――――暗い、暗い、真っ黒な泥の中へ沈んでゆく。 (……ミラ……どうして死んじゃったの……) 金色の光と、崩れ落ちてゆく体。 何度もフラッシュバックするその光景が、瞼に焼きついて剥がれない。 (僕は……ミラが……ミラのことが……) 好きだった。 生まれて初めて、本気で好きだと思った人だった。 マクスウェルとしてじゃない。 真面目な顔。 怒った顔。 はにかんだ顔。 慈しむ顔。 嬉しそうに笑った顔。 『ミラ』というその存在全てが……この世界に生きる女の人として好きだった。 使命を胸に真っ直ぐ進もうとするその生き方に憧れなかったのかと聞かれれば、嘘になる。でも、その憧れ以上の愛おしさをこれから育んでいけるはずだった。一緒に歩いて行きたいって思ってた。 (それなのに……どうして……) 深い沼の中は、底が見えない。 墜ちてて、墜ちて――――…その先に、どこへ行く? 「ローエンとエリーゼと連絡がとれたんだよ」 湯気の立つクリームシチューに、ふんわりと丸く焼きあがったバターロール。木の盆に乗せて運んで来たレイアが、恐る恐るといった口調で――――…膝を抱えてベッドにうずくまるジュードに声をかける。 ジルニトラ号から帰還してからというものの、この幼馴染はすっかり生きた抜け殻のようになってしまった。 何を言ってもろくな返事すら返ってこず、用意した食事も取らない。舐めるように水を飲むだけで、生きようとする意思すら危うかった。このままでは確実に栄養失調になってしまう。医者を志していたはずなのに自分のことさえ持て余すジュードは、それほどまでに……彼女、ミラの死がショックだったのだろう。 もちろんレイアだってミラの死は哀しい。 いくら絶体絶命の危機だったとしても……あんな……あんな哀しい結末を迎えるしかなかったのか、と何度も自分に問いかけた。 でも、ミラはいなくなってしまった。その事実は変わらないし、変わるはずもない。これから先どうしていいのか分からないのはレイアも同じだったけれども、彼女には一つだけ確かなことがあった。 『レイア、後のことは頼んだ』 ……ミラは、ミラがいなくなった後のことを、わたしに託したんだ。他の誰でもない、レイア・ロランドを。 ミラの遺した言葉は、レイアの中に小さなかがり火のように暗がりを照らす。 わたしが、ジュードを守らなくちゃ。 ミラの元に集った仲間たちは散り散りになってしまった。けれど、ミラが命を懸けて守ってくれたおかげで、みんな生きている。また、やりなおすことだってできる。 だから、きっといつか。 ミラ=マクスウェルとして、ミラが守りたかったものに気がついてくれることを……また、ジュードが笑ってくれることを信じていたい。 ベッドの上で静かにうずくまるジュードは微動だにしない。 まるで生気のない横顔を見ていられなくて、いつものような口調で、でも限りない心配の色を滲ませてレイアは言葉をかけた。 「でも、二人もアルヴィンとは連絡がとれないみたい」 レイアの言葉にジュードは返事を返さない。 いつものやりとりに虚しさを覚えるのにも、もう慣れてしまった。ジュードの心に空いた穴は、それほどに大きなものだったのだ。 ねぇ、ミラ。 頑張りたいよ。信じていたいよ。 でも……でも、どうしたらいいかな。こんなジュード、わたしは知らないよ。こんなにもミラが好きなジュードを突きつけられて、わたし、どうしたらいいのかな。 答えてくれるミラはもういない。……わたしが自分で考えるしかないんだ。 項垂れて踵を返せば、ガチャン、と何かが落ちる音がした。 「もう、やめてよ……」 乾いた唇から発せられた音は、信じられないほどか細い。 無残にも散らばったシチューが、床を白く染めていた。 にんじん、じゃがいも、鶏肉をじっくり煮込んだ、野菜たっぷりのシチュー。