2013.05.23 執筆

双方向感情通信簿

「やっぱり、カン・バルクは寒いね」
重いコートをハンガーに引っかけて、ようやくジュードは人心地ついたように肩を下した。買い物から帰ってきたジュードには、なおさらに室内の温かさが染みるだろう。ぱちぱちと暖炉の火が爆ぜる音を耳にしながら、ミラは「おかえり」と、ジュードの帰りを労った。僅かな空白と共に、ジュードからも「ただいま」と短い挨拶が帰ってくる。そうして互いに顔を見合わせて、小さく微笑み合った。こういう動作一つ一つが、胸の内を温かくしてくれる。そんな何気ない時間が幸せだな、と思った。
極寒の王都、カン・バルク。セルシウスと共にこの場所を訪れたのはそう前の事ではない。クエストのために訪れたはいいものの、メインパーティから外されてしまったガイアスとローエンは城の様子を見に出て行ってしまい、ミュゼもまた、二人に付いて行ってしまった。残されたジュードとミラは宿でのんびりと待っていようという話でまとまったのが今朝の話だ。そういえば買い物があったからちょっと出かけてくるねと出て行ったジュードを、ミラは手持ち無沙汰の間本を読みながら待っていたというわけだった。
「そういえば、ジュードは何を買ってきたのだ?」
見慣れた白衣姿に戻ったジュードに小首を傾げてミラが訊ねる。そんなミラの様子に笑いながらジュードは返事を返した。
「実は、これを買ってきたんだ」
そう言って差し出されたのは、『カン・バルク銘菓』と書かれた小さな小箱だ。黒と赤の高級感のある箱の中には、見慣れたパーティメンバーのデフォルメされた顔が印刷されている。
「おお、これはかの噂の『ガイアス饅頭』ではないか!」
「ミラ、一度食べてみたいって言ってたでしょ? 今からお茶でもしよう」
「素晴らしい。さっそく準備をしよう」
そう言っていそいそとミラは立ち上がる。分かりやすく食べ物に浮かれる背中を可愛いなあと思いながら、ジュードは部屋に備え付けられていたポットを手に取った。惚れた欲目とはよく言ったもので、ミラが嬉しそうにしているだけでジュードもまた浮き足立ってしまう。これだけ喜んでくれるのなら、買ってきた甲斐もあるというものだ。
豪快にパッケージの包装を破くミラの背中をニコニコと眺めながら、ジュードはポットにお湯を注ぎ、備え付けられていたティーパックを慣れた手つきで詰めた。部屋の中にふんわりとお茶のいい香りが漂い始める。
「ジュード」
「まだ。蒸らすのにもうちょっと待って」
「まだ何も言ってないぞ」
「ミラの言いたいことくらい分かるよ」
「……君は何でもお見通しだな」
ふふふ、と微笑むミラの表情にまたどきりと心臓が音を立てる。セルシウスと共に各地を巡ってからというもの、こうしたミラの何気ない仕草に胸が高鳴ることが増えた気がする。
……その原因は分かりやすいくらいに、分かっていた。人間であるハオ博士と精霊であるセルシウスの種族を超えた結びつきを知って、僕は期待してしまっているのだろう。ミラと、僕の関係もまた……もう一歩進んでもいいんじゃないかって。
小さなテーブルの上に、買ってきた饅頭を並べてミラはわくわくと楽しそうだ。そんな彼女の前に淹れたてのお茶を並べれば、期待に満ちた眼差しが向けられる。
「はい、どうぞ」
湯気の立つお茶を並べれば、ミラは待ちきれないといった様子で饅頭を手に取った。あっという間にガイアスの顔が、綺麗に半分欠けて無くなる。なまじモデルとなった本人を知っているが故に、かなりシュールな光景だ。もぐもぐとハムスターみたいに頬を膨らませて饅頭を頬張るミラは、妙齢の女性の行動とはとても言い難いのだけど。
(可愛いなあ)
しみじみとそう思ってしまうのは、やっぱり惚れた欲目というやつなんだろう。
ミラは夢中でガイアス饅頭を食べていた。ガイアス饅頭の中身は、まろやかな酸味のケチャップ味だ。饅頭の中にわざわざ赤色を仕込むあたりが芸が細かいというかなんというか。小さく苦笑を漏らせば、もぐもぐと咀嚼しているルビーの瞳と視線がぶつかる。
「ジュードも食べるといい」
買ってきたのは僕なのだけれど堂々と言い切るミラの風格に、思わず頂こうかなと返事を返してしまう。いいんだ。ミラが幸せそうなら僕はそれで。
「あ」
ふと、ミラの頬に鮮血のようなケチャップが付いていた。ガイアスの成れの果てというのはこの際考えないようにする。白い頬に赤いケチャップが線を引いているのを、指先でそっと拭い取る。
「ミラ、付いてたよ」
「おお、すまな……」
何の気はなしに、指先で拭ったケチャップを口に含んだ。それを見たミラの表情が不自然に凍る。そうして薄らと頬を薔薇色に染め上げて僕の口元に向けられた視線を見て、僕もようやく自分が何をしたのか自覚した。
カーッと耳元まで熱が灯る。ぼ、僕、今ミラに……。恐る恐る視線を上げなおせば、頬を染めたミラの視線とぶつかる。僕だけじゃなくて、ミラも照れているんだ…………って、え? ミラも?
