的な悪意が含まれた言葉を、黙って見過ごすわけには行かない。いくらこれが子供同士の喧嘩だとしても物事には限度というものがあるのだ。
思わずがその身を呈して震える少女の前へと躍り出ようとした時には、すでに飛び出した影があった。

「な、なによあんた!」
「ぼ、僕たちに意見する気かっ!別に何もしてないだろ!」
「そ、そうよ、そうよ!貧乏人に貧乏って言って何が悪いのよ!!」

両腕を組んで威圧感たっぷりにその姉弟を見下ろす女性は――…見間違いようもなく、ルーティ=カトレットの姿だった。

「あーやだやだ。これだから金持ちのクソガキは……!」

この会話を、年上の女らしく穏便にすますかと思いきや……流石にそこはルーティだった。フン、と荒い鼻息をついてこれ見よがしに相手を挑発している。

「な、なんだよ!僕たちにそんな口きいていいと思ってるのか!」
「あたしたちのパパ、街の偉い人なんだからね!」

案の定、相手の子供達はそんなルーティの様子にカチンときたようだった。
この街の権力者の子供は全てとは言わないが、下層で暮らす人間を自分よりも格下の者として扱い、蔑み、嘲笑うことに楽しみを見出している。
それはとても哀しい事だけれども事実だった。

そんな彼女らが突然現れ、蔑みの対象である下層の者を庇う人間に対して快い反応を返すわけがなかった。

「……それがどうかしたの。偉いから何だっていうのよ。……えっ!?」

けれども口やかましく次々と捲くし立てた子供達に対してのルーティの対応は、ある意味でとても鮮やかだった。
要はさらに凄みを増し、そりゃあもう素晴らしい形相で二人をこれでもかと睨みつけたのだ。

「ううっ……なんであたしが怒られなきゃいけないのよぉっ!」
「くっ……お、おぼえてろよおぉっ」

イレーヌだったらやんわりと、けれども言葉の節々に凄みを入れて子供達を追い返しただろう。
ならば彼女らの気を違うことに引かせ、子供を逃がしただろう。

ルーティはの身近にいた人間とあまりにもタイプが違う。……だけれども。
同じように子供達の目線に立って、子供達に真正面から怒鳴りつけることの方が、もしかしたらずっと凄いことなのかもしれない。
まっすぐなルーティの言葉はどのような形にせよ、彼女らにぶつかって行った。それはどんな言葉よりも響くものだったのかもしれない。

「今の内に早く行っておいで」
「あ……ありがとう……」

子供達が走り去った後、仁王立ちをするルーティの後ろでおろおろとしていた少女にすかさずスタンが言葉をかける。にっこりと邪気のない笑顔のスタンに、困ったように佇んでいた少女はようやく顔を上げて微笑んだ。

ああ、良かった。
結局少し離れた所で様子を見守ることになったは、ようやく胸をなでおろして、気が付く。

「………ん?」
「…え……?」

その声に、驚いたように小さな少女はへと視線を走らせて。
少女とが同時に声を上げることになったのは、想像にたやすいことだったのかもしれない。



























Tales of destiny and 2 dream novel
17 デジャヴ






べったり、まさしくそう表現するに相応しい。
誰がだなんて?……それは勿論。

「私」

唐突にそう言って、ぎゅううと小さな子供を抱きしめたのはだった。

「お……おねえちゃん……」
「あ、ごめんごめんミシェル」
「……っていうか、いい加減離してあげなさいよ

呆れたようなルーティの指摘を受けて、ようやくは少女……ミシェルを抱きしめていた腕を開放する。先ほどの一連の騒ぎの後からずっとこうだったのだから、時間も相当経っている。そうだというのにまだ足りないと言わんばかりの眼差しでが見つめているものだから、仲間が警戒するのもある意味仕方のないことだった。

「ミシェル、可愛い……」
「ちょっとまたそこの不審人物が目を輝かせ始めてるから抑えときなさい、スタン」
「え!お、俺なの!!?」

ところが、対するミシェルもこのの奇行に対して嫌がっている素振りは見せなかった。
長い拘束のため少し感覚が鈍ったのか、ぷるぷると頭を振り落ち着きなげに動いていたが、少しの時間を与えると寂しくなったのか、きゅっとの服の袖を掴んで見上げ始めた。
もしかしたらそれは、帰ってきたを今度こそ離さないといったミシェルなりのジェスチャーだったのかもしれない。

「〜〜〜〜〜っ!」
「あ、また!スタン、ちゃんと抑えときなさいよ!」
「む……無理だって!」

結局、そんなミシェルの仕草に感極まったがまたミシェルに抱きついてしまった。
そんな一連の仕草にフィリアはくすくすと笑い、ルーティは呆れ、スタンは困ったように声を上げる。

「…………」

そして、とミシェルを先ほどから黙って眺めていたマリーはというと。

「ああ、マリーまでっ!」

戦闘中の雄々しい姿と裏腹に実は可愛いもの好きのマリーは、庇護欲を掻き立てるミシェルとそれに張り付くのやりとりの中に、加わりたかった模様。

「…………貴様ら」

そんな中に落ちる声が一つ。

「いい加減にしろッ!!!」

時間を気にしてイライラしている、あのお方でした。





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07.3.27執筆
07.4.10UP