2017.01.21 加筆
2017.12.24 公開

可愛い人

 瞼の裏側に差し込む日の光の眩しさに、エクレールはううん、と短く息を吐いた。……もう朝か。起きて準備をしなければ。遅刻をすれば後々小言を言われるであろう教授のしかめっ面を思い出して、エクレールはもう一度唸り声を上げた。カレッジスクールはバスで通っているから、遅れると大惨事だ(とは言っても、地元のバスが時間通りに来た試しはない)。このあたりはあまりバスが頻繁に来ないから、一本逃してしまうと遅刻なんてザラだった。運転手がちょっとそこらで朝ごはんなんてやるものだから、時間にゆとりを持たないととてもじゃないけど間に合わない。
 だけど、このぬくぬくとした心地良さは離しがたかった。季節は冬。乾いた空気と冷たい風が吹きすさぶ季節だ。ちょうど人肌のその温もりは、頬ずりすればしっとりとした感触を返してくれる。その心地よさに目を細めて、なおさら擦り寄れば、掠れた男の声が頭上から降ってきた。
「……?」
 咄嗟にそれが誰のものか分からずに、エクレールは顔を上げた。瞬間、端正な顔立ちをした男の顔が飛び込んでくる。すっと通った鼻筋。閉じられた瞼を縁取る睫毛は長くて、彼の白い頬に影を落としている。窓から差し込んでくる日の光を受けて、きらきらと透けて見えるプラチナブロンドの髪がひどく印象的だった。
 エクレールは視線を下げて、おのれの格好を確かめた。瞬間、かっと頬が朱に染まることを自覚する。……そうだ。今日は休日で、カレッジスクールは休み。だから昨晩は二週間ぶりにホープとデートに出かけて、ちょっと豪華なディナーに舌鼓を打ったのだ。チリ産のワインはこっくりと深いコクがあって旨かったということは覚えている。付け合わせの味が良かった。……そこまではいい。
 これからどうしますか。さりげなく肩を抱かれながらホープにそう訊ねられて、おまえの家に行きたい、と少しふわふわした心地で答えた気がする。――いいんですか。そう、確かめるように訊ねられた。最初からそのつもりだ。軽い酔いに任せた勢いもあってそう口にしたら、ひどく性急に手を引かれて、そのままホープの自宅まで連れ込まれた。ドアを開けるや否やキスをされる。それこそ、息も絶え絶えになるような濃厚なキス。シャワーを浴びたい、そう胸を叩きながら訴えれば、あなたが可愛すぎて我慢できないんです、なんてホープは真剣な眼差しで口にする。正気か、こんな可愛げのない女。そう口にすれば至極まっとうな顔で正気ですと返してくる。絶対正気じゃない。
 そのまま服の中に手を差し入れられて、それで――…。
 優しくて、それから激しかったホープの手のひらを思い出して、エクレールは赤面した。これ以上はもう無理だ、おかしくなる。泣きそうになりながら懇願したのに、ホープは全然許してくれなくて、それどころかもっと可愛い声聞かせてくださいなんて口にする。……結局、昨晩は乱れに乱れた。まだ二回目なのにこんなになるまでやるだなんて聞いてない。
 ベッドサイドに視線を落とせば、昨日着ていた二人の衣服が散乱している。それもこれも、寝室までの僅かな距離を惜しんだホープのせいだ。待てません、と、噛みつくようにキスされて、愛撫されて。すっかり腰が抜けてしまったエクレールがここに運ばれた頃には、もう何が何だか分からない状態だったのだ。
(待てと言ったのに……)
 昨夜の情事を不意に思い出す。職業柄あまり日に焼けていない白い喉仏を伝う汗がやけにエロティックであったこと。余裕なくエクレールの名前を呼ぶ、あの掠れた低い声のこと。覆いかぶさるホープの胸が、思った以上に広いということ。鮮明に蘇る記憶のどれもが、普段見るホープの姿と違いすぎて、訳も分からず叫びたくなる。
