2013.10.22 執筆

夜明けのモーニングコーヒー

チチチ、チュンチュン。
小鳥のさえずりが聞こえる。もう、朝だ。ぼんやりとした意識を振り払うように、僕は重いまぶたを押し上げた。
ルドガーのクエストは今回は時間がかかるものらしい。パーティメンバーから外されてしまった面子たちは、それならばと一旦解散した。皆、それぞれに忙しいから。
結局自室に戻った僕は、つい資料を探すのに没頭してしまって……えーっと、いつの間に眠っちゃったんだろう?
「起きたか」
思いもしない距離から、思いがけない声が降ってきて、僕は慌てて顔を上げた。
「えっ、み、ミラっ!?」
「おはよう、ジュード」
「うん、おはようミラ。……ってそうじゃなくて」
なんでミラが僕と一緒の布団の中で頬杖ついているのでしょうか。……いや、昨晩は普通に研究してたし、それ以上のこともそれ以下のこともしていない。ミラは後ろで本を読んでて……あ。
「気がついたようだな。昨日、君は机に向かって船を漕いでいたのだ。それでは十分な休息にならない」
人間は眠らねば体のリズムを整えることのできない生き物だろう。
片眉を上げたミラが諭すようにして告げる。とは言ってもミラが本当に怒っているわけじゃない。現に見下ろしている瞳の色はとても穏やかだったから。
「うん、気をつけるよ」
「……私がいない時は、いつもこんな感じなのか」
「あ、あはは……」
どうやらミラにとって僕のことはお見通しらしい。思わず明後日の方向を見れば、白い腕ががっちりと僕の顔を掴んで正面へ向き直らせた。
「源霊匣の研究がとても大切なことは理解している。だが、君が体調を崩してしまっては何ら意味がない」
「は、はい……」
「体調管理も君の仕事のうちだぞ」
大真面目な顔で迫ってくるミラの顔に、動揺しないでいられるならその理由を教えて欲しい。思わず後ずさろうとしても、ミラの両腕はがっちりと僕の頭を抱えている。じりじりと瞳を覗き込んでくるルビー色の瞳に、頬が熱くなるのは仕方のないことだった。
「む、頬が赤いようだが……やはり風邪を引いているのではないか?」
「ち、違うよ。風邪じゃないと……思う」
「では何故瞳を逸らそうとする」
「そっ、それは…………ミラが、近いから」
ごにょごにょとくぐもった音が布団の間に落ちる。その微妙な空気感はやがてミラにも伝染したのか、ぱちぱちと瞬きをしてから一呼吸。
「えっと……その」
「……なんだ」
「……お、起きよっか」
「あ、ああ」
お互いに真っ赤になりながら、なんとか口にできた言葉は朝の目覚めらしい言葉だった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
照れを誤魔化すように告げた挨拶がなんだかこそばゆい。
「二回目だな」
「うん、そうだね」
目覚めた時に、ミラが傍にいたのはものすごく驚いた……けど。
「コーヒーでも淹れようか」
「うむ、いいな」
「一緒に飲もう」
こんな朝もたまにはいいかなって思ってしまう自分にまた、小さな笑みが零れた。
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