レイアが真心を込めて用意した食事を、ジュードは弾き落としたのだ。 床に転がった食器を前に、レイアはしゃがみこんで手を伸ばす。 「また?ジュードのおかげで、あーっという間に食料がなくなっちゃうよ」 震える唇で発せた言葉は、いつもの元気なレイアを演じれていただろうか? ……こんなことで傷ついてちゃダメだ。だって、ジュードはもっと辛いんだもの。好きだったミラがいなくなっちゃって、今は哀しいの……分かるから。 「代わり用意するね。待ってて」 落ちた食器を集めて、お盆に戻す。床に散らばったシチューを雑巾で拭き取っていると、目尻が熱くなって、胸に張り裂けそうな痛みを覚えた。 泣いちゃダメだ。……頑張らなくちゃ。 無心になって拭いていたおかげか、床はすぐに綺麗になった。残りの食器も盆ごとまとめて持ち上げて、レイアは立ち上がる。 ちゃんと、ジュードに食べてもらわなくちゃ。 シチューをもう一度あっためて、ほかほかにしてあげよう。湯気の出るあったかいシチューを見たら、もしかするとジュードも食べてくれるかもしれない。 重い足取りで部屋を出れば、小さな振動音がした。 思わずそれにびくりと体を揺らして、レイアは息を飲んだ。 ジュードも苦しんでる。……分かってる。分かっているけど、あんな幼馴染の姿を見るのは哀しい。 目尻に浮かび上がった涙が零れ落ちない様に鼻をすすって、レイアは一歩ずつ階段を降りていった。 「……ミラ……」 『なんだ、ジュード?』 ……そう、振り返ってくれた柔らかいルビーの瞳を持つ人はもういない。 返事が返ってこないことを承知で、それでも零した言葉に応えるように部屋の扉が開かれた。 かつり、かつりとブーツが床を蹴る音が聞こえる。 見慣れた白い靴先は大柄の男性のもの。行方不明だと言われていたアルヴィンが今、ジュードを前に銃口を向けていた。 「……お前たちを殺せば、エレンピオスに帰してもらえる。……ミュゼと取引した」 彼は今、どんな表情をしているのだろうか。 顔を上げる気力すらなく、ジュードはぼんやりと握り締めた手のひらを見つめていた。 「……ミュゼ」 そう言えば、今、アルヴィンは『ミュゼ』と言った。 彼女……ミュゼは『断界殻<シェル>を知ってしまった人を殺すこと』を使命として存在する精霊だった。僕たちがジルニトラ号で襲われた精霊術も、ミュゼの仕業だったわけだ。 ミラは、ミラのお姉さんであるミュゼに殺されてしまったのだ。 「いいよ。もう、好きにしてよ……」 なんて皮肉なことだったんだろう。 断界殻を通じて、人と精霊を守るという使命に命を捧げたミラと、断界殻を知った存在を抹殺する使命を持ったミュゼ。 ミラはいずれにせよミュゼに殺されてしまう存在だったとしたならば、何のためにミラはこの世界に存在していたの? 結局のところ、『使命』って何だったんだろう?……考えるのも億劫だ。 何もかもを投げ出したくて、アルヴィンの言葉にジュードは投げやりな返事を返す。 瞬間、アルヴィンの眉が跳ね上がり、ジュードに掴みかかってきた。 こめかみに銃口が突きつけられる。この位置で発砲されれば、間違いなく命はない。そうだというのに、ジュードは無抵抗のされるがまま、焦点の定まらない瞳でぼんやりと銃を見つめていた。 「何でも受け入れて……そういうのがムカつくんだよ!」 カチカチと震えるアルヴィンの指先が、トリガーを引く。 「ダメ!」 パァン、パァン。 乾いた銃声が室内に響き渡ったが、異音に気が付いたレイアの妨害によって、辛くもアルヴィンの凶弾はジュードから外れた。 「このっ!」 アルヴィンにしがみついたレイアが、振り飛ばされる。この隙にジュードを殺さなければ。ミラ<マクスウェル>が死んだとというのに、断界殻が消えなかった空に絶望した青年は、望郷の想いだけを胸に、震える指先で弾丸を装填する。 