 不意にお腹の奥がきゅんと疼いたことを理解して、エクレールは慌てて目を瞬かせた。あれだけしつこくやったせいか、体が妙に敏感になっている。気恥ずかしさも元を辿れば、目の前で眠りこけているホープのせいだ。幸せそうに眠りやがって。こっちの気持ちも少しくらい汲んでみたらどうなんだ。むにっと頬っぺたをつねれば、思いがけずよく伸びた。どうやらホープの皮はよく伸びるらしい。新発見だ。
 横に伸ばしてみる。それから縦に。円を描いて、ぴんと弾く。少し弾力に欠ける。働きすぎで手入れがなっていないんじゃないだろうか。そんなことを考えていたら、不意に視界いっぱいに肌色が広がった。
「!?」
 それがホープの胸だ、と認識した頃には耳元で低く囁かれている。
「僕ばっかり悪戯されてずるいです」
「……ッ」
 耳に押し当てられた熱い感触。それがホープの舌先であることを理解して、エクレールはぴくんと背をしならせる。甘く耳を噛まれると、背筋にぞくぞくとしたものが駆け上ることが分かった。
「や、やめ……っ」
「本当に?」
「み、耳はやめろと言ってるだろう……!」
 僕には良さそうに見えるんですけど。人差し指がつうっと背中を伝い降りる。思わずくたりと抜ける体の上に、抜け目なくホープが覆いかぶさる。そのエメラルドグリーンの瞳に見つめられると、どうしていいのか分からなくて、エクレールはそっぽを向いた。
「エクレールさん」
「……」
「エクレールさんってば」
 嫌だ。恥ずかしい。大体もうとっくに夜が明けてるせいで、こうやって見下ろされるのも恥ずかしいんだぞ。そうやって内心独り言ちていたら、不意に低く囁かれる。
「エクレールってば」
 その声音に、ぞくりとした。甘えているようでいて、ちゃんと大人の、男の人の声。
「何? こうして呼ばれる方がいい?」
 覆いかぶさった姿勢のまま、意地悪く笑うホープの姿に昔はこんなのじゃなかったのに、と思ってしまう。もっと可愛かったはずだ、絶対に。
「馬鹿を言うんじゃない。私はシャワーを浴びる」
 付いてくるなよ。ホープの胸を押しのけて、赤く染まる頬を隠すようにエクレールは立ち上がった。大体、体中べたべただし、ホープがあれこれ体勢を変えるせいで、妙に気だるい。一度シャワーでも浴びてすっきりしたいとのが正直なところだった。
「……ん?」
 うまく起き上がれることができずに、ぺたん、とベッドの上に座りなおしてしまった。慌ててシーツを前にかき寄せる。……どういうことだ。うまく立ち上がれない。
「もしかしてエクレールさん」
 心当たりがあったのか、ホープが困ったように頬を掻いている。残念ながら、エクレールも立ち上がれない原因に思い至ってしまった。
「腰が、立たない」
「すみません……無理させすぎちゃいましたね」
「まったくだ」
 呆れて息を吐いたところで、不意にホープの腕が伸びてきて抱きすくめられたことが分かった。そのままよいしょ、と一体どこにその筋力隠し持っていたと尋ねたくなる動作で持ち上げられる。
「じゃあ僕がバスルームに運びますね」
「……待て。おまえと一緒はだめだ。絶対にだめだ」
「そうは言ってもエクレールさん立てませんし」
 僕も一緒にお風呂に入れて一石二鳥ですよね、なんて口にする。どういうことだ。昔のホープはもっと控えめだったぞ。なんでこうグイグイくるんだ。
 そんな内心が顔に出ていたのだろうか。エクレールを見つめるホープは悪戯っぽく笑っている。
「だって、エクレールさんが可愛いんですもん」
「はあ? だからおまえは――…」
「だから、意地悪したくなっちゃうのはしょうがないですよね」