「ミ、ミラ?」
「な、なんだ。ジュード」
「ミラも照れて……?」
「私もよく分からないのだ。きみがケチャップを食べるのを見て……その、胸がモヤモヤとするというか、何と言ったらいいか……」
ああ、もう、これはいったい何なのだ。モゴモゴと煮え切らない口調でミラが言葉尻をすぼめていく。
落ち着かなさそうに体を揺するミラの仕草に、胸を鷲掴みにされたような感覚に陥った。駄目だ、ミラ、可愛すぎ。
「じゅ、ジュードっ」
少しだけ慌てたようなミラの声がすぐ傍で聞こえる。
だけど、知るもんか。だってミラが可愛いのがいけない。こんな風に不意打ちで、こんな風に僕の知らない表情を出してくるミラが悪い。
堪えきれずにぎゅうっと抱きしめた体は、信じられないことにすっぽりと僕の腕の中に収まっていた。一年前、焦がれて焦がれて、ずっと後を追いかけてきた背中がこんなにも小さなものだったなんて。それに信じられないような思いをしながら、抱きしめたミラを見下ろせば、彼女の頬はさっき以上に紅く染まっていた。
「ミラ、可愛い」
思わず零れ落ちた吐息に、ミラがぴくんと小さく跳ねた。腕の中にいるからこそ、ミラの何気ない仕草一つ一つが手の取るように分かる。恨みがましそうな瞳で、こちらを見つめてくる視線だって。
「……君はずるい」
「どうして?」
「私ばかりが動揺しているように思える」
「そんなことないよ。……ほら、僕の胸だってドキドキしてる」
「本当に?」
「僕がミラに嘘言うわけないでしょ」
「……それもそうだ」
ことり、とミラの頭が僕の胸の上に落ちる。そうして暫くの間、胸に耳を当てていたミラが、嬉しそうにぽつりと呟いた。
「本当だ。ドキドキ言っている」
「うん。ドキドキしてる」
顔を見合わせれば、こそばゆい様な、そんな不思議な感情が湧きあがってくる。そしてそれは多分、ミラもおんなじだ。
「君に抱きしめられると落ち着かない。……だけど不思議な安らぎがある」
細い腕が、背中に回される感触。そうして体重を預けてきたこの可愛い生き物は一体なんなのだろう。胸を撃ち抜かれるような感覚は、瞬間的に衝動に替わった。思わずミラの肩を抱いて、不思議そうに揺れるルビーの瞳を真正面から見定める。狙いを定めた唇は、桜色に色づいていて触れたらきっと柔らかいんだろうなと思った。
「ジュード……?」
不思議そうなミラの表情が、ちくりと罪悪感を刺した。でも、ここで引き下がるのは男が廃る。そう自分に言い聞かせて、ミラの瞳を真正面から見た。
きっと今、僕の頬は熟れたトマトみたいなことになっているんだろう。そんなことを頭の隅っこでぼんやりと思いながら、確かめるようにしてミラの名前を呼ぶ。
「ミラ……」
「……ジュード?」
不思議そうな声を出すミラの唇を僕のそれでゆっくりと塞いでいく。驚いたように丸められたルビーの瞳がすぐ傍にあった。ずるいことをしたという罪悪感が胸を刺す。けれどもそれは、ミラの閉じられた瞳によって呆気なく吹き飛んでしまった。
ただ触れるだけのキスが名残を惜しむかのように離れていく。余韻を残して見つめれば、煌めくルビーの瞳と視線が交差した。ミラは、こんな時で僕を真正面から見つめていた。ただ、まっすぐに。
その透き通った視線を自覚した瞬間、吹き飛んでいた罪悪感が勢いを増して僕の肩に伸し掛かかってきたことを自覚した。ミラは純粋な気持ちで接してくれていたというのに、僕はなんて邪なことを考えてしまったのだろう。
「ご、ごめんっ! ミラっ!」
「何を謝っているのだ?ジュード」
「だって、ミラに僕……っ…もしかして嫌だったり……」
ミラの顔を見ていられない。思わずしゅんと項垂れた僕の顎に添えられた手のひらがあった。
「私が君のすることが嫌なわけがないだろう?」
頼もしいほどはっきりとした口調でミラが断言する。
そんじゃそこらの男よりも男らしい頼もしさに、思わず胸がきゅんと音を立てた。……っていやいやいや!?そ、そうじゃなくって!
