2016.02.08 公開

人肌に勝るものはなし

 アカデミーで共同開発して、新しい暖房器具を作ってみたんです。試作機を僕の家に導入してみたので、ぜひ一度体感してもらえないでしょうか。
 コミュニケーター越しにその時聞いたホープの声が弾んでいたことをよく覚えている。よほどその試作機とやらの出来がいいのだろう。
 コクーンで稼働していたファルシがすべて機能停止した今や、ファルシに依存しない設備開発がアカデミーを主導として急ピッチで進められている。ホープが今回口にした試作機というのも、設備開発の一環のはずだ。
 私には難しいことは分からないぞ。そう口にすると、ライトさんが使ってみた感想を聞きたいんですよ、と朗らかな返事が返ってくる。そういうことなら、とすでに渡されていたホープの部屋の鍵を鞄に入れて、その日ライトニングは彼の部屋へとやってきた。
 ライトニングとホープが、世間一般でいうところの所謂恋人関係になってはや二年という歳月が流れていた。十八歳になった彼は、パルムポルムにあった自宅を出て、今はこじんまりとした部屋を間借りしている。すっかり通い慣れた道を歩いて、彼の家のドアに鍵を差すと、玄関には「お待ちしていました」と言わんばかりにわくわくとした表情を浮かべているホープの姿がある。恐らく音を聞きつけてやってきたのだろう。昔からそういうところには敏感なやつだ。
「ライトさん、こっちです」
「そんなに急かすな」
 部屋に入ってきたライトニングに待ちきれないようにホープが声を上げる。この様子だとよほどいい出来なのだろう。
 コートを脱いで手に持つと、ごく自然な挙動でホープがそれを受け取って、ハンガーにかける。流れるような仕草でコートを外套掛けに引っ掛けてくれた。気持ちは浮足立っていてもこういうところがスマートなのは流石というかなんというか。女にもてる理由がよく分かるな、と思わず苦笑したライトニングの心境など知らずに、ホープはにこにことした表情でリビングの扉を開けた。
「これです!」
 そう口にしたホープの視線の先には、座卓が置いてあった。背の高いテーブルとイスで生活するコクーンの風習から考えると珍しいものだ。座卓というだけでも珍しいのに、そのテーブルは板の間に布団のようなものが挟まれているように見える。
「一体これは何なんだ?」
 初めて見る形状に、ライトニングがそう言葉を漏らすのも無理もないことだった。テーブルと布団が合体させるだなんて、一体誰が思いついたのやら。呆気にとられるライトニングを他所に、ホープはしたり顔で布団を捲ってみせた。
「僕たちはこれを“コタツ”と命名しました。この形状になった理由は色々あるんですが……何はともかく、入ってみてください」
 そう口にして、ホープはブーツを脱ぐといそいそと敷物の上に広げられた“コタツ”とやらに体を滑り込ませる。腑に落ちないものの、とにかく彼の真似をしてみればいいのだろう。同じようにライトニングもまたブーツを脱いで、その中に体を滑り込ませてみた。
「温かい」
 その思いがけない温かさに、ライトニングは目を丸くして驚いた。コタツの中は、その奇天烈な見た目に反して温かい。おそらく電気か何かで中の空気を温めているのだろう。その熱を逃がさないように布団で囲っているおかげか、足元からぽかぽかとした暖気が立ち上ってくる。
「これは……クセになるな」
「でしょう? そう言ってもらえて嬉しいです」
 じいっとしているだけで足元から温かくなるというのは何とも言えずいい心地だ。ファルシによるコクーンの気候管理がなくなってからというもの、年間を通じて寒暖がはっきり感じられるようになっている。特に寒さに関しては、備えが十分でなかったこともあってか、暖房機器は高価な品になっていた。
 安価な材料で、しかし温かさを保つ機器となれば、特に物資の乏しい地域で重宝されることだろう。ライトニングの反応にホープが喜色を浮かべるのは道理だった。
 向かい合って座っているものだから、真正面にライトニングを見つめているホープの顔がある。なんだか落ち着かないな。彼のエメラルドグリーンの瞳に見つめられていると、どうにも気恥ずかしくなってしまう。
