2017.12.02 執筆

こしょこしょする話

「ライトさん」
 そう短く名を呼ばれて、ライトニングは振り返った。
「なんだ」
 声の主は分かっている。ホープだ。グラン=パルスの自然味あふるる夕食に舌づつみを打った、その後の団欒。なんともない穏やかな空気の中で、ホープがちょいちょいとライトニングを手招きしている。どうやら大声では言えない話らしい。耳を貸せということか。
 誘われるままに、耳を彼の口元へと近づけた。そうすると待っていましたと言わんばかりに、ホープがライトニングの耳元に囁きかけた。
「おっ、なんだよホープ。義姉さんと内緒話か?」
 仲間たちの前でのやりとりなのだから、当然目に止まる。空気を読まずに茶化してきたのは、やはりスノウだった。
「うん。だからスノウは邪魔しないでよ」
 にっこりと笑顔で酷いことを言っている。もちろん仲間内では、ホープがスノウに対してだけ親しい口調になるのは、兄弟のような親しい間柄であるからこそというのは周知の事実だ。案の定、スノウは「なんだよ、俺も混ぜろよ」と笑いながらホープの肩を抱いている。
「みんなの前で見せつけてくれてんだ。そりゃあ気になるってもんだぜ」
 からからと笑うサッズの頭の上で雛チョコボがぴい、と飛び跳ねた。まるで私も混ぜて! と口にしているようだ。
 中年親父と小動物のユーモアに溢れるやりとりに、釣られるようにしてヴァニラがくすくすと微笑んでいる。その隣で胡座をかいて座っているファングは、口元を緩めてライトニングに話しかけた。
「……で、結局何の話だったんだよ、ライト」
 耳元で、ライトニングだけに語られたホープの内緒話。仲間内ではすっかり注目されてしまっているらしい。ライトニングはホープを見た。ホープは相変わらずスノウとじゃれあっているが、ライトニングと目が合うといいですよ、と合図するように頷いてみせた。実際、内緒話にするようなことでもなかったのだ。みんなの前で話しているということで、それはもう予想できたことだ。
「ナイショだ」
 だけど、話してなんてやらない。馬鹿馬鹿しいことかもしれないけれど、ホープがライトニングを選んで声をかけてくれたのは、なんだか特別な気がして誇らしかったからだ。
「おー、妬けるこった」
 ファングの言葉に、余裕の笑顔で返してみせる。悔しかったら、ホープと師弟関係を結ぶんだな。そう返せば、言ってろ。と呆れた返事が飛んできた。
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