2016.05.09 執筆
2017.01.30 改訂

雨のふたり

 文字通り、バケツを引っくり返したような土砂降りだった。
 人工的に天候を管理しているコクーンとグラン=パルスでは、比べ物になるはずがない。ちょうど食料を探しに出ていた僕とライトさんは、瞬く間に全身濡れ鼠になった。幸いにもライトさんが横穴を見つけてくれて、慌てて僕らはその中へと転がり込んだのだった。
 重くなった衣服を雑巾絞りをすれば、滝のような雫が地面に広がっていく。頬に張り付いた髪を払いながら、ため息を吐いて僕は土砂降りの空を見上げた。
「ひどい雨ですね」
「全くだ。とにかく、上がるまではここで避難していよう。みんなと合流するのはその後だ」
「そうですね……っはくしゅ!」
 濡れた衣服の肌寒さに思わずくしゃみをして、僕は慌てて口元を抑えた。しかし、はっきりと聞かれてしまったのだろう。ライトさんは微かに眉を寄せると、ため息を吐いた。
「……風邪を引く。服は脱いだほうがいいだろう」
 そう短く言って、さっさとジャケットを脱いでしまった。呆気にとられる僕の目の前で、ライトさんは濡れた衣服を取り払っていく。思いがけない目の前の光景に真っ赤になってしまうのは、思春期としては当然な反応という訳で。
「そんなに見られると、こちらもやりにくいのだが」
「は、はいっ。すみません……」
 思わず声が裏返ってしまった。恥ずかしい。羞恥に真っ赤になる僕を前に、ライトさんはそっけなく言葉を続けた。
「おまえもさっさと脱げ」
「僕もですか!?」
「当たり前だろう。風邪を引く気か」
「そ、そうですよね……」
 脱ぐという行為に過剰に反応しているのは、どうやら僕だけらしい。ぎこちなく服を脱いでいる僕とは対照的に、ライトさんはさっさと下着姿になってしまった。
 シンプルな黒の下着だった。ごくりと生唾を飲んでから、慌てて視線を外す。見ちゃ失礼だと分かっていながら気になってしまうのは、どうしようもない。
 そうこうしている間に、ライトさんは横穴の中から乾いた枝と葉っぱを見つけてくると、手際よく焚き火を熾してしまった。
 本当に、意識しているの僕ばかりだ。いつもとまったく変わらないライトさんの様子に勝手に打ちのめされながら、僕はすごすごと下着一枚になった。こうなったらやけくそだ。平たい岩の上に絞った服を置いて、僕はライトさんの隣に腰掛けた。
「どうした。寒いのか?」
「た、焚き火がありますから大丈夫です……へっくしゅ!」
 まったくもって説得力のない言葉だった。ライトさんも呆れたように僕を見ている。
「雨で冷え切ってしまったんだろう。もう少し近く寄れ」
 呆れ声に恥ずかしくなって、僕は視線は焚き火に向けたまま、ライトさんの傍に近寄った。ちょっと気を抜いたら触れてしまいそうなほど近い位置にライトさんがいる。雨の匂いと、微かなライトさんの匂い。ざあざあと地面を大粒の雫が叩く音が、横穴の中に響いていた。
「その……焚き火の近くに寄れ、という意味だったんだが」
 雫と一緒にぽつんと落ちた言葉は、ライトさんのものだった。何のことだろう? 首を傾げてから、言葉の意味を正しく理解する。“ライトさんの近く”じゃなくて“焚き火”に寄れって意味だったんだ――。
 沸騰しそうなほどに熱い。顔から火が出るとはまさにこんな時に使うのだろう。外が酷い雨だけど、今すぐここから飛び出して逃げてしまいたいほど恥ずかしい。
 ぱちり、と焚き火の爆ぜる音がした。その音にかき消されてしまいそうなほど小さな声で、しかしはっきりとライトさんは言った。
「……そのままで、いい」
 その耳は、僕と同じように林檎みたいな赤色に染まっていた。