 別になんてことはないはずだ。今やライトニングとホープは恋人同士なのだから。だけど、こうやって近い場所で優しく見つめられると、不意にどきっと心臓が音を立てしまう。初めて出会った時はもっと小柄だったはずなのに、気が付けばずいぶんと大きくなったものだ。
「使ってみた感想はどうですか? 忌憚のないご意見をお願いします」
 さすがは研究職といったところだろうか。ただ肯定的な意見を求めているだけではないのだろう。使用者の詳しいレビューを求めようとするホープの姿勢に、ライトニングは佇まいを正して考え込んだ。確かに温かくて、いいものだと思う。……しかし。
「確かに温かい。しかし、わざわざ靴を脱ぐのが面倒だな」
 基本的に靴を履いて生活をしているのだから、コタツに入るたびに脱がなければならないので面倒だ。
「あとは、足元は温かいが上半身はそうもいかないな。……潜り込めばいいのだろうが、この調子じゃ眠ってしまいそうだ」
「確かに。眠ってしまうと、放熱して喉が渇くかもしれませんね」
 人体にどういう影響があるのかも調査してみないといけませんね。他には気が付いたことはありませんか? ホープの言葉に生真面目なライトニングは考え込んで――不意に、足元に何かが触れたことに気が付いて顔を上げた。
「ホープ?」
「どうかしましたか?」
 さらりとそう答えられる。しかし、先ほど感じた感触は気のせいではなかった。足首にライトニングよりも一回り大きな男の足が絡められたのが分かる。コタツの下で隠されていることをいいことに、ホープがライトニングの足に触れてきたのだ。
「白を切るな……」
 さわさわと撫でさすっているのが分かる。見えない場所で足首に、膝に。触れているホープの感触をダイレクトに感じてしまう。思わず赤面して声を上げれば、ホープは涼しい顔で「分かりません」なんてしゃあしゃあと口にするのだ。
「もっと詳しく言ってもらわないと……」
 すうっと目を細めて、低い声で囁いてみせる。そのどこか甘さを含んだ声音に、本能的にびくりと体が震えた。ホープの足がライトニングの内腿の柔らかい場所を服越しに撫でたのだ。
「おまえの足が、私の……」
 そこまで言葉にして、ライトニングは口を噤んだ。太腿の内側へと絡みついていたホープの足。それが、不意に引っ込められたのが分かったからだ。
「僕の足がどうかしましたか?」
 なんてやつだ。真面目な顔をしてこんなことをしておいて。思わず恨みがましい気持ちになってしまうのは、中途半端に煽られてしまったからだ。
「コタツでの睡眠時の影響は調べるとして――っ!?」
 そもそも、見えないことをいいことに悪戯する方が悪い。焦らすだけ焦らして知らぬ顔をしたのだ。このくらいはやっておかなければ気持ちが治まらない。
 やり返すように足を伸ばしたのはライトニングだった。彼女の滑らかな足が、ホープの股間を服越しにつうっと撫でる。
「ライトさん……っ、あなたって人は……!」
「どうした、ホープ?」
 股部分のステッチをなぞり上げるように足の指でやわやわと触れてみせる。服越しに、柔らかくて温かいホープを感じる。その場所が次第に熱を帯びて、膨らんでいくことも。不自然に息を詰めたホープに、今度はライトニングが白を切ってみせれば、ホープの口からは甘いため息が零れ落ちた。
「どうした、息が上がっているぞ。苦しいのか?」
 意地悪くそう訊ねながら足の指で膨らんできたその場所を刺激してやると、切なげにホープが吐息を零す。眉根を寄せて苦悩する表情は、ひどく悩ましい。微かに頬を紅潮させた彼が、「ええ」とゆっくりと首を縦に振る。
「苦しいです。だから……解放してください」
 ね、ライトさん。そう上目遣いになって見上げられると、ぞくりとしたものが背筋を駆け上ることが分かる。優位を握っているようで、その実ホープに支配されているような。獣のような情欲に揺れるその眼差し。エメラルドグリーンのその瞳に見つめられると、どうしようもなくお腹の奥がきゅんと疼いてしまう。
 ジイーッとジッパーが下ろされる音があった。布団の下に隠されていてその場所は視覚的には分からない。でも、きっと今、ホープのあの場所は血が通ってぱんぱんに膨れ上がっているのだろう。足の指で下着に触れれば、先ほどよりも生々しく柔らかい感触が伝わってくる。ほうっと、ホープの口から甘やかなため息が零れた。伏せられた睫毛が落とす影が、頬の上で揺らめいている。立ち上る彼の色香にくらくらとしそうだ。
