女子会

「みてみて、お姉ちゃん！」
「ねえ、どうかな。ファング」
　それぞれ更衣室から顔を覗かせたセラとヴァニラの声は弾んでいた。転生してからというもの、それぞれがそれぞれの生活に忙しく、なかなか時間を合わせるということが出来なかった。それが何の偶然か、ぽっかりとライトニング、セラ、ヴァニラ、ファングの四人の予定が空いたのだ。個別には親しくやり取りをしていたものの、女四人が顔を付き合わせたのはずいぶんと久しぶりではないだろうか。年の近いセラとヴァニラのはしゃぎっぷりは尋常ではなく、単なるウィンドウショッピングだというのにまるで花が咲いたような賑やかさだった。
　気に入った衣装を身に纏い、更衣室から出てきたセラとヴァニラがくるりとターンする。若い女性をターゲットにした店の品揃えは、レースやリボンがあしらわれた可愛らしい造りだったが、二人の顔立ちには良く似合っていた。だから、ライトニングとファングはとろけるような笑顔を浮かべて返事した。
「ああ。おまえにとてもよく似合っているよ、セラ」
「可愛いぜ、ヴァニラ」
　大人びた雰囲気の美女二人の微笑みに、店内がキャーッと色めき立つ。そんな羨望の眼差しを慣れたように受け流して、セラとヴァニラは顔を見合わせた。
「せっかくの記念だし、買っちゃおうか」
「うんうん、そうしよっ」
　朗らかで微笑ましいやり取りである。そんな二人のやり取りを見つめて、ライトニングは柔らかく相好を崩した。
「二人が楽しそうで良かったよ」
「ああ。ヴァニラのやつ、今度は引け目なくセラと付き合えるってのが嬉しくてしょうがないって顔だ。それに、波長も合うんだろうな。うちらみたいに」
「そうかもな」
　短く応えて、ライトニングがふっと笑う。つられる様にしてファングもにやりと口角を上げた。前世だけではなく、今世でもライトニングとファングは波長が合った。たまの休日、何の前触れもなくふらりと会いにいけるような気兼ねない間柄だ。女特有の気難しさのない、からっとした関係がお互い性に会っていた。
「あれっ、ファング。何かいいことあったの？」
　会計を終わらせてきたのだろう。大きな袋を大切そうに両手で抱えたセラとヴァニラが、ホクホク顔で近づいてくる。
　ファングが珍しく顔を綻ばせていることに目ざとく気が付いたヴァニラが、嬉しそうに声を上げた。
「ヴァニラたちが楽しそうだとうちらも楽しいんだよ」
　恥ずかしげもなくファングはさらりとそう言ってのけた。パンツスタイルで格好良く決めた彼女が言うと、様になりすぎと言えるほど様になる。呆気にとられて見上げたセラが、思わず小さく零した。
「……ヴァニラに彼氏がいない理由、分かった気がする」
　身近にこんな格好いい人いたら比べちゃうよねえ。楽しそうな二人の会話を見つめるセラに、ライトニングが続けて告白する。
「昔からこいつらはこんな感じだぞ」
「なるほど。筋金入りだ」
　でも、なんかいいかも。そう言って笑ってのけたセラに、ライトニングが目を細める。
「なんだ、私じゃ役不足か？」
「だってお姉ちゃんはお姉ちゃんだもん」
「……ふふ、ありがとうセラ」
　全幅の信頼を寄せた笑顔に、思わず肩の力が抜ける。優しく目を細めて見せたライトニングに、セラも微笑んで。
「お～い、これからスイパラ行っくよ～！」
　ぶんぶんと手を振りながら、満面の笑顔のヴァニラが飛び跳ねる。輝くその顔に、セラもまた笑顔になって手を挙げた。
「スイパラ！　いくいく～！　お姉ちゃんも甘いの好きだもんね」
「スイパラ……？　すまない、セラ。スイパラとは何だ？」
「スイーツパラダイスって言って、決まった時間内ならスイーツ食べ放題なんだよ」
　ねーヴァニラ。そうにっこりとセラが笑えば。ねー、とヴァニラも嬉しそうに笑う。まるで仲のよい姉妹のようだ。本物の姉妹も居合わせているが。
「私は構わないが、ファング、おまえ甘いの平気だったか？」
「甘味はわりと好きな方だぜ。転生してからは砂糖菓子が日常的に出てくるようになったんだ。そりゃあ慣れるさ」
「なるほど」
　かつてグラン＝パルスにいた頃、甘味は稀少品だったとファングは言っていた。だから、コクーンの人口甘味料を初めて口にした時は驚いたそうだ。その頃の名残で話しかけたライトニングだったが、どうやら余計な気遣いだったらしい。
「ねえねえ、彼女たち可愛いね。俺らと遊ばない？」
「こんなところで女同士じゃ寂しいでしょ～？」
　ふと、男の声が聞こえた気がして、ライトニングとファングは視線を移した。あろうことか、二人がちょっと目を話した隙に、セラとヴァニラが二人組みの男に絡まれていたのだ。
「……おい」
　低く、唸るような声が漏れる。
「おまえたち、何をしているんだ？」
　――そこから先の展開はお察しの通りである。

タイトル：女子（二人と保護者二人の）会