以前感じた、奇妙な感覚。
それを人は―――……デジャヴ、と言う。
「……どうした。様子がおかしいぞ」
「…………うん」
「そうだよ、。何か当たったりしたのか?」
「…………うん」
「ほんとさっきから一体どうしたの。あんた変よ?……変なのはいつものことだけど」
「…………うん」
駄目だわ、こりゃ。そう言って両手を上げたルーティは呆れたようにため息をついた。
「あんたがを連れて帰ってきたんでしょ?この子がこうなったの、あんた知ってる?」
「……僕が来た時は既にこうなっていたな」
大きな息を吐いたルーティは心当たりはないかとリオンに尋ねたが、芳しい返事は得られなかった。がこんな風になってしまった第一発見者はリオンとのことだが、この様子ではルーティたちと知っていることはそう変わらないらしい。
「……仕方ないわ、ほっときましょ」
「で、でも……」
「いーの!だって考えたいことくらいあるでしょ。幸い、まだ時間はあるみたいだしね」
結局、どうにもならないと結論を出したルーティは考え込むを置いてスタスタと歩き始めた。
「やば!そろそろフィリアと交代の時間だわ!」
ルーティが消えた室内に、リオンの低い声が響く。
「……敵船が来たらきっちり働けよ」
「…………うん」
そんな気の抜けたの返事に、リオンは大きなため息をついて別室に向かって歩いていった。
「ど……どうしましょう……?」
「とりあえず、好きなことでもしてたらいいんじゃないか?」
残されたスタンは途方に暮れたような声を出し、それにマリーは暢気な返事を返した。
作戦行動、実行中。
達がノイシュタットの港から船が出て、すでに長い時間が経っていた。囮としてレンズ輸送船を装い、襲撃者が撒いた餌にかかったところを、釣り上げる。シンプルだけれども、輸送船のみを襲撃する相手には十分通用する手のはずだ。
しかしこの作戦の問題は、やはりいつ敵が現れるか分からないという点にあるだろう。結局、一行は船の中で散々暇を持て余していた。
「……………」
そんな中、作戦行動中だというのに終始上の空でぼんやりしている人間が一人。だった。
の頭を占めるのは、数刻前のノイシュタットでの事。
吹き乱れる桜色の世界で、一瞬とも永遠とも感じられた時の中での出来事に未だ心奪われたままだった。
(………あれは、一体何だったんだろう……)
そのやりとりは、リオンとの間ではあまりにも何気ないもののだった。けれど何気ないもの故に、それはの中で深く深く根強いて離れられない言葉になる。
遠いあの日、小さな男の子に助けてもらったこと。
その時に差し伸べてくれた手のひらの、ひんやりとした温かさをまだ覚えている。
(………まさか)
桜が吹き乱れていた優しい世界。
あの時の言葉とリオンの告げた言葉は、あまりにも似通う所が多すぎて。
(そんなわけない。……そんな、都合の良すぎることなんて……ない……)
あの桜が見せた空気に、ただ流されてしまっているだけなのかもしれない。あの時と、状況があまりにも似すぎていたから。そんなタイミングでたまたまリオンがいつものような憎まれ口を叩いただけなのかもしれない。……いや、寧ろ状況を考えれば考えるほどにそちらの可能性の方が高いように感じられた。
けれどそれを否定しきれないのもまた、事実だった。
(……でも、リオンはダリルシェイド出身だって……)
数刻前、イレーヌがそう言った言葉が唐突に思い出される。こちらに来てくれたのは暫くぶりね、そう言って彼女は微笑んだ。……辻褄が合ってしまう。
(でもこんなにも大きな街だもの……誰だって一度や二度は来たことくらいありそうだし………)
考え付く限りの可能性で否定を繰り返す。
あれほどあの子のことを求めて血反吐を吐いてまで探し続けたと言うのに、いざその後姿が見えたのかと思ったら、唐突に臆病になってしまう。そんな自分が滑稽でどこかおかしかった。
宝物のように大切に大切にしまいこんで、抱きしめて生きてきた思い出。そうだと言うのにあの子の顔すらを思い出すことが出来ない自分が、酷く腹ただしい。覚えてさえいれば、リオンの顔から面影を探し出すことが出来たのかもしれないのに。
(……でも、それで安心してる自分がいる)
――……本当に、彼のことを求めていた?
その思いがぐるぐると、ぐるぐるとの中で渦巻いて止らなくなる。
「………い……え…てるか………」
ああ、あの子の声がどこか、遠い。
「……いっ……おいッ!!」
「……!!な、なに……?」
そしてようやくは、自分が繰り返し呼ばれていることに気が付いた。
「馬鹿がッ!敵襲だ、さっさと出るぞ!」
「………ッ!ごめん、すぐ行く!」
その時リオンに触れられた肩が、やけに熱を持っているように感じたのはきっと気のせいだと信じたかった。
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07.3.31執筆
07.4.14UP
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