「これが『口付け』というものなのだな。本では見たが、実際にするのは初めてだ」
そう言ってミラはソファの上に伏せてある本に視線を向ける。片手で胸に手を抑えながら、ミラは噛み締めるように呟いた。
「不思議なものだ。……この高揚感。ただ、唇と唇を重ねあわす行為だと言うのに、私の胸は張り裂けそうなくらい脈打っているよ」
「そ、そんな実況はしなくてもいいから……」
具体的すぎるミラの言葉に、思わずジュードの方が赤面してしまう。
……でも、本当に良かった。キスをしたことが嫌だったわけじゃないみたいだ。
「では次は、『深い口付け』というのを試してみよう」
「………………えっ?」
ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、ミラの口から思わぬ単語が飛び出してきたような気がして、ジュードは表情を硬直させた。
「み、ミラ……?」
「本に書いてあったぞ。『口づけ』の次は『深い口付け』。そして、身体への接触。お互いのせいしょ「うわああああああああああああああ!!!?ちょっとミラ何言ってるの!!!!????」
「人間とはそのようにして、愛する者と子を成すのだろう?また、子を成すことが目的でなくとも、互いの愛情を確かめ合う行為だとも知ったぞ」
さらに真っ赤になるジュードとは対照的にミラの方はケロリとした表情で、衝撃的なことを言ってのける。その言葉の中に愛する者だとかなんだとか混じっていることに、余計にクラクラとしながら、ジュードは煮えたぎる思考の中で必死に思考した。
「み、ミラ。さっき読んでた本ってもしかして……」
「うむ。写本であるが、昨日ようやく古本屋で見つけたのだ。『男と女の夜の駆け引き~飛翔編~』だ!」
今まで薄らとしか理解できていなかった男と女の情事が、細部に至るところまで綿密に書き記されていて、非常に興味深かった。とかなんとか言っちゃっているミラの言葉に、ジュードの方はと言えば、やっぱり……!という思いが広がっていく。ミラが突然、男女の交わりについて語りだすなんておかしいと思ったのだ。
「さあ、ジュード」
ずずい、と身を乗り出したミラにじりじりとジュードが後ずさる。とは言え、まさかこんな事態になろうとは思ってもみていなかったので、部屋のベッドに足を取られ仰向けに倒れ込んでしまった。そんなジュードの逃げ道を塞ぐかのように、ミラの両腕がベッドの上に立てられる。
「ちょ、ちょっと待って、ミラ。僕たち今キスしたばかりだよね? またステップ的には一つ階段登ったくらいだよね?」
「君となら一足飛びで階段を駆け登ろう」
「そ、それは嬉しいけど。あのねミラ、こういうことには心の準備というものが……」
あれ、これって普通逆なんじゃない?
眼前に迫る、というかもう完全に押し倒されている状況になっているジュードは、モゴモゴとした言い訳めいた口調で抵抗した。
「私とでは嫌か……?」
抵抗するジュードを目にして、目の前のミラがしゅんと項垂れる。ハの字に変わってしまった眉根と寂しそうな横顔に、ジュードは反射的に声を荒げた。
「そんなことないよっ!」
「ジュード?」
「ぼ、僕だってミラとそういうことしたいって思って……うわぁ!?」
瞬間、首元に回されてきた腕と柔らかな感触に、ジュードは驚きの声を上げた。
「嬉しいぞ」
分かりやすいくらいにミラのチャームポイントが揺れていた。寂しそうにしたり、嬉しそうにしたり、本当にミラは目まぐるしく表情を変える。それは僕の前だからだなんて自惚れてもいいのだろうか?
「……仕方ないなぁ」
これも結局のところ、惚れた欲目というやつなんだろう。
「幸いにして、今日は皆帰ってくるのが遅い予定だ。君と密事を行う条件としては申し分ない」
そうしてにっこりと微笑んだミラは、至近距離まで顔を近づけて囁いた。
「好きだよ、ジュード」
"Like"じゃなくて"Love"のニュアンスで伝えられたその言葉に、ジュードの胸は分かりやすすぎるくらいにドキリと音を立てた。
ミラはずるい。いつだって僕の感情を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、どんどん先へ行こうとしてしまう。隣に立って一緒に歩けるようになったかと思えば、この胸に芽吹く感情の名前にようやく気が付いた僕より先に前に進んでしまおうとする。そんなミラだからこそ惹かれたっていうのもあるけれど、それでいいのかという複雑なオトコゴロロというものがありまして。
「……本当にいいの?」
「勿論だ。知的好奇心もあるが、それ以上に君に触れてみたいという欲求が私の中にある」
ルビーの眼差しはあくまで真剣だった。もしかすると、ミラなりの覚悟があってのことだったのかもしれない。
手のひらを胸に置いたミラが瞼を閉じてそっと囁く。
「君と私の間には、すでに言葉で交わす以上の繋がりがあることは知っている」
たった一年。されど一年。触れ合うことのできなかった時間に降り積もった想いがゆっくりと溶け出してゆく。
「精神面で私はとても満たされていると実感しているよ。……だからこそ、この本に書いてあることは衝撃的だったのだ」
ソファの上に伏せられた本を一瞥して、ミラはジュードへと向き直った。