「えい!!」 青年男性に振り飛ばされたというのに、レイアの回復は早かった。 装填を行う僅かな隙を見逃さず、全身をバネのようにしてアルヴィンにタックルをかける。思わぬレイアの反撃を喰らったアルヴィンは、壁に頭をしたたか打ち付けて気絶した。 握りしめていた銃が、床に転がり落ちる。 「来て!」 このままだと、アルヴィンに殺されてしまう! 身に迫る危険を正確に判断して、レイアは真っ先にベッドに座るジュードの手を引いた。そのまま飛び出すようにして、仮住まいにしていたハ・ミルの居住地の扉を開く。先陣を切ったレイアが階段を駆け下りると、続くジュードは足元のバランスを崩し、簡単に地面に転がり込んでしまった。 食事も満足に取らずやせ細った体では、急な運動に追いつけるはずがなかったのだ。 「ジュード!逃げなきゃ!」 振り返ったレイアが、ジュードに駆け寄る。地面に倒れこんだまま、ぴくりとも動こうとしないジュードの肩を必死で揺らしながら叫んだ。 「何のためにミラが命を懸けて使命を果たそうとしたのか、思い出して!」 意思のないジュードの手のひらを握りしめて、強引にでも立たせる。本当は今すぐにでも駆け出したかったけれど、ジュードの体がそれを許さない。 「ジュード、走って!」 「ミラ……使命……」 うわ言のようにレイアの言葉を反芻するジュードを、それでもレイアは見捨てることをしなかった。 守らなくちゃ。わたしがジュードを守らなくちゃ……! わたしはミラに、ジュードのことを託されたんだもの。アルヴィンに殺されるなんてそんな結末、絶対許しちゃダメなんだから……!! 「こっち!」 かつての仲間に命を狙われている。その事実に気が狂いそうになるほど、鼓動は早く脈打っていた。荒い呼吸を理性で必死に押さえつけて、レイアはジュードの手を引いて進む。 そびえ立つ高い樹木が並ぶパレンジの果樹園に逃げ込むことを、レイアは決めた。作業用に組み上げられたはしごを伝って、高い足場へと移動する。ジュードを押し上げることは骨だったけれども、なんとか移動することに成功した。 ここからなら地上にいるアルヴィンの動向を確認することができるし、いざとなったら別のはしごを使って逃げられる。レイアなりに必死で考えた選択だった。 ――――銃声。 すぐ傍の木の手すりが欠けて、破片が飛び散った。 「見つけたぞ」 レイアのその選択に問題があったとしたら、アルヴィンの人探しに長けている能力を見誤っていたことか。 逃げ場のない足場を前に、想像以上早く現れたアルヴィンが銃を片手に二人へと迫る。 ……逃げられない。 そう悟った時、レイアの脳裏に掠めたのはミラの言葉だった。 『レイア、後のことは頼んだ』 ミラに託されたもの。 わたしが、大切にしたかったもの。 それをアルヴィンなんかに――――…壊されてたまるもんか! 「ジュードは殺させない!わたしが守るの」 胸の内に静かに闘志が蘇る。 今この場でジュードを守れるのはわたししかいないなら……わたしがジュードを守ってみせる! 「逃がさない。もう無駄だ」 「そんなことない!もう目を覚ましてよ!アルヴィンだって……」 折りたたんで持っていた棍を展開する。振りかぶれば、馴染んだ感触が手のひらに収まった。 「何もかも無駄なことだったんだよ!」 剣を構えたアルヴィンもまた戦闘態勢に入る。傭兵として生きてきたアルヴィンの戦闘能力は十分に理解しているつもりだ。それでもこの戦いは……負けるわけにはいかない! ブーツが足場を蹴る。振りかぶられた剣は真正面から受け止めず、なぎ払うようにして弾いた。アルヴィン相手に力では押し負けることは必至だ。だったら、こっちは手数の多さと俊敏な動きでかく乱するしかない。 