少しだけ、羨ましかった。

クレメンテを見て、微笑んでいるフィリアが。
ディムロスと他愛無い話題で揉めてしまっているスタンが。
アトワイトと揺ぎ無い絆で繋がり合っているルーティが。

シャルティエと家族のように話すリオンの姿が。


すぐ傍で支えてくれる存在がいるということ。
それがどれほど幸運で、どれほど恵まれていて、奇跡に等しい事なのか。………私は、もう知ってしまっているから。

熱い熱い灼熱の大地。
乾いた大地に残された小さな自分の足あとを見つめていたは、顔を振って視線を前へ戻す。

カルバレイス。この地に、神の眼はあるのだろうか――…




























Tales of destiny and 2 dream novel
16 悲しみの連鎖






「あつい〜……」
「だよな……なんて暑さなんだ……」
「暑いのは、嫌だ」
「これぐらいで音を上げてどうする」
「んなこと言ったって」
「暑いものはあーづーいー!!」
「ふん、修行が足りんな」
「でも、確かにジメジメしているよりは……いいですわ」
「そ、そう?暑くないの?」
「え、ええ……何事も精進ですわ」
「………すごいよ、フィリア」
「あ、でも暑いって口に出してるから俺達暑いのかも」
「なるほど!スタンったら頭いいー!」
「だろだろ?よっし、これから暑いって言うの禁止な」
「………暑い」
「ルーティ、暑いって言うのは禁止だって、さっき決めただろ」
「うるさいわね!暑いんだから暑いって言って何が悪いのよ。あー暑い暑い暑い暑い暑いっ!」

前略。ノイシュタットの皆。
あとイレーヌさんにマリアンさん、ヒューゴさん。

カルバレイスはとっても暑いです。

「…………死ぬ」
「軟弱者め」

汗が滴り落ちる。顔から、腕から、背中から、足から、とりあえず全身くまなく。
まるで摂取した水分を残らず干上がらせて、私達をカピカピにしてしまうに違いない。そう思ってしまうほどに、カルバレイスの熱線は暑かった。とにかく暑かった。

だからこの暑い中ひたすら黙々と進んでいるリオンが信じられない。リオンは暑さを感じていないのだろうか、と思ってしまう。
とりあえず、実験ということで今被っているフード付きマントをさらにもう一枚リオンにかけてみようかと考えたのだけれども、察しがいいリオンは即効で気が付いてくれやがりました。

「………余計なことをやったら、後ほど貴様にも特注のティアラを付けてやろう」

全力で退避に決定。

「うう、でも暑いんだよ〜……」
「ついに暑さで頭までいかれたか」
「酷い……」
「ああ、すまない。すでにいかれていたな」
「もっと酷い」
『あははは……』

フードの下で、やっぱりまた汗が滴り落ちた。
ヌメヌメしてとても気持ちが悪い。宿屋に着いたらシャワーを浴びたいな、と思うのは女の子として当然のことだと思う。

重い足取りで、一歩、また一歩と砂丘を歩む。
一行がカルバレイスの地に到着して、はやくも4時間ほど経過していた。
港町チェリクで一手間かけさせられたせいで、目的地に向かうのが遅れてしまったけれども過ぎてしまったことは仕方がない。情報を持っていた男があっちっこっちに動き回ったことが原因ではあるけれど、相手には罪はないのだ。
苦労の末、神の眼らしき積荷は首都、カルビオラに渡ったということが判明した所までは良かったのだが、探し回った末にそのままカルビオラ行きを強行したのが堪えていた。

「……でもさ、このフード付きマントがさらに暑いって言うか……」
「じゃあ貴様はあの熱線を直に浴びたいのか」
「いいえ、全くもって思っておりません」
『じゃあ我慢だよ、ちゃん』
「は〜〜い……」

砂を踏みしめる音だけが、辺りに響く。

皆、この暑さに堪えているのだろう。口数が段々少なくなってきているのがいい証拠だった。だから、少しでも元気が出るようには声を上げて話しかける。
けれども、どうやらそれもここまでのようだ。何事もやりすぎは良くない。

(………なまえ)

でも。
やっぱり、気になった。

(呼んでもらえないの………私だけ、だ……)

思い出すのは、チェリクでの出来事。
オベロン社のカルバレイス方面の責任者であるバルックの所を訪問した時のことが、未だにの心に引っかかっていた。





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07.3.24執筆
07.4.5UP