 そう口にして、ちゅっと音を立ててキスされる。反論ごと唇を塞がれたエクレールが目を白黒させている内に、ホープは鼻歌交じりにバスルームへと歩いて行った。

   * * *

 洗いっこしましょうね。まるで子供に言い聞かせるように口にしたその言葉の通り、バスルームに入ったホープは満面の笑顔だった。
 一人暮らしの人間が使うにはちょっと贅沢なんじゃないだろうかと思えるほどゆったりとしたバスタブ。聞けば、せめてバスルームでくらいはリラックスしたいですからね。というごくまっとうな返事が返ってきたので、当時はなるほどと思ったものだ。……が、二人で入っても不自由しないバスタブというのは、ホープをますます助長させているような気がする。
 泡風呂の具合を確かめてから、ホープはエクレールを抱きかかえると湯船の中に入っていった。鼻孔をくすぐるのはシャボンの香りだ。ふんわりとした優しい泡に包まれる感触があって、バスタブの中でエクレールはうっとりと目を細めた。
「気持ちいいですか、エクレールさん」
「ああ」
 体中にまだホープに愛された余韻が残っている。心地の良い泡に包まれると、それらの疲労がじんわりと取れていくような気がした。バスタブの上に肘をついて顔を乗せると、なんともいい心地だ。端的に言うと、気分がいい。
 バスタブの縁でリラックスモードに入っているエクレールに言い聞かせるようにして、その耳元で囁きかけたのはホープだ。
「さ、綺麗にしましょうね」
 その手のひらにはしっかりとスポンジが握られている。嫌な予感しかない彼の言葉に、エクレールは断固として「自分でやる」と主張した。しかしホープはめげない。というよりもすでに素っ裸で二人バスタブに浸かっているのだから、今更といえば今更だった。……別に、嫌なわけじゃない。ただ、もう本当に腰の使い過ぎで立てないのだ。これ以上、そんな情けない時間を長引かせたくない。と言うより、立てないほどやり続けたというのがどう考えても悪いのだが。
「まあまあ、お背中流させてください」
 半ば強引に背中を向けされられて、背中にスポンジが当てられた。わしゃわしゃと音を立てて押し当てられたスポンジが形を変える。普段は手が届きにくい箇所が、絶妙な力加減で擦られるのが分かる。……正直に言おう。悪くない。
 エクレールが無言になったことでお許しが出たと認識したのだろう。ホープはその几帳面な性格らしさを発揮して、丁寧に首から腰回りにかけて泡を立ててくれる。これがまた力加減がちょうど良くて、心地いいのだ。
 次第に肩の力が抜けるのも仕方のないことだ。すっかりリラックスしたエクレールを前に、ホープもまた嬉しそうに微笑んでみせる。
「かゆいところはありませんか?」
「ああ、大丈夫だ」
「気持ちいいですか?」
「ああ。うまいな、ホープは」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいですね。それじゃあ前も洗いますね」
「頼む」
 ――なんて、うっかり口にしてしまったのが運の尽きだった。自分の返答にはっとして顔を上げる。時すでに遅し、バスタブの中で器用にエクレールの向きを変えてみせたホープがにっこりと満面の笑顔で見下ろしている。
「はーい、脇あげてー」
「断る!」
「駄々こねません!」
「こねてない!」
 押し問答である。
 大体、脇を上げたら泡で隠れている胸が見えてしまうじゃないか! 声を荒げれば、何を今更なこと言ってるんですか!? ともっともな返事が返ってくる。確かに散々色も形も弄られきった後だが、それとこれとは話が別だ。女心をまるで分かっちゃいない。