 しばらくの間、僕とライトさんの間に言葉はなかった。地面の上を跳ねるように雫が落ちていく。雨音と、焚き火の揺らめき。それから微かに香るライトさんの匂い。まるで、この横穴の中だけ世界を切り取ったみたいだ。不思議と今だけは、ルシの刻印の恐怖やバルトアンデルスのことを忘れることができた。
「おまえとこうしているのは、なんだか久しぶりな気がするな」
 沈黙を先に破ったのは、ライトさんだった。
「時間にしてみれば、ほんの少し前のことのはずなのにな。ずいぶんと長い間旅をしているような気がする」
 焚き火に視線を向けたまま、ライトさんは静かにそう言った。ぱちり、とまた薪が爆ぜた。
「それだけ、色んな事があったんですよ」
「……ああ。色んな事があった」
 ボーダムから輸送され、軍と交戦した。なんとか逃げ延びてビルジ湖へ。スノウと別れてハングドエッジに入って、ライトさんと二人きりになった。ガプラ樹林、パルムポルム。パラメキアへの突入、フィフスアーク。そして僕らはとうとう、地獄と呼ばれたグラン=パルスの大地へ降り立った。家族旅行が一転、目まぐるしいほどの状況の移り変わりにもみくちゃになりながら、ようやくここまでやってきた。
「これから僕たち、どうなるんでしょうか」
「さあな。終わりが見えない旅だからな」
 死に物狂いでここまで駆け抜けた日々が胸をよぎる。しかし、期限は足音を立てて、着実に僕らの背後まで近づいてきていた。
 グラン=パルスに降り立ってからの刻印の進行は、もう見逃すことができないほどに進んでしまっている。成果を掴むことのできない焦りから、刻一刻と目玉を覗かせる刻印は、仲間たちの誰よりも大きく膨らんでしまっていた。シ骸へのタイムリミットは近い。グラン=パルスの広大な大地で、今なお嘆きの涙を零す彼ら。やがて僕もあの醜い鉱石の塊みたいな姿へと変わり果ててしまうのだろうか。
 希望を失わない。言葉にすることはたやすい。だけどそれを信じ続けていられるほど楽観視できる状況でないことは痛いほどに分かりきっていた。
 雨音が響いている。顔を上げれば、焚き火のオレンジ色に照らされるライトさんの綺麗な横顔があった。
「どうした?」
 膝に顔を乗せていたライトさんがゆっくりと振り向く。薔薇色の髪の下か覗く瞳は、穏やかな色をしていた。
 吸い込まれてしまいそうな、アイスブルーのその瞳。どきん、と心臓が音を立てた気がした。
「な、なんでもないです」
 思わず俯いて言葉を濁してしまった。そんな僕を見て、ライトさんがふふっと「おかしな奴だ」と笑ってみせる。そんな何気ない仕草が、すごく優しかった。
 どきん、どきんとうるさいくらいに心臓が高鳴っている。もしかしたらライトさんにも聞こえてしまっているかもしれない。聞かれちゃってたらどうしよう。ちらりと顔を上げれば、穏やかに微笑んでいるライトさんと目が合った。それがどうしようもないくらい、本当に綺麗で――僕は真っ赤になって、また顔を伏せた。
 すてきだな、そう思う。強くて、格好良くて、僕より年上の綺麗なお姉さん。でも、それだけじゃない。パルムポルムで垣間見たライトさんは、強よがってみせていただけの普通の女の人だった。そういうライトさんのこと、守ってあげたいって、初めて思った。
 憧れじゃなくて。守られるだけじゃなくて。同じように対等に、認めてもらいたい。その背中を預けてもらえるようになりたい。そんな自分に気が付いたのは、それからまもなくのことだ。
 今まさにそのライトさんが僕の隣で、肌もあらわな格好のまま同じ焚き火を囲んでいる。恥ずかしいようなもどかしいような、そんな不思議な雨の時間。どうか、もうしばらく雨が止まないで。そう願わずにはいられなかった。
「顔が赤いぞ」
 何もかもを見透かしたようにライトさんが僕を見て笑う。
