2016.03.06 執筆
2018.03.03 公開

パンイチになってしまったホープ君とみんなのチョコボレース

 こんな、冗談みたいな話があるんだろうか。
 羞恥に真っ赤に染まる頬を隠せるはずもなく、僕はせめて前を隠したくてしゃがみこんだ。勿論それで隠しきれるわけもない。
 ああ、一体どうしてこんなことに。泣きそうになる僕の唇から零れ落ちる音は、声にならない声だった。
「あっ、あの……ライトさん、えっと……」
 ライトさんは呆気にとられて僕を見ていた。
 燦々と太陽の照りつけるグラン=パルスの広大な大地。数日間の埃と汚れを落とすために湖に入ろうとした、まさにその時のことだった。いたずら好きなチョコボが、僕の服を咥えて走って行ってしまったのだ。咄嗟に悲鳴を上げた僕のところへ、誰よりも先に駆けつけてくれたのがライトさんだった。そして、その後の展開は想像に難しくない。
「す、すまない。悲鳴が聞こえたから、何かあったかと」
「そ、そうなんです。チョコボが僕の服を持って行っちゃって……」
「そのチョコボはどこへ向かったか分かるか」
「北の方角へ走って行きました」
「あちゃー。やられちゃったね」
「グラン=パルスのチョコボは好奇心旺盛だからな」
 ライトさんの後ろからはファングさんにヴァニラさんまで顔を覗かせている。ますます身を縮こませた僕の上に、ばさりと大きなコートが被せられた。
「しゃーねーな。うっし、ちょっくらチョコボ狩りに行くか!」
「運が悪かったな。安心しろ、とっとと取り返してくらあ」
 スノウの大きな手のひらが僕の髪をわしゃわしゃと撫でる。そして、サッズさんの頭の上では、雛チョコボがいつものように飛び回っていた。
「そう言う事だ。少しの間、待っていろホープ」
 なんだかすっかり大事になってしまった。けれど、頼もしいライトさんの言葉に僕は頷く事しかできなくて。ぶかぶかのスノウのコートを手繰り寄せて、戦士の顔つきになったライトさんを見上げて口にする。
「すみません。お願いします、ライトさん」
 僕を見下ろしていたライトさんがぐりんと首を回して明後日の方角を見た。
「……ああ」
 その耳元が紅く染まっているのは気のせいだろうか。思わず首を傾げる僕を他所に、ライトさんはブレイズエッジを握り締めてさっさと走り出してしまった。
「僕、何かしたでしょうか……?」
 唐突なライトさんの行動に心配になってそう零せば、サッズさんが「なあに、気にすることじゃねえよ」と呆れたように笑っている。
「よぉし! チョコボレースの始まりだぜ!」
 そんな僕らにお構いなく、スノウの能天気な声が晴天の下に響き渡った。
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