2018.05.09 公開

雨上がりのふたり

「ライトさん、見てください!」
 背中から弾んだ声が飛んできて、私は振り返った。
 零れんばかりの満面の笑みを浮かべた少年――ホープが、にこにこと人差し指を天に向けて立てている。その方角が指し示す先には、高木に実るたわわな果実が並んでいた。
「よくやった」
 殻は固いが割って身を取り出せば、甘くて濃厚な、おまけに栄養価の高い実を取り出すことができる。今晩の夕食はちょっとした贅沢ができるだろう。
 低木に紛れていて、私では気が付かなかった。目端の利くホープならではのお手柄だろう。彼の観察眼の鋭さに口元を綻ばせると、ホープは嬉しそうに淡く頬を染めた。まんざらでもないらしい。
「取ってこれるか」
「はい、できます」
 ホープの顔はすっかりやる気になっていた。彼はそう口にするや否や、木の幹に足をかけてみせた。手ごろな枝に両手をかけて、体を起こし、そうして次々と高い枝へと進んでいく。体重の軽いホープならではの動きだ。
 変われば変わるものだ。猿のようにするすると木を登っていくホープを見上げて、私は腕を組み直した。
 出会った頃のホープはいわゆるお坊ちゃん育ちで、木登りどころか足場の悪い道を歩くことさえままならなかった。肩で息をしながら、私の後をなんとかついてくるといった有様だった。
 それが今や、二つ返事で木登りをこなしてみせるから大したものだ。それだけじゃない。旅に欠かせない食料を見つける目端の良さを発揮したり、戦闘においてはヴァニラと並ぶ高い魔力を持つまでに至った。
 ホープはこの短い旅の間に、目を見張るような成長ぶりを見せている。今までそれを見守ってきた身としては、嬉しくないわけがない。
「ライトさん、落とすので気を付けてください!」
 ホープの張り上げた声が降ってくる。まもなく鈍い音がして、木の実が次々と落ちてきた。高所からそのまま落とすことで固い殻にひびを入れておいて、実を取り出しやすくするのだ。
 私は落ちてきた実にひびが入っていることを確かめて、中の実を順番に取り出していった。そんなことをしている内に、ホープは木から降りてくると、私と一緒になって木の実を拾い始めた。おかげ様で、袋の中はあっという間に木の実でいっぱいになったというわけだった。
「大量ですね」
「ああ。これで数日はもつ」
 お手柄だ。そう続ければ、ホープは嬉しそうに目を細める。食料調達の班分けをしてからというもの、まだ三十分と経っていない。実に理想的な成果だ。あとは狩りに出かけたファングたちがいい肉を仕入れてくれることを期待するまでだ。
「時間、余っちゃいましたね」
 木の実でいっぱいになった袋を持ち上げて、ホープが見上げてくる。心なしか、その口調がそわそわとしているような気がした。
「ライトさん」
「……駄目だ」
「まだ何にも言ってないですよ」
 間髪入れずに拒否をした私の言葉に、ホープが恨めしそうな声を上げる。提案をする前に断られたからだろう。せめて話くらい聞いてくれという顔をしている。
「……なら言ってみろ」
 牽制を込めてじろりと見下ろすものの、もはやホープにとってそれはほとんど効果のないものらしい。出会った当初は一睨みするだけでびくびくと怯えて物陰に隠れていたというのに、本当に変われば変わるものだ。
 軍では気難しいと評判だった私の仏頂面を無視して、ホープはほんのりと頬を薄桃色に赤らめる。身長差もあって、必然的に上目遣いだ。照れくさそうに鼻の頭を掻きながら見上げる様は、十四歳という未発達な容姿も相まってか庇護欲をそそられる。くりんとした大粒のエメラルドの瞳が心なしかきらきらと輝いている気がした。
「キスしてもいいですか?」
「却下だ」
 間髪入れずに、私はそれを断った。そのままホープに背を向ける。
「……この前したばかりだろう」
 案の定と言うか、予想通りだった提案にはっきりとノーで返す。以前のホープだったら、私が有無を言わさず却下した時点で引いていただろう。しかし、今の彼は違っていた。背を向けた私の顔側に回り込んで、じとっと見上げてくる。
「この前って三日も前のことじゃないですか」