「無駄……」 目の前で繰り広げられるかつての仲間同士の戦いを、ジュードはぼんやりと見つめていた。口の中で反芻した言葉は、ミュゼが彼に伝えた言葉だ。 ミラが生きた証。使命。成し遂げたかったこと。それらを全て無駄だと言い切ったミュゼの言葉。 「そんなことない!」 レイアの力強い声が、ミラと共に過ごした日々を思い出していたジュードの意識を呼び戻した。 振りかぶられるアルヴィンの剣を、棍で弾き、受け止め、ステップを踏んでは押し返す。 「だって!まだ生きてる!エリーゼだってローエンだって!ガイアスたちだってきっと……わたしたちも生きてるじゃない!」 器用に手すりを足場として飛んだアルヴィンの剣が振り下ろされる。 ――――避けるのは間に合わない! 咄嗟に判断したレイアは、受け止めることを選択した。切っ先と棍が火花を散らして衝突する。 成人男性と少女の衝突で力は拮抗するはずもない。レイアが弾き飛ばされたのは当然の結果で、体制を立て直すために棍を振って後ずさるのを見越したようにアルヴィンが近づいてゆく。 「……そんで、どうするんだ?」 ひゅん、と振りかぶられた切っ先をすんでのところで回避する。一度押し負けられてしまったことで、本能的に逃げ腰になってしまう。なんとか体制を立て直そうとすれども、アルヴィンがそんな隙を与えてくれるはずもない。 「あいつはもういないんだぜ?」 そうして、嫌らしく一度笑って言った。 「ああ、レイアはそっちの方が良かったかもな。ジュードのことが好きなんだし」 「なっ……」 言葉で誘われた動揺の後、腹部に鋭い痛みが走った。 アルヴィンに蹴り飛ばされたのだ。足場に這い蹲るように転がったレイアをせせら笑いながら、アルヴィンは言葉を続ける。 「俺が気がついてないとでも思ってたのか?おたくらがジルニトラで何のやりとりをしてたのかまでは知らねえけど、良かったじゃないか。これで晴れてジュードはおたくのもんさ」 「……っ…ちが…う…わたし……はっ…!」 「本当に?ミラがいなくなって良かったと思ってるじゃないか?」 「ちがう……ちが…う……!!」 「じゃあ何でハ・ミルなんかで二人っきりでいるんだよ。ローエンとエリーゼは?どうせ二人っきりになった隙にジュードを落としておこうって腹だろ」 「……ちが…う……っ!!」 鳩尾に入った痛みなのか、はたまたアルヴィンの言葉のせいなのか。目尻に浮かび上がる涙を必死にこらえてレイアは声を絞り出す。 ジュードのこと、好きだけど……こんなやり方でジュードと結ばれたいわけじゃない……! 「レイア……?」 「……っ…ちがうの、ジュード……っ!」 「何が違うんだよ、レイア?」 こんな最悪な形で、ジュードに伝えるはずじゃなかった。 もっとちゃんとした形で、ジュードもミラもいて、真正面から正々堂々挑みたかった。奪えるものなら奪ってみろだなんて、そんな啖呵を切ったミラに負けないくらいいい女になってやるつもりだった。 なのに……こんなのって……こんなのってあんまりだよぉ………! 「レイア!」 咄嗟にかけられた声で、我に返った。反射的に半身動かせば、先程まで転がっていた場所に綺麗な穴が空いている。――――アルヴィンが銃を打ったのだ。 みしみし、と嫌な音を立てて足場が軋んだ。 次の瞬間、ジュードとレイアは二人揃って崩れた足場ごと地面へと落下した。 ――――知らなかった。 ミラとレイアが、ジルニトラで何をしていたのか。 レイアは聞いても答えてくれなかったし、ミラは女だけの秘密だと言った。二人にそんなやりとりがあっただなんて、僕、知らなかったんだ。 だってレイアは僕にとって幼馴染で……それ以上の想いがあるだなんて、思ってもみなかった。 僕がミラを想っていたのと同じように、レイアもまた僕のことを想ってくれていたのだとしたら……僕はなんて酷いことをレイアにしてきたんだろう。 