「焚き火のせいです」
「本当に?」
「ズルイです、ライトさん」
 年下の僕の葛藤なんて、きっと彼女は知りもしないのだろう。唇を尖らせて見上げてみせれば、ライトさんが悪戯っぽく笑みを深くする。
「さあてな」
「ライトさん、意地悪です」
 そんな僕を見て、ライトさんは楽しそうに声を上げた。
「ホープが可愛らしくてな」
「僕に可愛いって言われても、全然嬉しくないです」
「そう拗ねるな。おまえがムキになるのが楽しくて、ついからかってしまった」
「僕だってこう見えて、男なんですから――…」
 振り返り、軽い気持ちでライトさんを押したつもりだった。だけど、彼女にとってそれは予想外のことだったのだろう。僕にとってもそうだった。
 地面の上にライトさんの白い体があって、その上に僕が覆いかぶさっている。白と黒のコントラストに目の奥がチカチカとした。
 焚き火の光が、僕ら二人の影を横穴に映し出していた。ゆらゆらと影は揺らめいている。その揺らめきに当てられて、僕はもう一度ライトさんを見下ろした。アイスブルー色の瞳を丸くさせた彼女が、僕を見上げている。
 吸い寄せられるようにして、ライトさんの首筋に顔を寄せた。
「こ、こらホープ!」
 唇を寄せてみる。ライトさんの肌はびっくりするほどしっとりとしていて、それからなめらかだった。試しに音を立ててみる。ちゅっと吸い付いてみれば、ライトさんは慌てたように声を上げた。
「お、おまえ何を」
「……ライトさん可愛い」
「そういうことじゃない!」
 抗議の声を聞かなかったことにして、今度は鎖骨に唇を落としてみる。そうすれば、ライトさんの体がぴくんと分かりやすく震えたのが、すごく可愛かった。
「僕だって男なんですよ。可愛いって言われるより、言いたいです」
 ちゅ、と音を立てて鎖骨の窪みに唇を這わせてみる。最初に試してみた時よりは、少し上手になったような気がした。
「ちょ、ちょっと待て。お前にはまだ、こういうのは早い!」
「じゃあ、いつならいいんですか。……僕らはルシなのに」
 押し戻そうとするライトさんの細い指先に、指先を絡めて僕は言った。その言葉に、はっとしたようにライトさんが息を詰まらせる。ずるいな、と思った。でも、目の前のライトさんの体を前に、ずるくてもいいや、と思ってしまった。
「……ホープ」
 揺らめくアイスブルーの瞳がすぐ近い場所にある。その輝きをもっと近い場所で見たくて、僕は覗き込むようにして顔を近づけた。多分、自然な流れだったんだと思う。ライトさんとのキスは、ふんわりと柔らかくって、そして、優しい彼女の匂いがした。
「ん……ふ、ぁ」
 キスに溺れるようにして、僕らは何度も唇を重ね合わせた。少しだけ息継ぎをして、またキスをする、といった具合に。ライトさんの唇は柔らかくって、まるで果物みたいだった。舌でその柔らかさを存分に堪能してから、薄く瞼を開く。そうすると、僕と同じように瞼を開いたライトさんと目が合った。
「ねえ、ライトさん」
 どこか夢見がちな、とろんとした瞳のライトさんが僕に焦点を当てた。
「僕、もっとライトさんのこと知りたいです」
 そう言ってみせると、ライトさんは真っ赤になって横を向いて、小さな小さな声で「雨が止むまでだ」と返事をしてくれた。
 指先で、彼女のブラジャーにそっと触れる。華美な装飾はない、どちらかと言えば機能重視なシンプルなものだ。けれど、それがすごくライトさんらしくて、震える指で彼女の背中に腕を回した。
 当たり前のことだけれど、こうやって女性の下着をまじまじと見るのは初めてだった。金具が引っかかっているらしいことは分かるのだけれど、それがどういう理屈で留められているのかまでは分からない。
「あ、あれ?」
