2013.07.07 執筆

星に願いを

じーわ、じーわ、じーわ。
茹だるような暑さに、じんわりと玉のような汗が滲む。肌を刺すような強い日差しに、アブラムシの泣き声。ようやく梅雨の明けた青空には、ソフトクリームみたいな入道雲がもくもくと立ち上っている。
もうすっかり夏だ。真っ白なワイシャツに袖を通したジュードは、汗ばむ手のひらで通学鞄を持ち直した。
通い慣れた通学路である坂道を重い足取りで登って行く。湿気を孕んだこの季節、茹だるような暑さと相まって、慣れた道でさえあっという間にばててしまいそうだ。たらたらと顎に伝い落ちる汗を手の甲で拭いながら、私立エクリシア学園――――見慣れた校舎の姿を視界に収めて、ジュードはようやく一息を付いた。
「あーつーいー!」
「もうちょっとだから、レイア」
「分かってるよぉ~。でも暑いものは暑いって!」
「暑い暑い言わないでよ。余計に暑く感じちゃう」
「うううー! はやくプール入りたいー! さっぱりしたいー!」
「女子は今日プールだからいいよね……」
「あっ、そっか男子はサッカーだっけ。……ご愁傷様です」
「本当だよ、もう……」
この暑さだから、本当に参っちゃうよ。
カンカン照りという言葉がこれ以上ないくらい似合う夏の青空を恨めしそうに見上げながら、ジュードは今日の時間割を思い出して深い溜息を吐いた。
体を動かすことは決して嫌いではない。だけれども、涼しいプールに入れるレイアの話を聞いていたら何が楽しくて全身汗だくになりながら炎天下サッカーをしなければならないのかと文句の一つでも零したくなるというものだ。それならまだ、校舎の中で勉強していた方がずっとマシだ。
「まあまあそう拗ねない拗ねない」
本日プールの予定が立っているレイアの方は、にこにこと嬉しそうだ。抜けるような真っ青な空を指差しながら、楽しそうに言葉を続ける。
「今日はいい天気なんだから。きっと天の川が良く見えるよ!」
「天の川?……ああ、もうそんな季節だっけ」
唐突にレイアの口から現れた単語に、ジュードは僅かに考え込む。そうして今日が7月7日……俗にいう七夕の日であることを思い出して、納得したように頷いた。
「本当だ。今年は見れそうだね」
「ほんと! 毎年毎年、雨ばーっかりで、織姫と彦星が可哀想だったもん」
「七夕伝説だっけ」
「うん、そう。年に一回だけ織姫と彦星は七夕の日に天の川を超えて会えるんだよ。なんだかロマンチックじゃない?」
両手の指を胸の前で組みながらレイアが瞳を輝かせる。
どうして女子はこんな話で盛り上がれるだろう。そこら辺はよく分からないんだよなあ、と内心思いつつも、ここで反論しようものならレイアの猛反発を受けるのは目に見えている。素直に頷いておく方が無難だろう。
「あーっ、ジュード話聞いてないでしょ!」
適当に相槌を打ったジュードを、レイアは瞬時に見抜いてしまった。流石は幼馴染のカンといったところか。
ふくれっ面になってしまったレイアを宥めるのは簡単な事じゃない。結局、今度アイスクリームを奢るという話で手打ちになったので、どう転んでもジュードにとってはいい話にはならなかったようだ。
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