ミラのことが好きだった。 一人の女の人として大切にしたかった。 その気持ちばかりに目を向けるあまり、傍にいた大事な幼馴染を傷つけて……あまつさえ、こんな僕にくれた気遣いでさえも無下にして。 ……回る世界の中で、差し伸べられた手のひらがあった。 『ジュード!早く!』 思えば、ジルニトラを脱出する時もその声が僕を導いてくれていた。崩れ落ちる瓦礫から必死で身を守り、それでも離さなかった小さな手のひら。小さな時から僕を連れ出してくれていた、白い女の子の手。 その手に確かに引かれていたはずなのに……離したのは誰だった? お気に入りのヘッドドレスも泥だらけで、顔に小さな傷をたくさん作りながら、泣きそうな顔でレイアが手を引く。 女の子なんだからオシャレにも興味持たなきゃねー。そんな軽口を叩いていたレイアの今の姿は、オシャレとは程遠い。そんなにさせたのは誰のせいだ。……他でもない、この僕だ。 「ミラに助けてもらった命でしょ。大切にしなきゃ!」 ――――ああ。こんな時でもミラのことを受け止めて、ちゃんと言葉にできるレイアは僕よりずっと強い。 当たり前のように傍にいてくれたから、気がつかなかった。レイアは僕なんかよりもずっとずっと強かった。胸の内に堪えた痛みに歯を食いしばって、それでも頑張ろうとするのがレイアだったはずじゃないか。どうしてそんな当たり前のことさえ、僕は気がつけなかった。 僕の――――…大切な、大切な幼馴染。 ごめんね。ずっと心配かけた。 酷いことしちゃったね。シチュー、食べてあげられなくて、ゴメン。帰ったら一緒に食べよう。 今まで酷いことしてしまった償いにはならないかもしれないけれど、今度は僕がシチューを作るよ。一緒にあったかいシチューを食べよう。レイアがいつも出来立てを届けてくれていたこと、食器の温かさをちゃんと覚えている。 だから、一緒にル・ロンドへ帰ろう。 ミラ=マクスウェルとして生きて、死んでしまったミラの想いと向き合おう。ミラの気持ちに気付けなかった自分を責め続けるのはやめよう。 ミラもレイアも……きっとそれは望んでいない。 ゆっくりと瞼を閉じて、持ち上げる。今度は自分の意志の力で、レイアの手のひらを握り返した。 「……レイア」 パァン、と。 乾いた銃声と共に、目の前の幼馴染の体が跳ねた。 「……え?」 花飾りの付いたヘッドドレスが揺れる。 ……まるで、スローモーションみたいだった。 ゆっくりとレイアの頭が落ちてきて、こつん、と僕の額とぶつかる。そのエメラルドの瞳が閉じられて……呆気なく地面に落ちていった。そこにはもう、手のひらを掴んでくれていた力強さはない。 「レイア!」 息を呑む。 反射的に崩れ落ちたレイアを見て――――銃弾による頭蓋陥没。出血多量。ほぼ即死状態であることを突きつけられる。 「ぁ……ぁぁあああああああああ!!!!!」 「い、今のは……!」 自分自身で撃ったくせに、信じられないものを見るかのようにしてアルヴィンが立っていた。白い煙が立ち上る様を、呆然と見下ろしている。 「アル……ヴィン…ッ!!!」 最低な僕を気遣い続けてくれた、幼馴染。 誰よりも好きだった、たった一人の女の人。 どうして僕は、大切なものに気がつくのが遅すぎる。どうして、無くしてから気がついてしまう。どうして。どうして。どうして……ッ!! 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」 視界が、紅く染まってゆく。 この色はレイアの血の色だ。最期の最期まで守り続けてくれた、たった一人の幼馴染が刻んでくれた僕の罪だ。 愚か者の末路は……結局、血まみれの未来なのかもしれない。 To be continued… 13.01.19執筆 |