「精神の繋がりをより強固にし、互いの存在を実感する最も効果的な手法。物理的な触れ合い。私はそれを君と確かめ合いたいのだ」
じっとジュードを見下ろしてくるミラの頬は心なしかほんのりと淡く色づいている。ルビーの瞳の奥に小さな揺らめきを見つけて、ジュードの胸はきゅうっと鷲掴みにされたような感覚になった。
ともすればその整った美貌から冷たい印象を持つことすらあるミラの表情は、どこからどう見ても恋に悩む女性だった。そしてそんな表情を目にすることが出来るのは自分だけだという確信にも似たうぬぼれに溺れてしまいそうになる。
「ミラ」
すぐ傍にある彼女の腰に、そっと腕を回した。触れた指先は温かい。それがたまらなくなって、ベッドの上に座り込んだミラをぎゅっと抱きしめた。
「……いいんだね」
確かめるように告げた言葉に、こくりと小さく頷く。その金色の髪の中に思わず頭をうずめると、お日様みたいな匂いがした。ふわふわとした柔らかい髪の毛が、頬をなでるのがくすぐったい。真っ直ぐな意志を持つ持ち主の気質とは違い、気まぐれに跳ねる髪の感触すらも愛おしい。
手のひらで撫でると、ミラは気持ちよさそうに瞼を閉じた。その無防備な唇に吸い寄せられるかのようにして唇を寄せる。
「……ん」
小さな吐息が零れ落ちた。
触れて、離れて。また触れて。次第に深さを増してゆく口付に酔いしれていく。
不思議なもので、たった一度触れ合うだけでも胸が張り裂けそうなほど緊張していたはずなのに、二度、三度と触れてゆくうちにもっと知りたくなった。
「ん、く……んっ……はぁ…」
ぴったりと重ね合わせた唇の隙間から舌を伸ばせば、無防備な口内へとたどり着いた。いつも美味しそうに食べ物を咀嚼するミラの歯を、順番になぞっていく。表側だけじゃなくて裏側も。それから柔らかく動く舌。その根元にも。丹念に舌を伸ばして形を確かめてゆく。
そんな順番待ちののんびりとしたキスの愛撫に痺れを切らしたのか、ミラの方からも舌先が伸ばされた。口内で絡み合う舌は、まるで軟体動物のように蠢きあう。互いの口内を行き来しながら、二人は互いの口の形を確かめ合った。
「ふっ……むぅ…は………ん、ちゅ」
唇の端から零れ落ちた唾液は、もはやどちらのものなのかも分からない。
それぞれの唇を確かめ合う深いキスは、二人を夢中にさせた。まだ知らない表情を見てみたい。触れ合う心地よさを味わっていたい。お互いの温度を感じていたい。
湧きあがる欲求を抑える枷はとっくに取り払われている。至近距離でぶつかり合ったお互いの瞳の色を確かめて、ジュードとミラは確かめるように見つめ合った。
先に動いたのはどちらだったのか。白い首筋に、唾液で光る唇が押し付けられた。ゆっくりと舌先で形を確かめるようになぞれば、ふるりと小さく体が震える。そんな相手の反応を確かめながら落とし合う口付けのなんと気持ちいいことだろう。
独りよがりの快楽じゃない。それぞれが心地よいと感じる場所を探り合いながら、触れて、確かめて、声を上げて。荒い呼吸で瞳を覗き込めば、知らない自分の顔が映りこんでいることに気が付く。触れたい相手がいるから、変わっていける。それはとても幸福な事のように思えた。
「んっ、ジュード」
何度目の口付けの応酬だろう。肌蹴たジュードのシャツの下、適度に引き締まった胸筋の上に口付けを落としたミラが物足りなさそうに声を上げた。
ミラよりも一回り大きなジュードの手のひらが困惑したように動きを止める。服の上から触れていたその手のひらにそっと自身の手を重ねてミラは告げた。
「ありのままの君に触れたい」
淡く色づいた頬で告げられる言葉の、なんと可愛らしいことか。
「そして、私にも触れてほしい」
「……うん」
「!」
たまらなくなって、ぎゅうっとミラの体を抱きしめた。抱きしめた体は、昔感じたものよりもずっとずっと小さくて、大切なものに思えて……この腕の中にあるものを離したくないと思った。
ちゅ、と伸び上がったミラに音を立てて口付けを落とされる。羽が触れるかのように落とされた口付けは、ミラからの信頼の証だ。その証に応えたくて、ジュードもまた口付けを落とす。
いつしか互いの口付けに夢中になりながら、服をまさぐった。呼吸の合間に捲りあがったシャツを脱ぎ捨て、リボンを解き、ワンピースを落とす。それぞれの体の形が確かめれるようになってからようやく唇を離せば、透明な糸が伝い落ちた。濡れた唇がひどく扇情的だ。
青いガラス玉はそのままに、ジュードもまたミラに倣ってズボンを脱ぎ捨てた。レースのカーテンから差し込む光に照らされたミラの裸体にごくりと唾を飲み込んだ。ありのままのミラの姿は、思わず見惚れてしまうほどに綺麗だった。
「……ミラ」
熱に浮かされたように彼女の名前を呼ぶ。そうすれば、ルビーの瞳が嬉しそうに細められた。
「大切にしてくれているんだな」
ミラの視線が僕の首筋に注がれているのを見て、合点がいく。もうすっかり癖になるほど無意識に触れるようになった青いガラス玉は、外から射し込んできた光を受けて淡い光を放っている。
「ミラの信頼の証だから」
「……ああ」
微笑んだその顔の柔らかさに、思わず見惚れてしまう。
呆気にとられるジュードを余所に、切り替えの早いミラはそっと白い指先で裸の胸を撫でた。
「ん」
ぴくん、とジュードの胸が震える。
