2013.07.08 執筆

生クリームアダルト裸靴下

「お誕生日、おめでとう!」
パァン、とクラッカーの音が鳴り響く。
歓声と拍手が溢れる中、懐かしい顔ぶれに囲まれて、ジュードは照れくさそうに鼻の頭を掻いた。
「ありがとう」
落ち着いた口調で告げられた声は、ここに集った仲間たちが出会った頃より一オクターブほど低い。
源霊匣研究者として若くして名を馳せたジュード・マティスは、こうして4年前旅した仲間に祝福されながら20歳の誕生日を迎えた。

「早いものです。ジュードさんももう20歳になったんですね」
ジジイもヨボヨボになるわけです。ほっほっほと朗らかに笑うローエンは、以前よりもむしろ若返って見える。ガイアスの元で宰相として重んじられるようになり、その成果が着実に報告されるようになってきた自信からなのだろう。優雅な立ち振る舞いは元からのものではあったが、今のそれには内側から輝くようなエネルギーが加わっているように見える。
「わたしの方が一足早かったけど、ようやく一緒になったね」
「いいなー。ジュード、これで堂々とお酒飲めるんでしょ?」
「エルとエリーゼと酒を囲めるのは、まだちいっとばかり先だもんなぁ」
レイア、エル、アルヴィンがジュードを前に明るい声を上げる。
4年間という時間は、決して短い時間ではない。それぞれの立場からそれぞれの道を歩んだ仲間たちは、暫く見ないうちに随分変わったように思えたけれど、その本質は変わっていないらしい。
「わたしも早くお酒飲んでみたーい!」
手を挙げて自己主張するエルを嗜めるように、エリーゼが静かな声を上げる。
「エルにはまだ早いです。それに、こういうのは順番ですよ」
「またエリーゼが子ども扱いするー。いいじゃん、気になっただけだし!」
「そりゃあ仕方ない。まあ、焦らず待ってりゃいいさ」
「ずーるーいー!」
くっくっくと楽しそうに笑うアルヴィンに、エルは両手を挙げて抗議の声を上げた。そんなやりとりに、エリーゼはくすくすと微笑む。他愛もないことで盛り上がるこの流れも、ずいぶん久しぶりだ。それに懐かしさを覚えながらジュードはふんわりと微笑んだ。
「ジュード、嬉しそうですね」
「うん。ガイアスは残念だったけど、ローエンもエリーゼも、アルヴィンもエルもみんな集まってくれた」
「なかなかこういう機会がないと集まれないもんな」
「だから嬉しいんだ」
4年前旅した仲間は、今は散り散りになってそれぞれの道を進んでいる。第一線で活躍する仲間たちと気軽に会うことはずいぶん難しくなった。だからこそ、タイトなスケジュールを調整してまで集まってくれたことがこんなにも嬉しい。
「おめでと、ジュード」
「ありがとう、エル」
出会った頃に比べるとお姉さんの顔つきになってきたエルに微笑んで、ジュードは返事を返した。
「よっし、じゃあ乾杯の準備でもするか」
「わたしオレンジジュース!」
「はい。ちゃんとエルの分入れておきましたよ」
「じゃあ、私はエリーゼの分入れてあげる」
「20歳になったジュードくんはこっちな」
微笑ましい女性陣を尻目に、前振りとしては十分だったな、とにやにやと相好を崩したアルヴィンがテーブルの上に置いたのは、一本のワインだ。
「おお、これはハ・ミルの名産」
「パレンジワインだよ。いいやつが手に入ったんだ」
一目で目を輝かせたローエンは、アルヴィンの持ってきたものの価値を知っていたのだろう。これは上等のですよ、とこっそりジュードに耳打ちをする。
「でも僕、お酒はあんまり……」
「固いこと言うなって! 晴れて酒が飲めるようになったんだ。ちーっとばかし羽目くらい外そうぜ」
「わたしも飲みたい~!」
しゅばっとレイアが挙手をする。そんな勢いのいいレイアに気を良くしたのか、ワイングラスを片手にアルヴィンは声を上げた。
「おう、飲め飲め。せっかく持ってきたんだ」
「では私も」
ちゃっかり便乗するローエンはいつも通りだ。
「アダルト組は酒飲みながらしっぽりやろうぜ」
ジュードの肩を抱きながら、にやにやとアルヴィンが相好を崩す。随分悪い顔をしているので、これは酔い潰してしまおうという腹なのだろう。
「潰れるほどは飲まないからね」
「ああ、分かってるって」
絶対分かってない。これは分かってない。
相変わらずのしたり顔のアルヴィンに内心呆れながらも、鮮やかな赤色のパレンジワインに手を伸ばす。面白がってやろうという魂胆はさておき、せっかく誕生日に合わせて用意してくれたものだ。無下にするのも悪いだろう。
「よっしゃ! 皆グラスは持ったか?」
グラス片手に音頭を取るのはアルヴィンだ。
「それじゃ、ジュード博士の20歳の誕生日を祝って、かんぱーい!」
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
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