 なかなかホックが外れなくて、焦りともどかしさに声を上げる僕を、ライトさんは困ったように見下ろしていた。その視線が、ますます僕を焦らせる。小さくため息を吐かれてしまう。――どうしよう、がっかりさせてしまってる。悲壮感漂う僕の手に、そっと白い指先が添えられる。
「違う。……こうだ」
 ライトさんの指先の動きに助けられて、ブラジャーはいとも容易く剥がれ落ちた。むき出しの白い乳房が焚き火に照らされてあらわになる。ライトさんは頬をうっすらと赤く染めて、明後日の方向を向いていた。
「これでいいか」
「……はい。あの、その……すごく綺麗です、ライトさん」
 心の底からの本心だった。オレンジ色の光に照らされるライトさんの肢体は、ほっそりとしているのに引き締まっていて。でも、胸のふくらみはとても柔らかそうだ。形のいいお椀型の胸の先端は慎ましやかな桜色に色付いていて、思わずごくりと喉が鳴った。
「触っても、いいですか」
「いちいち聞くな」
 そっぽを向いたまま、ライトさんが小さな声で応える。それがまた、たまらないほど可愛かった。
 ゆっくりと手のひらで、胸を持ち上げるように触れてみた。柔らかい。初めて触れた女の人の胸は、思っていた以上にふんわりとしていて、まずそれに驚いた。少しだけ、指先に力を入れてみる。そうすればライトさんの胸は、僕の指先が込めた力の通りに形を変えていった。段々面白くなって、掬い上げてみる。押し込んでみたり、なぞってみたり。指先が、ふとした拍子に桜色の突起に触れた。
「っ」
「ここ、気持ちいいんですか?」
 小首を傾げて見上げてみれば、どういう表情をしたらいいのか分からないように、ライトさんは眉根を下げる。
「分からない」
「でも、大人の本ではここが気持ちよくなるって見たことあります」
「おまえもそういう本を読んだりするのか?」
「学校の友達が、悪ふざけで学校に隠し持ってきたんですよ」
「……まったく、最近のガキときたら」
「思春期男子はそういうことで頭がいっぱいなんですよ」
 苦笑して答えて見せれば、ライトさんは呆れたように僕を見た。そんな彼女に向かって、ここにきてようやく僕は笑うことができた。
「もちろん、僕だってライトさんのハダカには興味があります」
 顔を近づけて、柔らかそうな桜色の先端に舌を伸ばした。外気に触れて寒そうに震えていたその場所は、僕の唇の中に簡単に吸い込まれた。舌先でなぞるように転がしていけば、ライトさんがもどかしげに眉を寄せる。白い指先が、唇を覆った。
 ちゅぽん、と音を立てて唇から乳首が離れる。唾液に濡れたその場所を今度は指先でつまんで見せれば、先程よりもさらに大きくライトさんの背がしなった。
「声、我慢しないで。僕に聞かせてください」
「バカ、言うな」
 照れたように頬を赤く染めたライトさんがそっぽを向く。普段はカッコイイのに、こういうのをギャップって言うんだろうか。僕よりも背の高いライトさんの乱れた姿に、胸がきゅうっと音を立てる。こんなのずるい。可愛い。
 自分でも分かりやすいほどに興奮していたと思う。だって、あのライトさんのハダカが目の前にあるのだ。分身とも呼べる下腹部の一物はとっくの昔にはち切れんばかりに膨らんでいる。パンツを押し上げるほどそそり立ったそれに、ライトさんも気が付いたようで、しげしげと興味深げに見つめられてしまった。
「あの……そんなに見つめられると恥ずかしいんですが」
「す、すまない。その……触ってみてもいいだろうか?」
「え? ぼ、僕のをですか?」
 驚きの声を上げる僕が意外だったのだろう。ライトさんはぱちりと瞬きをして、それから不服そうに唇を尖らせた。
「私だけ触られるのは不公平だ。……それに、ホープは初めてなんだろう。私がリードする」