「まあ、いいですけどね」
 幸い、ホープは諦めてくれたようだった。自分でやるから――…と言葉を続けようとするエクレールの胸が、ふにょんと形を歪ませる。
「どっちにせよ触りますし」
「良くな……っぁ!」
 本当に良くないんですか? なんて意地悪く耳元で囁かれる。この男は、エクレールの耳が弱いことを分かってやっているのだ。なんて奴だ、と抗議したいのに彼の愛撫ですっかりほぐれ切った体は正直だった。伸びてきた手のひらが下から掬い上げるように乳房を揉み上げる。そのまま円を描くように、手の腹をくるくると押し付けられれば、ホープの指先の動きで乳房は自在に形を変える。くすぐったいような、こそばゆいような。だけど、確実に色を孕んだ触れ方に、エクレールは思わず甘い吐息を零してしまう。
「洗ってるだけなのに、そんな声が出るなんて」
「……おまえが、そうしている……んっ、だろう……!」
「あれ、そうですか?」
 そうすっとぼけたことを口にしながら、動かす指先の動きは止まらない。第一関節を器用に折り曲げて、指の腹が胸のふくらみに圧をかける。そうすると、力のかかった個所がホープの望むように形を変えた。
 やわやわと揉みしだかれると、くすぐったいような、じれったいような、そんな気持ちになってくる。このままだとホープの思うつぼだというのは分かっているのに、期待に体を捻じってしまうのはもはやどうしようもない。
「気持ちいいですか?」
 背中を洗っていた時と同じ言葉がかけられる。そうだと言うのに、まるで違った意味に感じられるのだからずるい。ピンク色に色づいた胸の先端は、ホープに触れられることを期待してじんじんと張りつめている。すっかり充血したその場所に触れてほしくて再び身を捩れば、まるでそんなエクレールの気持ちを見透かすかのように指先が引っ込められた。
「胸はもういいですね」
 キレイになりました。そう口にして目を細めたホープが、再びスポンジに手を伸ばす。なんてやつだ。思わず上目遣いになって見上げれば、ホープはそれに気がつかなかったようで「次はお腹に行きましょうか」なんて口にする。そうしてスポンジを実際にお腹に当ててみせるのだから、とうとう我慢できなくなって、エクレールはホープの手を掴んだ。そのまま、彼のその長い指を自ら胸の先端部分へと導いてみせる。
「……まだここがキレイになっていない」
 ほら、と口にすると、ツンと自己主張したその場所がホープの指先を押し返す。まるで触ってくれとでも口にしているようだ。柔らかく指を押し返すその弾力が、甘い痺れを誘ってくる。触れられるだけで、もうこんなになっている。
「これは失礼しました」
 芝居がかった口調でそう答えたホープは、エクレールの手によって導かれたその場所にすうっと目を細めてみせた。まるで獲物を狙う狩人のようだ。行為の前のホープのサイン。その眼差しを向けられると体の奥がぞくぞくとして、どうしようもなく熱くなる。何もかも見透かしてしまうような、怪しいエメラルドグリーンの輝き。
 もはや誤魔化せないほど明確に、お腹の奥が彼を求めて熱を持っていた。酷使しすぎた腰がまともに動けるようになるのはまだ暫く先のことだな、と頭の片隅で思いながらも、全身はすでにホープに触れられることを望んでいる。欲しい。ホープの熱いのが欲しい。
「ちゃんとキレイにしましょうね」
 コックを捻ったホープが唇を舐める。鮮やかな赤。一瞬だけ垣間見えた彼の舌先に心臓がどくりと音を立てた。湿り気を帯びて額に張り付く髪も、山なりになっている喉仏を伝う汗も、少し掠れたその声も。何もかもが艶めいて見えて、その度に心臓がどきどきと音を立てる。要するに、いちいち無駄に挙動がえっちなんだ、この男は。
