「私を狙おうなどとは十年早い!」

刃を掲げたミラが、地面を蹴る。
バネのようにしなる体から振り下ろされた剣は、狙い通り正確にモンスターを貫いた。

「ディストールノヴァ!」

残像が光の粒子となって、迸る。
そうして眩しいほどの光がようやく収まったころ、そこには満足げに胸を張るミラの姿があった。

「やっぱりミラはエクセレントー!」

きゃーっと叫びながら、ティポがミラの傍をぐるぐると飛び回る。
その傍に駆け寄って、うっとりと見上げるのはエリーゼだ。術での後方支援が基本となるエリーゼからすれば、最前線で華麗な術や剣技を振るうミラは憧れの対象なのだろう。

「憧れちゃいます」
「その期待を裏切らぬよう努めよう」

エリーゼの言葉を受け止めて、ミラは柔らかく微笑み返す。
そんな微笑ましい女性陣の姿を尻目に、パーティを組んで戦っていたもう一組の方はと言うと、全く違うところへ目をやっていた。

「ミラのって、みじかくない?」

何を、とは言わない。
言わなくても相手には伝わっている。
ほんのりと耳を紅く染めたジュードが、ミラのどことは言わないどこかを見ながら、ぽそりと呟いた。もちろんその呟きを耳聡い傭兵が聞き洩らすわけがない。

「そこがいいんだろ」

アルヴィンはにやにやと笑いながら、小柄なジュードの肩にのしかかる。
うわっとか言っている青少年の驚きをまるで無視した扱いだ。

「でも……流石に目のやり場に困るよ」

特にさっきみたいに、大股開いて地面を蹴り上げたりした時とか。
敵に弾かれた時、くるりとステップを踏んで体制を立て直す時とか。
正直『それ』にかまけていて、自分の身をしっかり守れるのかと言えば全然そう言う訳でもないけれど、つい目で追ってしまうのは悲しい男の性と言うべきか。

困ったように目を伏せるジュードに、ははーんと楽しそうにアルヴィンは口元を釣り上げた。こっちはこっちで豊富な女性関係のおかげで、ジュードのような初な反応にはならないらしい。

「ミラ様ー。サービスしすぎなのもいいけど、もうちっと出し惜しみしてくれないと、ジュード君には刺激が過ぎるってよー」
「ちょっ…アルヴィン!」
「へへ。だけどこんくらい直球で言っておかないと、あのミラのことだぞ?」
「む。サービスとは何だ?」
「おっと、こういう切り込み方は想像してなかったぜ」

本気で分かっていないらしい。
不思議そうに首を傾げて近づいてきたミラの姿に、ジュードはぶんぶんと大きく首を振った。

「な、何でもないよ!」
「そうか?」
「ほ、ほらっ、エリーゼが待ってるよ!」
「うむ。先に進むとするか」
「もうちょっとしたらご飯にしよう。料理屋で牛丼を買っておいたんだ」
「じゅる。それは期待できるな」
「うわっミラ、よだれ!」
「じゅるるる」

そんな、話をしたのが確か一か月前くらいのことだったように記憶している。
そう。俺の記憶が正しければ、そんな微笑ましいやりとりは確かにあったはずだった。

「……何、あれ」
「ずっとあんな調子だったんだよ〜」

新しく増えたメンツ、元気が取り柄と言わんばかりに賑やかなレイアが、疲れたように肩を落とす。
まあ、ジュード君のことが気になる女子としては、複雑だろうけどさ。っつーかいくらなんでも、ちょっと会ってなかっただけであの変化はどうなのよ。

「ミラ!大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ。しかしジュード。君は戦闘時において少し過保護になっていないか?」
「そんなことないよ。……ミラのサポートは任せて」
「その点に関しては何ら心配していないよ」

巧いこと逸らしたな。
いや、それよりもだ。

「なんでミラ様の隠すように動いてるわけ?」
「……ミラが気にしないなら、僕が気にするしかないのかなって」

いやいやいや、それってどうなのよ。
というかせっかくのサービス要員だったんじゃないの?
ミラ様のサービス、イコール俺らのささやかな幸せじゃなかったの?

「……アルヴィン。今度ミラの見たら、僕何するか分からないかも」

そう言ったジュード君の無邪気な笑顔が、妙に凄味を帯びてヤバイ。
いやはや、恋って怖いもんだこと。

今日も今日とでミラ様(のパンツ)を、青少年は守っている。
サービスがなくなったのはちーっとばかし残念な気はするが、これはこれで面白いからよしとしよう。





12.10.01執筆