2017.06.14 執筆
2018.03.03 公開

R&J

 ロミオは激怒した。必ず、かの邪智暴虐なジュリエットを除かねばならぬと決意した。ロミオにはジュリエット達がわからぬ。彼女は機械生命体である。ネットワークに接続し、めいめいがジュリエットであることを主張する。それが、増えすぎたロミオを混乱させた。
「死ねイ! ロミオ! このクソ野郎!」
 アア愛しのジュリエット! 君の罵声が心地よく響くッ!
「生まレタ事を後悔サセテヤル! 来いッ!」
「貴様ニ土の味を味アワセテやる!」
 鈍い音と共に、火花が散る。アームとアームがぶつかり合って軋む音がした。ロミオ達とジュリエット達の激しい戦いの火蓋が、今まさに切って落とされたのだ。
「シネエエエエエエエ!!」
「破壊スル!」
 悲鳴と怒声が交じり合う。爆発音がして、ジュリエットの一体が飛び散った。同じように、またロミオも爆ぜる。
「このクサレ女メ! 世界から消エテ無くなれェエエ!」
「滅びよ! 呪ワレシ男ヨ!」
 最後の一体同士になったロミオとジュリエット。ジュリエットの渾身の一撃が、ロミオの脳天を叩き割るッ!
「バカチンがー!」
 そうして、激しい爆発音と共に。ロミオの記憶回路は愛しのジュリエットの一撃でショートした。

   * * *

「傑作だった」
 言葉少なく、2Bはそう言った。その青い瞳は、先ほど公演を終えたばかりの壇上へと向けられたままだ。
「えー……、そうですか?」
 対する9Sとしては、どうにも2Bの言葉が理解できない。目の前で繰り広げられた、理解不能な機械生命体地の寸劇に口元をモゴモゴと動かしている。
「確かに人類史の、『ロミオとジュリエット』は四大悲劇として屈指の名作だと聞きますけど、この話はアレンジが入りすぎて意味が分からないですよ」
「そうかな」
 唇を尖らせた9Sの言葉に、間髪入れずに2Bが反論する。言葉少ない彼女にしては、珍しい反応だ。
「じゃあ、2Bはどこが良かったと思うんですか」
 劇場には、詰めかけた客(多分サクラだろう)がめいめいに先ほどの寸劇に対する感想を口にしている。2Bと同じように絶賛しているもの、首をかしげているもの、まったく関係なくくるくるとアームを回転させているものと反応はさまざまだったものの、その辺は9Sにとって、正直どうだっていい。ざわめきの残る劇場で、2Bは9Sの疑問に唇を当てて考え込む仕草をした。
「ジュリエットの思い切りの良さかな」
「それ、物語と全然関係ないとこですよね!?」
 間髪入れずに声を荒らげた9Sに、2Bは至って真面目な表情のまま、返答した。
「名演技」
「ごめん、僕、2Bの言ってること時々よく分からない……」
「そうかな」
「そうです」
「じゃあ、そういうことだと思う」
 2Bが顔を上げる。その瞳が名残惜しく壇上を見上げているのを見て、2Bのことは好きだけど、こういうところはよく分からない、と9Sは息を吐いたのだった。
「もう一回やらないかな。……スタンプ台紙貰った、見れるかも」
「また見る気ですか!?」
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