「コタツの中でこんなにして、だらしないな」
「だって気持ちが……っ、いいんですよ……」
 呟く言葉の一つ一つが艶めいている。足の腹で揉みこむように押さえつけると、きゅっとホープの体が揺れる。足で触れるのは初めてのことだったのに、擦れるたびに蕩けそうな甘い眼差しが向けられる。それを肌で感じると、体の奥から甘い疼きが溢れて、溢れて、どうにかなってしまいそうだ。
「どうして欲しい?」
「もっと竿の部分を……はい、そう……足で……」
 ホープの言葉に導かれるように下着越しの彼自身をしごいてみせる。足先で触れる彼は、ほこほこと熱くて、湿っていて、妙にどきどきする。手や口で触れるとは全く違った初めての感触。大事なところのはずなのに、足の指でちょっと乱暴に触れると、はあっとホープが甘い溜め息を吐く。そういう色っぽい顔をされてしまうと、もっともっと悦ばせたくなってしまう。
「こうしたら……?」
「……っ! ライトさん……カンがいいですね……」
「ということはいいんだな」
「……ええ」
 小さくホープが震えたのが分かる。どうやら今なぞっている筋がいいらしい。ライトニングはぐっと足の指の力を込め、彼のものをひときわ強く押し上げた。
「っ……ライトさん……!」
 ぶるっとホープの体が大きく跳ねる。ほとんど反射的に彼は傍にあったティッシュボックスを掴むと、布団の中に手を突っ込んだ。びくびくと震える彼自身を感じる。どうやら、布団に零すということだけは回避したらしい。そんなホープの様子をぼんやりと見守っていたら、彼はすうっと目を細めると、低い声を出した。
「僕ばっかり気持ちよくなってたら不公平ですよね」
 ――嫌な予感がする。
「いや、それは……」
「遠慮しなくていいんですよ」
 そう短く言うだけ言うと、突如ホープはコタツの中に潜り込んでしまった。呆気に取られて見守っているうちに、コタツの中で伸ばしていた両足をがっちりと掴まれてしまう。あ、と思った時にはすでに遅かった。潜り込んだホープの頭が、あっという間にライトニングの足の間に入り込んでくる。
「おい、こらっ! やめろホープ!」
「うわっ、すごい眺めですね」
 慌てて布団を捲れば、太腿の間にふわふわとしたプラチナブロンドの髪が埋もれている。
 ライトニングの今日の服装は、ざっくりとした模様で編まれたセーターにミニスカート。その下はタイツだ。比較的厚手の生地とはいえ、太腿のあたりからは自然と薄くなってしまう。ホープが顔を突っ込んでいる場所は薄く透けて下着が見えているはずだ。
「失礼しますね」
 おい、待て――そうライトニングが静止の声を上げるよりも先に、両指がタイツの生地を摘まんで見せた。そのまま横に引っ張られると、ピッと綺麗な電線が入ってタイツに切れ込みが入ってしまう。
「せっかく新しいのを下ろしたばかりだったのに……」
「また新しいの用意しますから」
「そういう問題じゃな……ぁっ!」
 言葉は不自然に途切れて、今度はライトニングの口から甘い声が転がり落ちる。ホープの唇が、下着の上からライトニングの敏感な場所に触れたのだ。
「ライトさんのにおいがする」
「そんなこと……言われ……んっ、あ……」
「もうこんなにぐしょぐしょになってる」
 僕のをしごきながら感じてたんですか? よりにもよって股の間でホープが意地悪く囁いてくる。喋るたびに彼の息が敏感な場所に触れて、その熱さに思わず足が震えてしまう。反射的に足を閉じようとすれば、結果的に彼を股の間に挟み込んでしまうことになって、身を捩じろうとすれば捩じろうとするほどに彼から与えられる快楽が体の下から立ち上ってくる。
「ライトさんのここがくっきり分かるほど濡れてるの、分かります?」
「そんなの……知らない……っ」
「嘘は駄目ですよ。こんなにさせておいて、知らないなんてことはないでしょう」
 つうっとホープの人差し指が柔らかい肉の窪みを辿り、ある地点でくぷりと埋め込まれた。人差し指を簡単に飲み込んでしまうほどにぬかるんだその場所が、どれほどライトニングがホープを待ち望んでいるのかよく分かる。
 破けたタイツの切れ込みから覗くライムグリーンの下着は、もはや下着としての機能を果たしておらず、ぐっしょりと濡れそぼっていた。糸を引くほどとろとろに蕩けたその場所に顔をつけようと下着に手をかけて、ホープはあっと小さく声を零した。