一見ひ弱な研究者に見えながらも、きちんと武道家として整っているジュードの体つきには適度な筋肉が盛り上がっている。硬さのある胸の筋肉をそっと撫でながらミラはことりとその上に頭を乗せた。
「ミラ……?」
「君の心音が聞きたいと思って」
優しい口調で告げられた言葉に、どきんと胸が跳ねる。
「どう、かな」
「どきどき言ってる」
「そりゃそうだよ」
ミラの肩に腕を伸ばしたジュードが、寄り添っていたミラの頭を剥ぎ取った。そうして困ったように微笑んで、言葉を続ける。
「だって、ミラすごく綺麗だもの」
「ジュー……んっ」
ミラの表情が切なげに歪む。
ジュードの大きな手のひらが、そろりとミラの脇腹を撫でたのだ。そのラインを辿って行くかのように、腰から臍へと熱い指先が揺れてゆく。
まるで触れられている所が発火でもしてしまいそうだ。思わずそんなことを思いながら、ミラはジュードの指先の動きを静かに見守っていた。
ジュードの手のひらの動きは、愛撫というよりは寧ろ形を確かめるようなものだった。首筋、肩、脇腹から腰、腹。ミラの肌の感触を確かめていくように、少しずつ触れてゆく。……自身のものではない刺激の心地よさに瞼を閉じながら、ミラは肝心なところに触れないジュードの指先に気が付いた。
「ジュード」
ジュードがどう考えているのか――――薄々は気が付きつつあるも、それを可愛らしいと思うよりは触れてもらえない不満の方が先に立つ。
まどろっこしくなって、ミラはジュードの指先を掴んだ。そのまま、一番触れてほしかった欲求に素直に従い、手のひらを自身の乳房の上に運んだ。
「み、ミラっ」
「ここも触ってほしい」
慌てたようなジュード顔を真正面で見つめてそう言い放てば、彼は真っ赤になって俯いた。しかし、本能というものはどうやら正直者らしい。乳房の上に置かれた手のひらにはじんわりとした力が込められていた。
「ほ、ほんとにいいの……?」
ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた。耳まで真っ赤になっているジュードに胸を逸らしてミラは宣言する。
「私が許可する」
その堂々たる振る舞いに呆気にとられたのはジュードの方だ。ぱちぱちと瞬きを繰り返した後、確かめるようにミラを見上げて呟いた。
「本当の本当に……?」
「私がいいと言っているんだ。それとも君にとって私の胸には魅力はないか……?」
「そ、そんなことないよっ!ミラのむ、胸はすっごく柔らかくって……その」
「だったらもっと、君が思うがままに触れるが……あ、ん」
ふにゃり、と乳房の形がジュードの指の動きに合わせて沈んだ。
ミラの言葉によって最後の枷が外れたジュードは、一心にミラの豊満な乳房に指を埋めた。時に救い上げたり、押しつぶしたり。思うがままに動かせば、ミラの乳房はジュードの指先通りに形を変えた。想像以上の柔らかさと、きめの細かさに思わず夢中になって触れてゆく。
「ん、ちょっと痛いぞ……」
「あっ、ご、ごめん」
初めての感触に夢中になりすぎるあまり、どうやら加減ができていなかったらしい。
指先に込めた力を少し弱めて、もう一度胸に触れてゆく。恐る恐る見上げたミラの表情は、切なげに歪められていた。ハの字になった眉に、桜色の唇からは悩ましいため息が零れ落ちる。ミラが胸への愛撫に感じ始めているのは、一目瞭然だった。その事実はジュードを発火させるかのように熱くさせていく。
「あっ……ふぅ、んん……!」
次第に尖り始めた桜色の果実に、吸い寄せられるかのように唇を寄せた。
ぷるりと震える胸の先端は、口に含めば柔らかな弾力で押し返してくる。舌先で柔らかくつつき、時に吸い付けば、ミラの唇からは悩ましい嬌声が滑り落ちた。
「あ、はっ、んんっ」
堪えるように噛みしめられる声をもっと聞いていたくて、乳房を舐め上げながら息を吹きかける。
「声、聞かせて」
「じゅー、どっ」
いつもの声音よりも高さのある声で返される名前の響きに、背筋をぞくぞくしたものが駆け上がってゆく。
どうしよう。可愛い。抱きしめたい。
衝動的に抱きしめれば、ミラもまたしがみ付くように腕を回してきた。密着した体温に溺れてしまいそうになる。抱きかかえるようにし腕が回された頭は、ミラの胸へと寄せられた。鼻先にある胸の膨らみへ再び唇を寄せれば、ぴくぴくと白い体が跳ねる。
唇から零れ落ちる声はどれも甘くて、そんなミラの声がもっと聞いていたくて。形を変えて受け止めてくれる胸の先端の……ミラの敏感な所を歯でそっと柔らかく噛んだ。
「んああぁっ!」
途端、ミラの唇から一際甘い嬌声が零れ落ちる。
小さな子供のように首を振りながら快楽に震えるミラの胸に唇を寄せれば、一層甲高い声が零れ落ちる。それがたまらなく可愛かった。
「やっ……はぁっ、ん、あっ…じゅーっ、ど……」
途切れ途切れに零れ落ちる吐息も何もかもが甘い。
刺激を待つもう片方の胸にもと先端部を優しく摘まめば、すでに十分すぎるくらいに充血したそこはツンとした弾力を持って跳ね返してくる。
「あっあっ、ん、はっ、ダメだっ……んんん……っ!」
その声と共に、ミラの背が弓なりにピンと跳ねた。
そうして僅かな硬直の後、どさりと音を立ててシーツの中に金糸の様な髪が散らばる。荒い息と共に見上げてくる瞳は、僅かに潤んでいてまるで何かに媚びているようだ。思わずどきんと心臓が強く脈打った。