 シャワーから熱い雫が落ちてきて、エクレールの体を覆っていた泡を落としていく。泡風呂が排水口に流れていく音。
 流れ落ちた泡からぷっくりと浮き上がってきたピンク色の先端に、待ちきれないようにホープが齧り付いた。ぴりっとした甘い痺れが背筋を昇る。堪えきれなくなって、喉が仰け反った。自然と弓なりになる胸に顔を埋めるように、ホープがその場所を丹念にまさぐっていく。
 散々愛撫をされたというのに、何度触れられたって気持ちが良くて、目尻に涙が浮かんでくる。ホープの唇が、咥え込んだ先端を丹念に舌でなぶっていく。押しつぶされては形を変え、なぞり上げられると一層自己主張する。痛いほどに張り詰めたその場所に甘く歯を立てられると、喉が鳴る。零れ落ちる悲鳴にも似た嬌声が、バスルームの中で反響していてまるで悪いことをしているみたいだ。その背徳感が、ますますエクレールの体を過敏に反応させていく。
「エクレールさん、今自分がどんな顔してるか分かってますか?」
 下から見上げてくる端正な顔は、とうの昔に色に溺れている。湿り気を帯びた髪を頬に張り付かせたまま、ホープはうっとりと口元を上げると、バスルームに備え付けられていた鏡の曇を、指先で払ってみせた。
「ほら、見て。すごくえっちな顔してる」
 ホープの言葉に誘われるように視線を向ければ、鏡の中には体中を淡く色づかせてよがる自分の姿が映り込む。ほつれた髪に、だらしなく開かれた口元。顕になったその胸元に、ホープが再び齧り付く。そうすれば鏡の中のピンクブロンドの髪の女は、高い嬌声を上げて、まるで悦んでいるかのようにホープの頭を抱き抱えた。
 ホープの指先が胸の凹凸を辿り、それから臍へ。なだらかなそのラインを下って、足の付け根へと伸びてくる。緩やかに侵入されたその場所は、ホープの愛撫ですでにぐっしょりと濡れている。
「もうこんなになってる」
 ぬめるその場所に手を差し入れたホープが、目を細めて笑う。エクレールの秘部はホープの愛撫によってすでにとろとろに蕩けている。その熱くて疼く場所に早くホープを挿れて欲しくて見つめれば、彼はエクレールの脇を持ち上げてバスタブの縁へ腰掛けさせた。
「ホープ……?」
 訝しむ声を上げるエクレールを他所に、太ももに手をかけたホープが両足を割り開く。白熱灯の光の下に、自分でさえもまじまじとよく見たことのない場所が晒されたことが分かって、エクレールは羞恥で真っ赤になった。慌てて足を閉じようとすると、まるでそれを見越していたようにホープが体を捩じ込んでくる。
「ほっ、ホープ!」
 慌てて声を上げるエクレールを尻目に、腰を屈めたホープがその場所に顔を寄せた。ぬるん、と温かく湿り気を帯びたものが触れる感触。
「やめ……っん、ああ……っ!」
 途端、口から零れ落ちたのは静止にもならぬ嬌声だった。喉を仰け反らせるエクレールの反応を尻目に、蜜壷に口を付けたホープは、そのぬかるむ割れ目の淵を舌でなぞっていく。そのままつぷりと、蜜壷の中に差し込まれた。熱くて、ぬるぬるした柔らかいものが、エクレールの敏感な場所を蹂躙していくのが分かる。
 目から涙が溢れて、唇からはだらしなく涎が落ちるのが分かった。絶え間なく喉の奥から喘ぎ声が迸る。
 ちゅぷちゅぷと水音を立てて蜜壷の中を掻き回されているのが分かる。ホープの息遣いを足の間で感じる。お腹の奥の疼きはもうエクレールだけじゃ止められなくて、擦りつけるようにホープの頭を掻き抱いた。応えるように、ホープの舌先が一番敏感な芽を押しつぶすように触れてくる。
「――っ!」