「紐だ」
「……え? ああ」
 下着は当然タイツの下にあるので、脱がすにしても相当まどろっこしい。かといってずらしながら顔をつけるのも、億劫だ。いっそ切ってしまおうかとさえ思っていたホープは、彼女の腰の位置で結ばれた小さなリボンと呼ぶべきか紐と呼ぶべきか……ともかく結び目を見つけて、目を輝かせた。
「なんだ、ライトさんもやる気――」
「うるさいっ!」
 顔を真っ赤にさせたライトニングの肘がホープの頭に突き刺さる。
「痛いですライトさん!」
「おまえが余計なことを言うからだっ!」
 とは言うものの顔は熟れた林檎のように真っ赤なのだから、説得力は皆無というものだ。強いて問題点を挙げるならば、ホープに落とした肘鉄の威力がやけに大きかったことくらいか。しかし、そういうしている内に抜け目なくホープは下着の紐を解いてしまったらしい。もはや下着は下着としての機能を果たせず、ホープの目の前にライトニングの秘部があらわになる。
「あっ――」
 微かな声を零すライトニングを前に、ホープがエメラルドグリーンの瞳をすうっと細めてみせる。
「それじゃあ、いただきます」
 布団の下で、ホープの頭がその場所へとむしゃぶりつく。その突き抜けるような心地のよさに震えると、ライトニングは大きく首を仰け反らせた。
 熱く、柔らかい舌がライトニングの泉の中に入ってくるのが分かる。肉の襞を掻き分けて押し入ってくるその熱さに、たまらず腰が逃げようとするも、腰に手をまわしたホープががっちりと押さえつけていて、引くどころかより一層激しく掻き回されてしまう。ちゅぷちゅぷといやらしい水音が立ち上ってきて、訳が分からなくなってしまいそうだ。滲む視界の中には布団の下から覗くプラチナブロンドの髪が見える。股の間に顔を滑り込ませた彼が、さもうまそうにライトニングのその場所を啜っている様に、ぞくぞくとしたものが背筋を駆け上っていく。
 唇から零れ落ちる高い声は、まるでライトニングのものじゃないみたいだ。甘く、快楽に蕩けた女の声。零れる声の感覚がだんだんと短くなっていく。もっと奥まで入ってきてほしい。舌なんかじゃ足りない。太くて、熱いホープのが欲しい。体をうねらせるライトニングの欲求を察してか、不意にホープの唇が密壺から離された。
「……?」
 浅い絶頂の間際にいたライトニングは、不意に遠のいてしまった高みに思わず体を震わせた。――あと少しでイけたのに。自然、ホープを見下ろす視線が恨めしいものになってしまう。
「この恰好じゃあなたの顔が見えないと思って」
 イってる時のライトさんの顔。僕に見せてください。甘く、低く、そう囁かれる。現金なもので、すっかりホープに慣らされた体は彼にそう囁かれるだけできゅんと疼いてしまうからどうしようもない。意地悪く囁かれる度にこんな風に感じてしまうなんて。自分の体の変化に信じられないような思いも感じながらも、すっかりホープの色に染められてしまっているのが嫌じゃないから困ってしまう。
「期待してる?」
 そういう顔してる。見上げてくるホープのエメラルドグリーンの瞳に悪戯っぽい光が灯っている。こういう時の彼は、本当に意地悪だ。やられっぱなしはなんとなく悔しくて、ライトニングもまた覗き込むような眼差しで挑発的に囁いた。
「気持ち良くしてくれるんだろう?」
「……言ってくれますね」
 その不敵なライトニングの言葉を前に、ホープがぞくりとするような妖艶な笑みを浮かべる。――煽りすぎたかもしれない。ライトニングの頭に警鐘が鳴るも、もうすでに遅い。ホープのスイッチを入れてしまったようで、彼はすっと唇を持ち上げると、人差し指と中指の二本をライトニングの泉の中に突き立てた。
「……っ」
 ライトニングのナカで二本の指がうごめいているのが分かる。舌先では到底入りきれないような場所を、ホープの長い指先が這い上がってくる。
「すごい締め付けですね」
 感嘆符を零したのはホープだった。
「吸いついて、全然離してくれない」
 沈み込んだ指先が浅く引かれたのがわかる。待ち望んでいたナカへの刺激に、まるで体全体が悦んでいるみたいだ。唇から零れ落ちる高い声が抑えられない。じゅくん、とより一層深くホープの指先がナカへ侵入する音がした。