「……じゅ、ど……」
「もしかして、ミラ、今……?」
「今のが……軽い絶頂という感覚、か……?」
ふう、と髪を掻き揚げたミラの首筋に汗が伝う。零れ落ちる吐息は、先ほどの余韻を孕んでいたのか甘かった。
「ジュードはうまいんだな」
「わ、分かんないよ。でも多分、ミラが敏感なんじゃないかな」
「そうなのか?」
「うん、そうだと思う」
だって、ほら。
ツン、と指先で胸の先端部に触れれば、途端ミラの表情が悩ましげなものに変わる。それに思わず笑みを深くして、囁いた。
「ほら」
「新しい発見だ。君は意外にいじわるなんだな」
「ミラだけに、ね」
「……ああ」
向き合えば、締りのない笑みが零れてしまう。
この人のことが好きだ。今日この手で触れたこと、触れ合ったこと、きっと忘れられないと思う。
「ジュード」
起き上がったミラがジュードの肩に腕を伸ばす。思いの他逞しい肩がしっとりと汗ばんでいることに気がついて、ミラはまた小さく微笑んだ。
こくりと頷き返したジュードが、向き合って座ったミラの太ももに触れた。手のひらに吸い付くようなきめ細やかな肌は、適度に絞られている。かと言って痩せすぎているわけでもなく、程よい肉付きでジュードの手の中に収まった。
形を確かめるように太ももを撫で、そのまま尻へと辿っていく。まろみを帯びたその場所を少しだけ強い力で押せば、柔らかい弾力が返ってきた。揉み上げ、撫でてみれば、もどかしそうにミラは腰を振った。
「んっ」
ぱたり、と小さな音がした。
なんだろうと視線を下へ向ければ、シーツの上には透明な染みがいくつも出来上がっていた。目を凝らして見てみれば、ミラの太ももの内側には透明な筋が幾筋も道になっている。流れるような動きでその筋を辿り、泉の源泉へと指を這わせれば、そこはすでにぐっしょりと濡れそぼっていた。
「すごい。ミラ、とろとろだ」
「はぁ……ん、じゅーど」
「感じてくれたの?」
耳元でそっと囁けば、ぴくんとミラの肩が跳ねる。
困惑した瞳は、快楽に濡れている。そのルビーの瞳に吸い込まれるようにして、目尻に口付けを落とした。ちゅ、と音を立てて落とされたそれに、ミラがくすぐったそうに瞼を閉じる。そうしてまた、二人は口付けを交わしあった。
唇から伝い落ちる唾液が鎖骨の窪みに零れ落ちる頃になると、ジュードの手のひらの動きは随分と大胆なものになっていった。
泉の表面を撫でるような手のひらの動きは、次第に激しさを増して、水面を掻き回す。すでにとろとろに蕩けきった蜜壺は、ジュードの指を加え込むかのようにして奥へ奥へと誘っている。
「んっ、ふっ……ぁあっ」
手のひらをぐっしょりと濡らすほどの愛液を潤滑油として、一本、また一本と挿入する指の本数を増やしていく。
初めて知る快楽の波に、ミラの目じりには涙が浮かび上がった。与えられる快楽に震えるミラの泣き出しそうにも見える表情がたまらなく可愛いらしくて、まるで猫にでもなったみたいに目尻に、鼻先に、頬に、唇に。口付けを順番に落としていく。
応えるように伸ばされた腕が、ぎゅっとジュードの頭を掻き抱いた。そんなミラに応えるように、ジュードもまたぶつかるような口付けを交わしながら、挿入を繰り返す指先の動きも加速してゆく。
「ふぁっ、ん、ぁっ、あっあっ、あああ……っ!」
断続的に上げられるミラの喘ぎ声が、ジュードの耳殻を激しく叩いた。
くちゅくちゅ、ぬぷぬぷと粘着質な水音の立てる音と相まって、焦がし尽くすような熱量がジュードの胸に押し寄せる。
ミラをもっと感じさせたい。可愛い姿を見せてほしい。もっと、もっと。
この欲望の先は、まるで留まることを知らないようだ。溢れてくるミラへの想いを止める理由もなく、三本に増やされた指先を彼女の中に一際深く埋めた。そうして最後の仕上げと言わんばかりに、ぷっくりと隆起した新芽を親指で弾く。
「ふぁっあああ―――――っ!」
一際高い鳴き声を上げて、ミラは白い喉を逸らせて大きく跳ねた。
先ほどのものに比べて少しだけ長めの硬直の後、ミラは肩で大きな息を吐きながらくったりとジュードの肩に寄りかかった。吐き出されるため息の一つ一つが甘い。頬に張り付いた髪の毛を指でそっと拭ってあげれば、ミラは蒸気した頬でうっとりと見上げてきた。
「……ジュード」
「ミラ」
名前を呼ぶ。二人の存在を確かめるための響きを。
「いい、かな」
ジュードの分身とも呼べる『それ』は肉の快楽を求めてとっくの昔に、肥大化している。欲望のままに貫きたい衝動を何度も飲み込んだ肉棒は、張り詰めて張り詰めて今にも爆ぜてしまいそうだ。
「ああ」
二度目の絶頂にミラの体は十分すぎるほど火照りきっている。
向き合うようにして座り込んでいるミラの腰に手を添えて、ジュードはすっかり硬くなった肉棒を愛液の滴り落ちる泉へと押し当てた。蕩け切った泉の中は、燃えるように熱い。くちゅりと音を立てて先端部が飲み込まれていく。
「んんっ……」
ミラの中は、まるでジュードがここに訪れることを今か今かと待ち望んでいたかのようだった。
「あっ……くぅ、ミラ……すごいっ」
まだ先端部を挿入しただけに過ぎないのに、ジュードの肉棒に絡みつくかのように収縮し、締め付けてくる。
「キツっ……」
「はあ……ぁん、ん……じゅ、ど……」