 そう言って、髪の毛を掻きあげてみせる。そんな何気ないライトさんの仕草が、今はとてつもなく色っぽい。白い指先が、パンツの上からゆっくりと僕自身に触れた。
「っ」
 思わず変なため息が零れ落ちた。赤面して視線を下げれば、楽しそうなライトさんと目が合う。
「さっきのお返しだ」
 そう言うや否や、ライトさんは僕のパンツをひと思いに引き下ろしてしまった。途端、己の分身がぼろんと姿を現した。未だ張り詰めたままの一物を前に、ライトさんのアイスブルーの瞳が大きく見開かれる。
「……思ったより大きいな」
「え? ラ、ライトさん?」
 困惑する僕を他所に、ライトさんの手のひらがおずおずと伸びてくる。そのまま包み込むように、僕自身に手のひらを添えられた。
「そ、そんな……ダメですって!」
「ダメなわけないだろう。こんなに膨らんでいるのに」
「で、でもこんなのって……ぁ、ううっ!」
 思わず情けない声を漏らしてしまう。ライトさんの手のひらが僕を包み込んで、そして。ぎこちない動きで、添えられた手のひらが、擦り合わせるように上下にスライドされた。
「う、うぅ、ライトさん……!」
 そのあまりの心地よさに、先走り汁が零れ落ちる。生理的な反応だ。こればかりはどうしようもなくて、恥ずかしさに真っ赤になっていれば、ライトさんは不思議そうにその液を指先で掬い取った。
「苦いな」
「ら、ライトさん!?」
 目を白黒させる僕を他所に、ライトさんは一度口を付けたことによって大胆になったのだろう。肉感的なその唇で直に僕に触れてきた。
「ふあっ」
 まるで吸い付かれるようだ。柔らかくて温かいライトさんの口内に包み込まれて、一瞬、世界が真っ白になった。そんな僕の反応に気を良くしたのだろう。ほつれた髪を掻き上げて、ライトさんがぎこちない動きで擬似挿入を繰り返す。
 目の前の白い体に、えっちな顔をしたライトさん。それから、下腹部を摩擦するどうにかなってしまいそうな刺激に、僕は耐えることなんて出来やしなかった。
「っ……!」
 ライトさんの頭をなんとか引き剥がした頃には、堪えきれなかった精液が飛び散った。彼女の綺麗な顔や肌の上に、濁った白い体液が降りかかる。
「はあーっ、はぁっ……ぅ、あ、ご、ごめんなさい」
 荒い呼吸を整えることもできずに、ぐちゃぐちゃになった思考でなんとか謝罪の言葉を絞り出す。ああ、どろどろにしてしまった。申し訳ないと思う反面、僕の体液を付けるライトさんの姿にぞくぞくとしたものが駆け上がってくる衝動を抑えることができない。
「……また、大きく」
 驚いたようにライトさんが小さく呟く。思春期の体は分かりやすいほどに正直だった。再び膨れ上がる僕自身を見下ろすライトさんに、縋るように見上げて言った。
「あ、あの……ライトさん、僕」
 見上げる僕の額に、優しい力で押し返す指先があった。
「ダメだ」
「でも……っ」
「ここから先はまだお前には早い」
「そんなぁ」
 情けない声を出す僕を前に、ライトさんは困ったように眉根を下げた。
「お前の希望を聞いてやるから」
 だから、許してくれ。目を細めてそう言われてしまえば、同意もなくねじ込めるわけもない。しょんぼりとして視線を下げたところで、僕はある考えが閃いた。
「希望を聞いてくれるんですよね?」
「ああ。挿入以外ならな」
「その……えっと、胸でってお願いしたりしても、いいですか……?」
 怒られやしないだろうかという恐れ半分、やってもらえないだろうかという期待半分の言葉だった。もうここまで来てしまったのだ。今更これ以上恥ずかしいことなんてないだろうと、半ば羞恥心をねじ伏せての言葉だったのだけれども。
「胸で……その、擦ればいいのか?」
 照れたように頬を赤らめたライトさんが、僕の一物を見下ろしながらか細く呟く。