「ねえ、ライトさん。分かります……? もう三本も入っているんですよ」
「……そんな、に……っ」
「ライトさんがえっちだから、こんなに指が入っちゃうんです。ほら、もっと欲しいって言ってる」
 ライトニングのナカでそれぞれの指が器用に蠢いているのが分かる。狭い肉の襞を這い上がり、奥へ奥へと侵入してこようとするその動き。ホープが指を動かすたびにくちゃくちゃと水音が響いていて、それがまたどうしようもなく興奮してしまう。次第に浅くなる呼吸と、揺れる体。震える体に限界を感じ取ったのだろう。ぐちんとより一層、ホープの指先がライトニングの中を抉る。
「――ッ!」
 びくん、とライトニングの体が大きく跳ねた。仰け反る白い喉が、眩しい。びくびくとか細く痙攣しながら、ライトニングは次の瞬間ぐったりとコタツの机の上に身を伏せた。
「たまらない、って顔してましたよ」
「……うるさい、ばか」
「困ったな。ライトさんにそう言われると興奮してしまいそうだ」
「もっとばかだ……」
 浅い快楽の中を揺蕩っているみたいだ。全身にぴりぴりとした甘い痺れが残っている。ぐったりとしているライトニングを見上げて、ホープはコタツの中から這いずり出た。
「今、すごい間抜けな姿になってるっていうのは分かるんですけどね」
 追い縋るようなライトニングの視線に、苦笑して答えてみせる。這いずり出たホープが棚の引き出しを開けると、中から見覚えのあるパッケージが顔を出した。それを見ると、次の行為が急に現実じみてしまって、ライトニングは赤面してしまう。
「もしかして照れてる?」
 さっきもっとすごいことしていたのに。小箱を手に帰ってきたホープが、ライトニングの背中越しで囁く。その甘やかな響きに、思わずライトニングの肩が震えた。
 手で個包装になっている袋の封を切り、手早く装着していく。寒さとは別の意味で体を震わせたライトニングを前に、まるで肉食獣のようにホープがすうっと目を細めた。彼はライトニングを器用に片手で抱きすくめると、その柔らかい耳を甘く噛んでみせる。
「これからライトさんのナカに入りますからね」
 ぴったりと体を密着させれば、ライトニングの尻の位置に脈打つホープの熱を感じる。見なくても分かるほどぱんぱんに膨れ上がった欲望の塊。まるでライトニングの中に早く入ってしまいたいと言っているようだ。
「ライトさんは腰を浮かせてくれて、ちゃあんとナカに入りやすいよう導いてくれるんです」
 まるで、耳の中を犯されているようだ。唇が触れそうなギリギリの距離で囁かれるホープの声。いつもの声よりも低くて甘いその声音に、くらくらとする。
「僕のが入ると、きゅっと締め付けてきて……」
 まだ、ホープのはライトニングのナカに入ってはいないはずだ。そうだと言うのに、まるでホープがお腹の奥で蠢いている錯覚に陥ってしまう。
「それがすごく気持ちいいんです」
 耳の中に温かい吐息を感じる。次の瞬間、ホープの舌が耳の中を舐めて、たまらずライトニングは高い声を上げた。慌てて両手で口を抑えるものの、ホープにはしっかりと聞かれてしまった。その証拠に、彼は満面の笑みを浮かべている。
 自然、睨みつけるライトニングの眼差しは恨みがましいものになるのはしょうがないというものだろう。
「そんな顔で見たって煽るだけにしかなりませんよ」
 柔らかく微笑むその余裕がまた恨めしい。とは言え、ホープの巧みな言葉によってライトニングの受け入れる準備は十分すぎるくらいだった。背中に感じるホープだって、もうかなり苦しいはずだ。時折、背中越しにひくりと動いているのが分かる。
「おまえを良くしてやる」
 振り返りそう囁いて、ライトニングは腰を浮かせてホープの上に跨って見せた。そのままそろそろと、彼の熱があるであろう場所に腰を落としていく。片手でそっと彼に触れてみせた。――熱い。ゴムの薄い膜越しに熱いホープを感じる。
 指先で固定させながら、反対側の手で入り口を押し開く。くちゅ、という微かな水音が立って、ホープがゆっくりとライトニングのナカに入っていく。
 不意に後ろから伸びてきた指先が、悪戯にライトニングのセーターの中に入ってきた。外気に触れて少し冷たい指先がわき腹を撫でる。思いがけない刺激にかくんと腰が落ちた。ずん、と一気に奥までホープが入ってきたことが分かる。
「っあ! ちょっ……ま、待て!」