「…ミラ……っ」
隙間なんて全部埋めてしまえと言わんばかりに、二人はお互いの体を掻き抱いた。ミラの豊満な胸がジュードの胸板に押しつぶされてひしゃげる。お互いの体温を全身で感じながら、ミラはジュードの鼻先にちゅ、と口付けた。
「私のことは……いい。ん、一気に………貫いて…くれ」
抱きしめられた腕の力が強くなった。そうして僅かな逡巡の後、ミラの中でじれったいと思えるほどゆっくりと進んでいた肉棒は、腰に回された腕の力を使って一気に奥まで差し込まれた。
「~~~~~~っ」
瞬間、ミラの表情が苦悩に染まる。
寄せられた眉の深さに、ジュードが小さくごめんね、と囁いた。ミラの股の間からは、透明な雫に混じって紅い血液が混じっている。――――彼女の初めてを奪ったのだ。言葉に導かれるようにして、一気に。
「……い、い」
抑えきれない快楽と痛みを与えた罪悪感とでまぜこぜになった表情のジュードに、ミラはそっと微笑みかける。
「きみは……十分、すぎるほど………よくしてくれているよ……」
しっとりと汗ばんだジュードの頬に手を添えて、ミラは瞳を細めて言った。
「大好きだ、ジュード」
「………ミラっ」
途端、ミラの中で静かにしていた肉棒がびくりと震えたことが分かった。
余裕が消え失せたような表情のジュードが、堪えきれないように腰を振る。ぐちゅん、と粘着質な音を立てて、一度引かれた肉棒が奥へと捩じ込まれた。
「あぁっ!」
ミラの腰が跳ねる。そのくびれを強い力で掴んだジュードが、また腰を引き、強く打ち付けた。ぱちゅん、ぱちゅんと結合部から擦れ合う淫らな音が響く。まるでミラの中にジュードを刻み込むかのように、深く捩じ込み、引いてはまた押し入れる。
「ん、あっ、はっ、ぁあっん、あっ、あっ」
零れ落ちるミラの悲鳴のような嬌声は、いつしか快楽に蕩け始める。
元々敏感な性質らしいミラが、ジュードの感触に慣れることは時間の問題だったらしい。まるで音を奏でるジュードのためだけの楽器にでもなったかのように、触れられては声を上げ、ねじ込まれては体を揺らす。
「ミラっ……みらぁっ……!」
「あっ、じゅーどっんっ、じゅーどっ!」
余裕のない二人の呼び声が、もう限界なのだと悲鳴を上げていた。
「いっしょ、に……っ!」
ただ、与えられるだけじゃない。ミラもまた腰を振りながら、子宮へとノックを繰り返す肉棒を強く締め付ける。
「ふぁぁぁああああ――――――――っっ!!!!」
白く弾けるような快楽に、目の前がフラッシュバックする。
大きく震えるミラに続くように、ジュードもまたビクンと大きく跳ねた。そうして、ミラの中に温かい何かが注ぎ込まれる。
「はぁっ……はぁっ………んっ…はぁっ…」
くったりとベッドの沈み込んだ体を抱きしめて、ジュードとミラは互いに大きく息を吐き出した。
身動ぎをした拍子に、くちゅりと音を立てて結合部から白濁色の液体が伝い落ちた。透明な滴と交じり合ったそれは、ミラの尻を伝ってシーツへ零れ落ちる。刺激の強すぎる光景に、眩暈がしてしまいそうだ。咄嗟に視線を上げれば、荒いため息と共に濡れた瞳で見上げてくるミラと視線が合った。
「む」
ぴくりと肩を震わせたミラが、何かに気が付いたように声を上げた。
「また大きくなったぞ」
「そ、それは……」
声に出して言われると流石に恥ずかしさが増す。とは言っても彼女が言う通り、ジュードの分身とも言える相棒はすっかり元気を取り戻して、ミラの膣内で起き上がっていることは隠しようもない事実だった。
「……ミラが、その」
「ん?どうした、ジュード」
「すごく……えっと、色っぽいから……僕も…」
ごにょごにょと尻すぼみになってしまうのは、一度欲望を吐き出して、僅かばかりでも理性を取り戻してしまったからに他ならない。今までミラに投げかけた言葉の数々を思い出してしまって、ジュードは真っ赤になった。真正面からミラの視線を受け止めていられない。
「ふふ」
そんなジュードを愛おしいものを見るような眼差しでミラは見つめていた。
「君は可愛いな」
「み、ミラの方が可愛いよ」
「そうか?」
「そうだよ、絶対」
薄らと頬を染めてそれでもはっきりと言い切るジュードに、ミラは柔らかく微笑み返した。
彼はこのやりとりが堂々巡りなものであることに気が付いていないだろう。日頃は聡明な彼も今は正常な思考回路を保てていないらしい。それがなんだかおかしくて、そしてまた、愛おしい。
「今度は私が主導しよう」
「え、ミラ……?」
「君のここはまだ物足りないのだろう?」
ふふふと微笑めば、ジュードは熟れた林檎のように真っ赤になった。先ほどの赤面の比ではない。恥ずかしそうに視線を逸らすその頬に手を添えて、ミラはジュードの耳たぶに口付けを落とした。
ジュードと交わす口付けが好きだ。そして、与えられる口付けも。自らが与える口付けも。
未だ繋がり合ったままの結合部にそっと手のひらを添える。体を捩って、中へと入り込んだジュード自身を抜き取った。
「……んっ…」
にゅるりと糸を引きながら離れた肉棒に、少しだけ寂しさを覚える。
最奥まで入り込んで、お互いがお互いを確かめ合った先ほどの行為を体がまだ覚えているのだろう。体の中心がぽっかりと空いてしまったような感覚に気がつかない振りをして、ミラは離れたジュード自身にそっと触れた。