 簡単には引き下がらない。三日というのはホープにとってはずいぶん前のことらしい。少し拗ねたように頬を膨らませている。そういう仕草がいちいち様になりすぎるのが困りものなのだが、それはこの際置いておく。
 キス。たかがキス。されどキス。旅の最中、ホープとものの弾みでそういう関係になってしまってから、それなりの時間が経った。我ながら迂闊というか間抜けだと今にして思うのだが、雨宿りで入った洞窟で薄着になった結果、ホープに押し倒された。
 その時は、ホープはまだ子供だから“そういう対象”ではないと思っていた。……が、実際はとんでもない思い違いだったという訳だ。
 ルシである以上、私たちにもはや後戻りできない。少なくともあの洞窟の中での私たちに年の差という枷はなく、先の見えない未来を前に、刹那的に行き着く先まで行ってしまったというか何というか。
 愚かなことをしたという自覚はあったが、後悔はしていない。少なくとも、私はホープのことを少なからず好いている。
「駄目なものは駄目だ」
 あの行為以降、ホープからのスキンシップが増えた。やたら触れたがるようになったのだ。
 三日前のキスだって、キスだけだって言ったくせに、結局その後また流された。ホープの年齢が十四ということを考えると、そういう行為をするにはどう考えたって早すぎる。こういうのは、自分の行動にきちんと責任を取れるようになってから行うべきだと思うのに、一度味をしめてしまったのか、チャンスがあればこうして攻めの姿勢に転じてくるのだ。
 断らなければまた流される。分かっているからこその拒否だというのに。
「駄目な理由を教えてくれないと納得できません」
 言っていることは至極まっとうだ。理にかなっている。だけど、その行為の先にあるものを考えると、予防線を張るというのはけして間違っていないと思う。
「おまえとキスをすると……その、その先までいくことになる可能性が高いだろうが」
「僕はキスしたいとしか言っていませんよ?」
 ライトさんはそういうことしたいと思ってるんですか? とでも言いたげにくりんとした瞳を瞬かせている。白々しい。
「どの口が言っている」
「僕の口です」
 にっこりと浮かべる笑顔がまたとてつもなく無邪気なのが手に負えない。
 ホープは子供だ。それは間違いない。彼の将来のことを考えれば、性交渉はあまりにも無責任だ。私が二十一という年齢を考えれば当然のことだろう。ホープの将来を考えるのならば、そういう行為を許してはいけないと頭では分かっているのに。
「要約するとキスは別にいいんですよね」
「そうは言ってない」
 都合よく解釈しすぎだろう、このエロガキ。そう言えばそういうことで頭がいっぱいな年齢だったということを思い出して、私は深くため息を吐いた。
「ライトさんは僕とキスするのは嫌なんですか?」
 宝石のようにきらきらしいエメラルドの瞳がライトニングを見上げている。下がり眉で不安そうに尋ねられるその言葉に、咄嗟に声が詰まってしまう。辛うじて発した言葉は、蚊が鳴くような小さなものだった。
「……嫌いだとは言ってない」
「僕はライトさんのことが好きです」
 ライトさんは? そう目が言っているのが分かる。
「……嫌いじゃない」
「キスしても?」
「……」
 ホープはずるい。そういう言い方をすれば、私が断れないのを分かって言っているのだ。
 ほっそりとした白い腕が伸びてくるのが分かる。ホープがつま先立ちになって、そのまま首の後ろから引っ張られる。そうすると、必然的に私たちの距離は近づいた。
「――」
 柔らかい感触がくちびるの上に重なった。軽く触れるだけ。とても近い場所に、幼いホープの顔立ちが見えた。プラチナブロンドの柔らかそうな髪。その髪と同じ色の長いまつげはふっさりとしていて、頬に影を落としている。柔らかそうなすべすべの頬。エメラルドみたいな玉をはめ込んだ瞳。そのまっすぐな視線に絡められると、顔を背けることができなくなってしまう。
「ライトさん」
 そのまま、もう一度キスをされてしまう。駄目だと振り払わなければならないのに。おまえには早すぎる行為だと諭さなければならないのに。そういうライトニングの気持ちを見透かすように、吐息がかかる距離でホープは囁く。
「すき」
