2017.03.08 執筆
2018.03.08 公開

密やかな行為

 窓から差し込む陽光が、図書館の中に細い筋になって射し込んでいた。
 筋は、白い埃を静かに浮かび上がらせている。保管されている書物を劣化させないために本来は遮光されていたはずなのだが、この場所が風化を始めてからというもの、そんなものはお構いなしにと煌々とした光を映し出している。おかげさまで日が当たる手すりやら床材は、その場所だけ白く褪せてしまった。光の位置が変わることもないから、白く褪せたその場所だけが異質に見える。
 4Sは図書館の中のその場所が、なんとなく好きだった。歩く度に立ち昇る細かい埃が光に透けるのも。すっかり白く褪せてしまった床材も。微かに焼けるような日のにおいも。
 だから、多分、彼が彼女のことを好ましく思うようになったのはごく自然なことであったと口にしてもいい。
 歩く度に光に透ける白い髪も。使い古してすっかり薄汚れてしまったその義体も。彼女から微かに香る日のにおいさえも。完璧で、完全であることを理想とするアンドロイドとは何もかもが不釣り合いで、未完成で。それ故に目を惹いた。
 最初に触れたのはいつから? どこから? 気が付いた時には、もうすでに。アタッカーモデル2号に。――A2に、溺れていた。
「ん……」
 ぶるりとA2の小ぶりな胸が微かに震えたのが分かった。達したのだ。後ろから突き上げたものだから、その整った顔立が紅く染まる瞬間を見届けられなかったことは大いに残念ではあるものの、A2の形のいいヒップを思う存分堪能できたのだから、これはこれで悪くはない。
「気持ち良かったよ」
 そうわざと身を乗り出して耳元で囁けば、ちらりと彼女の青玉がこちらを覗く。何かを言いたげで、でもどう口にしていいのか分からないような。そんな顔をしている。
「A2は?」
 わざと彼女を名指しで尋ねてみれば、困ったような気配。存外恥ずかしがりやな彼女は、すぐには返事を返さない。だから4Sは耳元で囁きかけた格好のまま、そろりと癒着した衣服越しに彼女の胸を撫でた。漆黒の上にぷっくりと浮き出た乳首がとてつもなくいやらしく見える。使い古された、旧型モデルの義体だというのに、こうも4Sの欲求をを刺激してくるのだから、A2という個体のポテンシャルの高さを窺い知れる。いや、“A2”だから、というべきなのか。
「わ……」
 もごもごと言いにくそうに口を動かしていたA2が、消え入りそうな小さな声を返す。
「……私も」
「ん」
 恥じらいの入った彼女の仕草は普段の姉御然とした佇まいとのギャップがありすぎて、もうどうにかしたくなるほど(実際にしているのだけど)可愛らしい。
「抜くから、こっち向いて」
 そう囁いて身を引けば、A2から艶っぽいため息が零れ落ちる。伏せられた目元がまたたまらなく扇情的で色っぽい。
 行為をしている最中のA2は、思いがけず従順になる。というより、恐らくこちらの彼女が素の表情なのだろう。そんなA2の表情を知っているのはこの世界に自分きりだと思うと、得意げな気持ちになる。もちろん、そんなことは誰にも言うつもりなんてないけれど。
 体から楔を引き抜かれたA2は微かに身を震わせると、ゆっくりとこちらへと体を向けなおした。つうっと糸を引いている透明なおつゆが陽光に照らされて、きらきらと光っている。
 上気して赤みを帯びた肌も、日に透ける白い髪も、傷だらけのその義体も。何もかもがはっとするほど奇麗だった。
「跨って」
 機能はまだ停止していない。熱を孕んですっかり膨張したその場所を指させば、とろり蕩けた視線が向けられたことが分かった。そういう姿もやっぱり奇麗だと思う。
「うん」
 そろりと降りてきたA2が、4Sの熱に手を添える。
 くちゅ、と粘着質な音が響く。そろそろとA2が腰を落とすと、4Sの熱が再び肉の襞の中へと包み込まれていく。柔らかくて、温かい。機械でできた体なのに、こうしてA2に包まれていると、どうにかなってしまいそうなくらい、気持ちがいい。
 陽の光が射し込んでいる。ゆらゆら。ゆらゆら。陽炎みたいに揺らめく世界の中で、4Sは一際強く、A2を突き上げた。
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