 まるで体中に電流が流れているみたいだ。熱くて、熱くて、じんじんするその場所をホープに触れられて、その心地良さに訳が分からなくなる。あまりに暴力的なその快楽から逃れるように腰を引こうとした。しかし、ホープの両腕がしっかりと腰を固定していて、逃げるどころかより一層深く口付けるように、ホープが音を立てて芽を吸い上げる。
「んああっ!」
 高い悲鳴のような嬌声と共に涙が散る。がくがくと揺れる腰が、エクレールの限界が近いことを伝えている。耳の中にぐちゅぐちゅとぬかるむ蜜壷の音が響いてくる。ホープの舌が意地悪く芽を弄ぶ。引きたくても引けない腰に、エクレールが暴れるように腰をばたつかせたその時、不意に、彼の歯がその芽を甘噛みしてみせた。
「~~~~ッ!」
 高く喉が仰け反って、背筋を電流のようなものが駆け巡った。頭がおかしくなってしまう。そう思えるほど強烈な快楽が全身を襲って、エクレールは激しく身を震わせた。
「……イった?」
 はーっ、はーっ、と唇から漏れ落ちるため息は、まるでそれこそ獣みたいな獰猛さだ。エクレールの股の間から顔を出したエメレルドグリーンの瞳が、怪しく細められる。緊迫感から解放されて、肩で息をするエクレールは言葉もなく頷いてみせた。
 今や全身が性感帯みたいに、どこを触れられても感じてしまう。そんな身体に作り替えていった男を見下ろして、エクレールは気だるい仕草で腰掛けていた縁から、バスタブの中に座り込んだ。そのまま、ほとんど中身のなくなったバスタブの中に両膝をつく。
「今度は、私がホープを洗う番だな」
 跪いて両手を差し出したその場所は、熱く、大きく膨張していた。どくどくと脈打つ血管が浮き出ていて、まるで今にも張り裂けてしまいそうだ。そっと両手で包み込むように触れてみれば、目の前のホープがびくりと体を震わせる。覗き込むようにしてその熱いホープ自身に顔を寄せれば、じいっと見下ろしてくるエメラルドグリーンの瞳と目線が合った。
「期待していろ」
 するりと口から飛び出したのは、挑発的な煽り文句。その囁きに、ホープの瞳の奥に明らかな期待が宿ったことを見て取って、エクレールはそっとその先端に唇を寄せた。
 とろとろとすでに透明な先走りの汁が溢れいるその場所。ストイックな彼のだらしのない一面に、思わず口元が持ち上がることが分かる。
「我慢ができないなんて、悪い奴だな」
 そう口にしてかぷりと噛み付くように口の中に含むと、分かりやすくホープの体が震えるのが分かる。粘着く彼の体液を舌先で丁寧に舐めとって、その一滴まで綺麗に口に含んで舌を出して見せれば、ホープの瞳から分かりやすく余裕が失われていく。普段大人びている彼が、こういう顔をするのを見ると、どうしようもなくたまらない。もっと、もっと乱れた顔を見せて欲しいと口にしたくなる。
 つうっと舌先でくすぐるように彼の熱を舐り上げていく。柔らかい睾丸を指先で触れながら、弾力で押し返すその窪みに吸い付くようにキス。揺れるエメラルドグリーンの瞳がもっと欲しいのだと囁いている。
 熱くて大きなホープの熱の塊。そんな彼自身を今、エクレールが好きなようにしているという事実に、ぞくぞくとしたものが駆け上ってくる。
「どうして欲しい?」
 意地悪くそう囁いてみれば、エクレールの言葉に煽られるように、ホープが短く吐息を零す。ぜいぜいと肩で息をするそんな彼が、煽られて愁眉になる様は何とも言えず色っぽい。
「咥えて……欲しい、です」
 ホープのだらしのないその姿に思わず唇を舌で舐める。体を持ち上げて彼の自身に覆いかぶさってみせれば、期待に輝く瞳がエクレールを見上げている。くちゅん、と水音がいやらしくバスルームの中に響き渡った。
「ここに咥えて欲しい?」