 再び触れたくちびるの感触に思わず目を見開いたその時、背後にあった木の幹に体を押し付けられた。思わず膝を折る私と視点が同じになったことをこれ幸いにと、ホープのくちびるがより深く私を求めてくる。
「ねえ、ライトさんは……?」
 呼吸の合間に尋ねられる言葉は、やっぱり幼い。大人にならなくちゃいけないのに。しっかりしなきゃ駄目なのに。分かってはいるのに、甘さを含んだホープの声を聞いてしまうと、体の力が抜けてしまう。
「……嫌いじゃない」
「ライトさんのいじっぱり」
「どうとでも言え」
 ちゅ、とくちびるとくちびるが触れる音がする。絡められる舌の熱さに考えることが億劫になって、私は木の幹に体を預けた。
 ふわふわとしたプラチナブロンドの髪が、耳に、頬に、首筋に触れていく。柔らかくて熱い舌先が首筋を撫でると、そのくすぐったさに思わず体が震える。思わず瞼を閉じると、暗闇の向こう側で「ライトさん、かわいい」と零すホープの声が聞こえる。
 かわいい、というのは私のような無骨なものではなく、もっときらきらとした眩しいものを指すのだろう。本人は否定をするだろうが――例えば、ホープのような。否定を織り交ぜて瞼を持ち上げれば、嬉しそうにチャックのジッパーに手をかけるホープの姿が見える。やっぱりこうなるんじゃないか。分かっていたものの、また流されつつある自分にどうかしていると思う。
「違うこと考えてるでしょう」
 きゅっと両頬を包み込まれる感覚があって、私はホープと目線を合わせた。意外に大きな手のひら。今はまだ私よりもずっと小さな彼だが、もしかするとこれからぐっと大きくなるかもしれない。とは言え、まだ十二分に幼いと言える顔立ちが不満そうに頬を膨らましているのを見ると、思わずぷっと笑いが込み上げてくる。
「駄目か?」
「駄目です。……僕のことだけ考えてくれないと」
 そういう大事なところの声だけはなぜか小さい。なんとなく悪戯心がむくむくと持ち上がってきて、私は唇の端を持ち上げた。
「よく聞こえない」
「~~っライトさん!」
 顔を真っ赤にしているホープの様子こそ“かわいい”のではないだろうか。にやにやと笑っていると、私の考えていることを察したのだろう、ホープが面白くなさそうに唇を尖らせている。
「おまえのことだけを考えさせてくれるのだろう」
 少々意地悪が過ぎたようだ。苦笑して口にすれば「聞こえてるんじゃないですか」と言いたげなホープの顔が見える。そのくちびるが首筋に降ってくるのを受け入れながら、私は目を閉じた。
 照れたり、拗ねたり、怒ったり、笑ったり。ホープはくるくると表情を変える。それに目が離せないから、結局いつも受け入れてしまうのだ。
(もうとっくにおまえのことばかりなのにな)
 その言葉を紡いでしまうと、ホープはきっと調子に乗ってしまうから口にしないでおこう。思わず笑んだ私の心を知ってか知らずか、ホープが胸元に吸い付いた。

   * * *

 目を見張るべきはその学習能力と言うべきか。初めて触れた時、ブラのホックを外すことさえ手間取っていたはずなのに、今やすっかり手慣れたもので、セーター越しに片手で器用にホックを外してしまう。一体その学習能力は何なんだと文句を付けたい一方で、その能力の高さ故にルシの旅に付いてこれるようになったということは間違いないので、安易に否定するのが難しいところが厄介だ。
 そうこうしている内に、はだけたセーターの隙間にホープの手が侵入してくる。
「……っ」
 外の外気に晒された素肌が粟立つのが分かった。そんな私の反応を知ってか知らずか、ホープは指の腹で触れていたその場所に、再び口を付ける。ぬめりとした、温かい感触。柔らかいホープの舌先が、ちろちろと乳房を舐めているのが分かる。微かな息遣いが零れて、プラチナブロンドの隙間から時折彼の唇が覗く。鮮やかな赤く小さな舌先が、日に焼けていない白い肌を辿る背徳感にくらくらとしそうだ。
「……っ」
「声、出していいのに」
 息を詰める私の「声が自分らしくないから」という理由を見透かしてか、ホープが胸元で囁く。ルシの刻印が浮かぶその場所に落とされる息はほんのりと温かい。思わず身を捩れば、逃がさないとでもいうように、ホープの唇が追ってきた。