 私が気持ちよくさせるのに。そう口にしたかったのに、代わりに高い声が零れた。背をしならせるライトニングの動きに調子を良くした指先が、セーターの中から体をまさぐってくる。腹を撫で、臍のピアスの形をなぞり、そのままするりと這い登ってきた指先が、ライトニングの柔らかい砂丘を確かめるような動きをしている。やがてその頂点にたどり着いた指が、頂きをつまみ上げた。すっかりと充血して張りつめているその場所は、ホープからもたらされる甘い刺激に対して敏感になっている。
「んん……っ」
 胸に悪戯をしかけながらも、繋がっているところは浅く振動しているのがまたもどかしい。ライトニングの下になっているホープが腰を揺らしているのだ。ホープに揺られながら胸を弄られて、どうにかなってしまいそうだ。
 浅い振動はすでに、揺れ動くほど大きなものに変わっていた。ライトニングのより深いところを目指して、熱いホープが昇ってくる感覚がダイレクトに伝わってくる。
「そんな、激しく……っ」
「気づいてないんです、か……っ? ライトさんが……くっ、腰、振ってるん、です、よ」
 揺さぶられながら、途切れ途切れに耳元で囁かれるホープの余裕のない声。
「そんな、わけ……っ」
 ない。そう続けようとして、視線を落とせば、ぐちゅんと一層深く繋がる水音がする。ナカできゅんと締め付けてしまう。どうしようもなく、腰が、動いてしまっている……。
「あっ、やっ……ああっ!」
 自覚してしまうと、もう駄目だった。より高みを目指してライトニングの腰が、ゆさゆさと揺れる。その左右への振動と、ホープが下から突き上げてくる上下の動きで、擦れて、擦れて、どうにかなってしまいそうなほど気持ちがいい。ホープのものを受け入れるために子宮が落ちてきているのが分かる。ぬかるむナカで、ホープの動きが加速するのが分かった。――もう、限界が近い。
「ホープ……!」
「ッ、ライトさんッ!」
 名前を呼ぶ。呼ばれる。次の瞬間、お腹の中で大きく膨らんだホープの鼓動を感じて、ライトニングはきゅううっと彼を胎内で深く抱きしめたのだった。

   * * *

「いやー……」
 だるさの残る左手で額の汗を拭いながら、ホープはぐったりとライトニングの隣の狭いスペースでひっくり返った。喉はすっかりからからで、普段の行為以上に水分が失われていることが分かる。
「流石にこういう使用用途は想定してなかったな」
 コタツの。そう口にすれば、隣で同じようにぐったりとしているライトニングからも当たり前だ、と掠れた声が返ってくる。二人の服はもはやあっちこっちに散らばっていて、その乱れ具合からどれほど行為に熱中していたのかがよく分かる。正直、コタツのシチュエーションでここまで燃えると思っていなかった。完全に予想外だ。
「これは……ちょっと、製品化する前に要検討ですね」
 賭けてもいい。絶対同じようなことをやる人間が出てくる。
「まだやるのか……!?」
 隣ではホープの言葉にぎょっと目を剥いているライトニングの姿がある。憎まれ口を叩く余裕があるのだから、まだまだ彼女には余裕があるのだろう。元来、軍人であるライトニングはホープよりも体力がある。
「今すぐって意味じゃなかったんだけど」
 苦笑してそう口にすれば、自ら墓穴を掘ったことを理解したのだろう。ライトニングが耳まで真っ赤になる。そういう迂闊なところも含めて彼女のことをとても可愛いと思う。
「とりあえず、水を飲みましょうか」
 じゃないと、僕もうカラカラで。そう口にすると今度は素直にライトニングもああ、と頷いてみせる。とりあえず下着だけ身に着けたホープは、のっそりと起き上がって、その肌寒さにぶるりと震えた。
 ファルシによって気候が管理できなくなった今や、暑さ寒さは人類が自ら工夫して乗り越えていなければならない壁だ。安価で入手しやすい資材から作成できる暖房器具の開発は引き続き進めなければならないけれど。
(今日はライトさんで暖をとるってことで)
 やっぱり人肌に勝る心地よさはないものだ。後でもう一回ライトさんに温めてもらおう。ホープは一人そう力強く頷いて、キッチンへと水差しを取りに歩いて行ったのだった。
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