 ゆっくりと腰を落として、股の間でホープを擦り上げてみせる。すでにぬかるんでいるエクレールの愛液と、ホープの先端から再び溢れた透明な雫で、潤滑油としては十分すぎるくらいだった。にちゃ、といやらしい音がしている。その卑猥な音に興奮している自分を感じ取りながら、エクレールは落とした腰を振ってみせた。
「欲しい、です……っ」
 苦悩するホープの表情。掠れた声で懇願するように囁かれる。欲に溺れた瞳が、腰を振っているエクレールを見上げている。にちゃっ、くちゃっ、と粘り気を持った水音が絶え間なく響く中で、興奮したようにホープが荒い息を吐いた。その呼吸に合わせるようにエクレールもまた腰を振れば、快楽に染まった己のため息が零れ落ちる。ナカに突き立てられていなくても、ただお互いの体液を擦り合わせるだけでたまらなく気持いい。
 振動する動きに合わせて髪が揺れて、ピンク色に染まった乳房がゆらゆらと揺れている。その下のお互いの性器はまるで発熱でもしているかのようだ。熱くて、熱くて、どうにかなってしまいそう。
「エクレールさん……っ!」
 ぐちゅん、と一層湿り気を帯びた音がバスルーム中に響き渡る。その時、擦った拍子に腹の上に滑り出たホープ自身から、白濁した体液が迸った。脈打つホープ自身。勢いよく飛び出した精液が、エクレールの腹の上や太ももの上に飛び散った。
「っ、ぁ……!」
 そのままびくびくと震えているホープに寄り添うように、エクレールはゆっくり腰を落とす。温かな彼の精がお互いの肌の上を伝うことを気に止めず、エクレールは意地悪く笑う。
「そんなに気持ち良かったか?」
「……ええ」
 否定するのも大人げないとでも思ったのだろうか。少し恨めしげに、荒いため息とともに零された返答に、込み上げてくるのは征服欲だ。ホープのこんな姿を知っているのは、きっとエクレールだけなのだろう。そう思うと、胸のあたりにきゅうっとしたものが広がってどうしようもなく愛おしさが込み上げてくる。
「でも、僕だけだなんて勿体ないですから」
 擦り寄ってきたエクレールの腰に指先を押し当てて、ホープが低く囁いてみせる。
「今度は一緒に気持ちよくなりましょうね」
 そのままずぷん、と再び硬さを取り戻した彼の熱が、エクレールの中に突き立てられる。
「ッあ!」
 擦り合わせながら、エクレール自身もずっとホープのことを欲していた。期待に疼く膣の中に、問答無用でホープを突き立てられて、堪えきれなかった高い悲鳴が迸る。咄嗟に仰け反ったエクレールの反応さえも待ちきれず、そのままホープはぐんぐんとナカを突き進んでいく。いきなり最奥にまで入り込んだホープは、うっとりと長いため息を吐くとエクレールに囁いてみせる。
「良すぎてすぐイってしまいそうだ」
「……っあ、ん、私も……だ」
 掠れた声でそう返事すれば「ええ、分かります」と同意の声。
「だって、こんなに締め付けてくるから……んっ」
 そう色っぽい声が下から上ってくる。ゆらゆらと揺れている腰からは浅い振動しか伝わってきていないはずなのに、膣の中はすっかりホープを受け入れる準備が整っていて、彼を締め付けている。
「っホープ……!」
 不意に愛おしさがこみ上げてきて、エクレールは両手を伸ばしてみせた。ふわふわとしたプラチナブロンドの髪。引き寄せれば、エメラルドグリーンの瞳の中に、目を細める女の姿が映り込む。ゼロ距離まで近づいて、その薄い唇に噛み付くようにキスをした。差し出した舌に、応えるようにホープの舌が絡んでくる。
「っ」
 好き。大好き。――言葉にするのは、恥ずかしい。だからこの想いが伝わるようにと、思いの丈をぶつける様にキスをする。