 そのまま、淡く色づく先端部に齧り付かれる。吸い付いた唇から、その場所を確かめるように舌が伸びてきた。下から舐り上げられて、吸い付かれるとぴりぴりとした甘い電流が背筋を駆け上る。
「……っぁ」
 堪え切れない声が唇から零れ落ちた。その甘い声音がやっぱり恥ずかしくて、私はとっさに自分の指を噛む。くぐもった息。対するは、つまらなさそうなホープの顔。見上げてくるその瞳に不満だとありありと書かれてある。
 それでも、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。そこは譲れない。
 猫のように胸元を舐めていたホープの手が、不意にスカートの中に伸びてきた。たくし上げられたその場所は、彼の愛撫によって甘い疼きを持っている。思わず震えた私の反応に気を良くしてか、ホープの指先がショートパンツの中に差し込まれた。戦闘で激しく動くことはざらなので、下着が見えないようにスカートの下に着用していたものだ。伸縮性のあるショートパンツだけでなく、ショーツの中にまで入り込んだ指先が、熱を持ったその場所にひたりと触れる。
「濡れてます」
 そんなの、口にしなくたって分かっている。
 思わず恨みがましい目で見上げれば、今度は楽しそうなホープの顔。別に濡れていたっておかしなことじゃないだろうが。そう口にすれば、ライトさんが感じてるっていうのが嬉しいんです、とにこにこと笑う。
 思わずむっとして、私は仕返しと言わんばかりに、彼のズボンの中に手を差し入れた。すでに興奮しているのか、ホープ自身はすっかりそそり立って、ズボンの股部分でテントを張っている。
「ら、ライトさん!」
 慌てたようなホープの声に、微かに期待が混じっているのが分かる。私は口角を持ち上げると、ズボンの中に差し入れた指先を、ゆっくりと根元から撫で上げた。
「……っ」
 びくん、とホープの薄い体が揺れる。唇から、はあっと艶めかしい吐息が零れ落ちた。うっすらと頬を染めて、甘く蕩ける眼差しを向ける少年に、おまえの方が絶対かわいいだろう、と断言したくなる。すでに、ホープの愛撫はなおざりになっていた。いいだろう。思う存分蕩けさせてやる。
 私は伸ばした指先で、つうっと先端部に触れた。すでに下着に染みを作っていたらしい我慢汁が零れている。後々、洗濯だろうな。内心思いながら、これ以上洗濯の範囲が広がらないように、彼のズボンを一息にずり下す。途端「ライトさん」と情けない抗議の声が上がったが、そんなものはお互い様だ。そそり立つホープ自身が、ぼろんとお目見えする。
「濡れているぞ」
 仕返しと言わんばかりにそう口にすれば、ホープから恨みがましい視線が送られる。……なるほど。確かにこれは癖になる。
 ぬるぬるとぬめる透明な汁を人差し指で掬い取り、それをホープ自身に擦り付けた。指先で包み込むように彼のものを握りしめて、ゆっくりとスライドさせれば、びくびくとホープの体が揺れる。何かを堪えるように、ぎゅっと両目を瞑って凌いでいるその姿は、彼をディフェンダーに割り当てた時を何となく連想させる。ふうふうと零す吐息はしっとりと濡れていて、上気した頬が、彼が快楽の中にいるということを教えてくれていた。
 ぬかるむ彼自身を手のひらで包み込んだまま、ゆっくりとスライドさせていく。次第に荒くなっていく息。高まりを感じていることを理解して、私は彼の先端部にそっと唇を寄せた。
「っあ!」
 掠れた甘やかな声が聞こえる。大きく震えたホープの反応に気を良くして、私は上から下、形をたどるように舌先でキスを落としていった。鼻先をむわっと雄の匂いがくすぐってくる。強く香るホープの匂いに笑みを深めて、彼のものを口で含めば、ホープはいっそう体を大きく揺らした。
「ライト、さ……っ」
 余裕のないホープの掠れ声。指先の動きを追いかけるように、すぼめた口で彼のものを上下にスライドさせれば、ぶるっとホープが全身を大きく震わせた。不意に、頭を強く抱え込まれる。
「……っく、ああっ!」
 どくん、と口の中で脈打つホープを感じる。次の瞬間、口内に苦いものが広がって、彼が果てたということを理解した。びくびくと白い腹が震えているのが分かる。上気した肌の上に転がる玉のような汗が、妙に色っぽかった。
 ぜえぜえと肩で息をしているホープを下から見上げて、私は唇をぺろりと舐めた。