そう。何も案ずることはない。物足りないのであれば、また繋がればいいのだから――――…。
優しい指使いでミラはジュードをシーツの上に押し倒した。服の下に隠されていた、思った以上に逞しい体が期待に震えて上下している。それに小さく微笑んで、ミラはジュードの下半身にのし掛った。そのまま堅さを保っている肉棒に手を添えて、泉の中へとそっと宛てがう。くちゅりと粘着質な音を立てて、先程までそこに収まっていた肉棒はミラの中へと侵入してきた。
「あっ……」
ぬぷぬぷとジュードの肉棒はミラの膣の中へと押し入ってくる。恐る恐る腰を落としながら、ミラは体の中をジュードで満たしていく幸福感に小さく身を震わせた。見下ろしたジュードの表情は快楽の色に染まっている。頬を上気させてぎゅっと瞼を閉じているので、その綺麗な琥珀色の瞳を確かめることができないのが残念だ。
「ジュード」
そう思ったと同時に、声が零れた。
「ジュード」
「………ミラ?」
「目を開けて欲しい。君の瞳が見たいんだ」
その声に導かれるようにして、ジュードが驚いたように瞳を丸くする。綺麗な琥珀色だ。真っ直ぐに見つめるミラの視線に応えるように見つめ返されるジュードに触れた。
「……ありがとう」
ビクン、とミラの中に埋まったジュードが脈打った気がした。
んっ、と甘い声がミラの唇から漏れる。ジュード自身はすでにほとんどミラの中に埋まっている。感覚がダイレクトに伝わるのは道理だろう。
そのまま中へと収まったジュードから一度腰を引く。そうして重力に従って腰を落とせば、淫らな水音と共にジュードの肉棒が最奥まで差し込まれた。
「はぁんっ!」
その刺激の強さにクラクラとする。先ほどの余韻が残っている体には十分すぎるほどの刺激だ。
震える腰で少しずつ挿入を繰り返せば、熱っぽい眼差しのジュードが見上げている。
「ミラ……ん、もっと……」
応えるようにして、腰を動かした。さざ波のように引いては、押入れ、時に浅く、そして深く。
ぐちゅぐちゅとお互いが繋がりあった結合部からは、白濁色が混じった雫が零れ落ちる。玉のような汗がジュードの肌の上に浮かび上がっているのを見て、ミラの胸はどきりと音を立てた。
ジュードのこんな表情を引き出しているのは私なのだ。独占欲にも似たこの不思議な感情。胸の中をこみ上げてくるのは、ただただジュードへの強い想いだった。
「ふっ……ん、あぁんっ…やぁっ……じゅっ……」
「ミラ……っ…」
もはや動いているのはミラだけではない。のし掛られているジュードもまた、刺激を求めてミラの腰を突き上げる。自身の動きに加えて、下からも予測不可能な突きが入ってくるのだ。痺れるような快楽が背筋を突き抜けるのに、ミラの体はビクンと大きく跳ねた。
「ふぁっ!やぁんっ、じゅーどっ、あぁっ」
「……ミラ…っもしかし…て……こっちのほうがいい……?」
「んっ、分からなっ……ふぁんっ!だが…っ感覚が……んぁあっ!」
突き上げる腰の動きに合わせて、ミラの豊満な胸が揺れる。
ガクガクと揺れるミラの腰を、ぐっと掴みながら、ジュードはより狙いを定めてミラの奥まで肉棒を差し込んだ。
「ああぁっ!!」
「……んっ…!」
ミラの中は熱くて熱くて蕩けてしまいそうだ。
ジュード自身に襞の一つ一つが絡みつき、吸い付いてきて離れない。ぴったりと咥え込んだままま収縮して、奥へ奥へと誘おうと蠢いている。先ほどの行為よりもさらに絡みつくようなミラの中は、着実にジュードの形に合わせて姿を変えていた。それはジュードのことだけを想い、共に快楽に上り詰めようとするミラの意思に他ならない。
「みら……っ!」
たまらなくなって名前を呼んだ。
掴んだ腰を引き寄せて、突き上げる。そうすれば、甲高い声を上げながらミラもまた潤んだ瞳でジュードを見下ろした。
「じゅーどっ、じゅーどっ!」
知らない感覚に怯えるようにミラが大きく頭を振る。
「ぁっ、なん…だっ……んんんっ、あっふぁっ、さっきと……ぜんぜんっ……!」
「もっとっ……かんじて……僕を、みらのっ、なか、でっ…!」
「ひぁんっ!あっ、ふぁっ!やぁんっ!」
「みらっ、みらっ」
「じゅーどっ、あっ、んんっ、じゅーどっ!」
パンパンと打ち付ける音が室内に響き合う。行為とそれを見てしまえば、生殖のための男女の交わりだ。けれどただの生殖活動として呼ぶにしては、その触れ合いは蕩けるほどに甘くて切なくて、お互いがお互いを確かめ合う大切な意味を持っていた。
精神的な繋がりをより強く感じるための、物理的な触れ合い。ミラが一番最初に確かめたいと言った、言葉にならないそれは、胸の内で激しい濁流のように渦巻いている。
もっとこの人のことを感じていたい。深いところで繋がり合いたい。気持ちよくなりたい。気持ちよくなって欲しい。
ただ、その想いに突き動かされるようにして腰を振る。熱く溶け出してゆく思考回路の中で、お互いのことだけを感じながら。
「ぁっああっあああああああああああああああぁぁああ――――――――――――っっっっ!!!!!!!!」
激しい渦の中に飲み込まれてゆく。
伸ばされた手のひらが掴んだのは、指先だ。お互いの指を絡め合った二人は、強い力で握り締めながら絶頂を迎えた。
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