 ずんずんと腹の奥に深い振動が伝わってくる。下から突き上げてくるホープの動きに合わせて、エクレールもまた腰を振る。そうすれば一層深く繋がり合って、心地よさが突き抜けていく。痺れるような快楽の波。寄せては引いて、また寄せて。その漣のような挿入に、高まりを覚えて、エクレールはぎゅっと強くホープを抱きしめた。唇と唇から伝わる熱と、腹の中から伝わってくる熱。二つの熱がめちゃくちゃにエクレールの中で駆け巡って、どうにかなってしまいそうだ。
 ぐち、とねじ込まれた熱い楔が中で捻られてその心地よさに今度こそ体が大きく痙攣する。びくびくと震えるエクレールの腰を両手で引き寄せて、ホープが深く奥まで突いた。――熱いものが、腹の中に広がっていく感触。弾ける視界の中で、エクレールは手の中のぬくもりを掻き抱いた。

   * * *

「……やってしまった」
 後の祭りというのは、まさにこのことを指すのだろう。
 汗を流すためにバスルームに入ったというのに、そのバスルームでさらに汗をかくという始末。おまけにただでさえ腰の使いすぎでまともに動けなかったのに、そこに輪をかけて酷使したものだから完全に役立たずと貸している。
 素肌の上にホープのシャツを羽織った格好のエクレールは、リビングのソファに腰掛けて半眼になったままコーヒーを啜った。
「もう今日こそやらない。絶対やらない」
 明日は学校だ。それまでに回復していなければ、一体どうしたものかと周囲に訝しまれるだろう。それだけは避けたい。……もう手遅れかもしれないものの。
「とか言いながら、エクレールさんも結構乗り気だったくせに」
「うるさい」
 余計なことを口にするホープの言葉を間髪入れずに遮って、エクレールはぐびりとコーヒーを飲み干した。そのままだんっ、と勢いよくテーブルの上に空のカップを置けば、ホープが耐熱ガラスに入った新しいコーヒーを出してくる。
「おかわりは?」
「……飲む」
 まともに動けないエクレールのために、今日はいっぱい甘やかしてあげますから。そうにこにこと口にしたホープは、実際その言葉の通り、甲斐甲斐しくエクレールの世話をしてくれている。一応、調子に乗りすぎたという自覚はあるらしい。
「はい、どうぞ」
 差し出された新しいコーヒーから、ふんわりとアロマの香りが広がってくる。今日の外出はなしだな、となると残念だと思うと同時に、たまにはこういう日があってもいいかという気になる。おうちデート、というやつだ。そう考えてから、らしくもなく乙女思考になっている自分自身にふっと笑みが溢れる。
「何考えていたんです?」
 すかさず降ってきたのはホープの声だ。どうやら先ほど零した笑みをしっかりと見られてしまっていたらしい。
 らしくない、か。
 小さく胸の内で呟いて、エクレールはちょいちょいと手招きしてみせた。そうすると、呼ばれたホープが素直にエクレールの傍にやってくる。
 その首に手を絡めて、不意打ちのキスを落とす。ちゅっと短いリップ音と共に離れたホープの顔に悪戯っぽく返してみせる。
「ホープのことかな」
「……そういう顔は反則です」
 まるで火でも付いたように、ホープの顔が真っ赤に染まる。彼にしては珍しい照れた表情。どうやら不意打ちは成功したらしい。
 恨めしげな彼の表情を、なんとなく優越感を持って見上げれば仕返しと言わんばかりにホープの方から顔を寄せてきた。
「またしたくなっちゃいます」
「それは勘弁してくれ」
 至近距離で降ってきた唇。その唇に人差し指を立てて、エクレールは今度こそ断固たるノーを突き付けたのだった。
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