「ご馳走様」
「……全部、飲んじゃったんですか」
「おまえが頭を掴んでいただろう」
「それは……そう、なんですけど」
 歯切れが悪い。真っ赤に染まったその頬と潤んだ瞳で見下ろされても、むしろそそられると言うものだ。滑らかな、だけど少し筋肉の付き始めた腹を指先で撫でれば、ぴくんと微かに震える。そういう仕草が煽っているというということを、ホープは気が付いていないだろう。
「ライトさんっ!」
 不意に、かなり強引に地面に押し倒された。思わず尻もちをついた私が目を白黒させている内に、高い位置に足を持ち上げられてしまう。
「おっ、おい」
 慌てて上げた私の声を無視して、ホープは下着ごとショートパンツを引き抜いた。
「糸引いてる……」
「う、うるさいっ!」
 かなり強引な攻守逆転に、抵抗しようと体を捩じるものの、上からしっかりと押さえつけられたせいで隠しようもなかった。
 ホープに愛撫を与えながら、私もまた疼いていたのだ。引き抜かれた下着に残った染みは今更隠しようもない。咄嗟に足をばたつかせた私の行動はすでに想定の範囲内だったのか、両足の間に体を滑り込ませたホープは、あろうことかぬかるむその場所に顔を寄せてきた。
「こらっ、ホー……っ!」
 ふわふわとしたプラチナブロンドの髪が、割り開かれた秘部の上に広がっている。「僕もライトさんに気持ちよくなって欲しいんです」そう囁いたホープの言葉は、ある意味献身的ともとれるが、そんなものを与えられなくとも、とっくに身体の準備は整っている。これだけ蕩けていたのなら、執拗な愛撫など必要ない。
 そんなことはもう分かっているだろうに、ホープの動きは止まらなかった。
「っ……っんん!」
 零れそうになる嬌声を、何とか指を挟みこんで堪える。ゆらゆらと揺れているホープの髪。一番敏感なその場所に唇を寄せたホープが、わざとらしく音を立てて吸い付いている。
 とっくに張りつめて敏感になっているのに、舌で舐られて、おまけにナカにまで指を差し込まれて。掻き回される水音が、今まさに淫らな行為をしているのだと、嫌が応にも自覚させる。生理的に浮かんだ涙に、思わず強く首を振った。ぞくぞくとしたものが駆け上っていく。持ち上げられた腿が痙攣にも似た震えを起こす。
「我慢しないで。声、聞かせて」
 敬語の取れた、どこか乱暴なホープの声。くぐもったと息のようなものが指の間から零れ落ちた。ぐじゅ、と泡が立ちそうなほど何度も突き立てられた指が三本、再び根本まで差し込まれる。指の愛撫だけじゃない。その幼さを残す顔を寄せて、尖らせた舌先で一番敏感なところを圧し潰されて。
 その訳の分からなくなる衝動に、ぐっと背がしなる。
「ライトさん……――イくの?」
 囁かれたその言葉の低さに、ぞくりと粟立つ。次の瞬間、弾けるような快楽が突き上げてきて、私はくったりと体を弛緩させた。ホープの成すがままに、果ててしまったのだ。
「ホープ」
 指先を引き抜いて囁いた彼の名前は、ひどく舌足らずな音になった。とろりと視界が滲む。曖昧になる。ぼやける映像の中で、私の足をいっそう高く持ち上げるホープの姿が見えた。
「……いっしょに」
「はいっ」
 短いその返事には、今度こそ余裕はなかった。ぶつかるように腰が引き寄せられる。張りつめてぱんぱんに膨らんだ、ホープの熱の塊。それが、私のナカに、入っていって……。
「っああ!」
 指が間に合わず、思わず喉から高い声が迸った。いきなり最奥にまで辿り着いたホープの熱さに、全身が歓喜しているのが分かる。
 ホープにはまだ早い。こんなことばかりさせてはいけない。そういう理性的なところは、あくまで私の倫理観の話であって、体をぶつけられてしまうと否が応でも感じてしまう。
 ホープは、ではなくて。私は。ホープの熱さを知ってしまった私は、彼の熱を、欲している。
 彼の愛撫ですっかりほぐれたナカは、ホープ自身に絡みつくように吸い付いて、繰り返される挿入に歓喜している。激しさを増してくるピストン運動に、応えるように身体の奥からぬかるむ愛液が零れ落ちた。初めてを奪っていったホープの熱。溺れているのは果たしてどちらなのか。
 緩んだ左手のバンダナの隙間から除く刻印と、私の左胸に浮かび上がった刻印が視界の端にちらついていた。それらはすでに大きな目玉を覗かせていて、きたる決断の時が近いことをあらわしている。
 先は見えない。いずれにせよ、人としての生は叶わない。
 ならば、獣のように互いを求め合うことを、一体誰に非難されようか。
 結局のところ、体を繋ぐこの行為に歯止めをかけていたのはそれまで培ってきた“常識”であって、グラン=パルスというこの広大な大地でそれは、腹を満たすものにも成り得ない。私の上で熱心に体を動かしている、年下の少年を見ていると、不意にきゅううっと胸が苦しくなった。
「ライトさんっ、ライトさんっ!」
 求める声が聞こえる。その声に応えるように、喉の奥から甘い声が転がり落ちた。背中に手を回す。爪を立てる。ナカに突き立てられたそれを、抱きしめるように締め付ける。
 ぐん、と一層深く抉られる感覚。ホープの限界が近い。
「んむっ」
 伸びあがるようにして、キスをした。求めるように彼と繋がる。次の瞬間、私の中で大きくホープが脈打つのが分かった。
「~~~~っ」
 声にならない声が迸る。そのまま大きく背をしならせて、ぶるりと大きく震えて崩れたホープの体を私は全身で受け止めた。
 腹の中が熱い。彼の熱で目の奥がチカチカしている。だけど、胸の上に崩れた彼のプラチナブロンドを見ていると、共に昇りつめた多幸感で、なんだか胸が苦しい。
 はら、と一筋涙が零れ落ちた。悲しくはない。運命を切なく思ってでもない。そもそもルシにならなければ、私はホープと出会っていない。
「ライトさん」
 意識を取り戻したのだろう。はだけたセーターの隙間から顔を上げたホープが不安そうな顔色になって私を見ていた。さっきまで調子が良かったというのに、こんな風に、すぐに不安げな顔を見せる。そういうところが、やっぱり目が離せないな、と思う。
「……痛かったですか?」
 つい、と触れてきた指先が、流れた私の涙に触れた。その指先は温かい。
「違うよ、ホープ」
 その指先に手を添えて、私は彼を安心させるように微笑んでみせた。
「違うんだ」
 そう口にして、彼の頭の後ろに両手を寄せた。ふわふわとしているプラチナブロンドの髪は、見た目通り柔らかい。その感触に目を細めて、私はゆっくりと彼の頭を抱き寄せた。私とはまた違う、ホープの匂いがする。腕の中の少年に頬ずりすると、彼はくすぐったそうに目を細めてみせた。
「産毛が見える」
「ライトさんだって」
「そう言えばそうだな」
「あ、ほくろ」
「へえ。こんなところにあったのか。知らなかった」
「ライトさんも知らないなら、僕が一番最初に気が付いたのかな」
「そうかもな」
「へへ……嬉しいな」
 砕けた少年らしい笑みが零れ落ちる。くすぐったそうなホープの笑顔に、釣られるようにはにかんでみせれば、ホープはエメラルドグリーンの瞳を丸くさせて「反則です」と顔を伏せた。
 何が反則なんだ。顔を伏せたホープに問いかけるように声をかけようとしたところで、ぬるりとしたものが胸元を這うのが分かった。
「っ」
「さっきのライトさんの声、かわいかったです」
 またかわいいと口にされた。不本意なのだが、それよりも今は顔を伏せたホープがはだけて全開になっていたセーターの胸元で吸い付いているのが問題だった。
「おい」
「一回じゃ満足できません」
 私の中に埋まったままになっていたホープが、早速元気を取り戻しているのを身体で感じてしまう。思わず赤面する私に、乞うようにしてきらきらしいエメラルドグリーンの瞳が見つめてくる。
「だめ、ですか?」
 空を見上げる。太陽の位置は先ほどからさほど変わっていないようだ。食料は十分。集合時間までにはまだ時間がある。
「……一回だけだぞ」
 そう口にして、一回で終わった試しなど一度もない。お約束の言葉に、ホープの方は現金なもので、それはもう嬉しそうに破顔する。
「はいっ!」
 元気だけは一人前だな、そう苦笑を零そうとしたところで、胸元への愛撫が再開される。いつの間にやら師弟関係をあっさり飛び越えてしまった目の前の少年に翻弄されるのも悪くはない。
 私はそっと目を伏せると、柔らかな舌がもたらす彼の愛撫に身を委ねた。
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