「……別に、構わないが……」
「本当ですか!?」
「うわ!?」
 思わず勢いよく言ってしまったせいで、ライトさんは驚いてしまったらしい。アイスブルーの瞳をまん丸にさせた彼女を前に、思わず我に返って僕は急に恥ずかしくなった。
「男子の夢っていうかロマンというか……」
「そういうものなのか」
「そういうものなんです」
 神妙な僕の言葉に、とりあえずライトさんは納得したらしい。こくりと小さく喉を鳴らして、彼女は僕の下腹部を見た。それから意を決してなのか、小さく息を吐くと両手で胸を持ち上げて僕自身を包み込んでみせた。
「んっ……これでいいのか?」
 下から響くライトさんの声。その言葉に、はい、と頷いて僕は薄く瞼を開いた。途端、網膜に刺激的な光景が飛び込んでくる。
 ゆっくりと試すように、ライトさんは胸を持ち上げて、それから下ろしていった。吸い付くような滑らかで柔らかい弾力が僕を包み込んでは圧迫していく。それが馬鹿になってしまいそうなくらい気持ちよくて、僕は思わず首を振った。
「気持ちいいか?」
「はい……す、すごくいいです」
 思わず声が震えてしまう。刺激に敏感になった自身の欲望の塊からは、たらたらと透明な汁が零れている。次第に抜き差しに慣れてきたのだろう。動きはそのままに、ライトさんの唇が僕の先端に触れた。
「んんっ!」
 先ほども感じた心地よさに、ぞくぞくしたものが背筋を駆け上った。思わず腰を落とせば、追いすがるようにライトさんが覆いかぶさった。温かな口内と胸の刺激に、電流のような快楽が駆け上る。
「ライトさん、ライトさん――!」
 僕の限界を感じ取ってか、彼女は僕が一層震える場所を的確に責め立てた。
 思わずライトさんの頭を掴んだまま、僕は欲望を今度こそ吐き出してしまう。ライトさんは吐き出したりすることはなかった。それどころか、小さな咳と共に彼女は半目になって全て飲み干してしまったのだ。
「……苦い」
「す、すみません」
「それで、良かったのか?」
 良いか悪いかと言われたら、もちろん良いに決まっている。二度の限界に達して、体は燃えるように熱かった。足りない。まだ足りない。縋るようにライトさんを見上げれば、膝をついている彼女の両腿が震えていることに気が付いた。その付け根に当たる部分を覆っている下着が、傍から見て分かるほど、ぐっしょりと濡れていることにも。
「……足りません」
「え?」
 意表を突かれたように僕を見たライトさんを、追い詰めるように壁際へと押し付ける。体格的には分が悪いけれど、手首を抑えて押し付けてしまえば僕の自由だ。空いたもう片方の指先を無防備に開かれた太ももの付け根に押し付ければ、ライトさんはびくんと分かりやすいほど過剰に跳ねた。
「僕、まだ足りません」
 付け根をなぞるように人差し指で辿れば、ライトさんはぎゅっと目を閉じて首をのけぞらせる。その真っ白な肌の上に口付ければ、彼女はか細い悲鳴のような吐息を零した。

   * * *

「じゃあ、いつならいいんですか。……僕らはルシなのに」
 その言葉に、ぎくりとした。
 指先に絡められた、成長過程にある細くて骨っぽい指先。普段は手袋に隠されているその場所も、今ばかりはあらわになっている。黒い格子状の文様の中に浮かび上がる目玉と目が合った。
「……ホープ」
 私の左胸に開くものよりも、大きくて真っ赤な目玉だ。それが意味することはすなわち、終わりの時が近いということだ。零れた言葉が思いがず震えたのは、私がこの子の末路を見届けなければならないかもしれない、恐れからか。
 ふわふわとした柔らかな銀色の髪が降ってくる。水の匂い。薪の爆ぜる音。横穴を照らす、オレンジ色の光と影。
 そのすべてが夢現のようだった。唇に触れた、柔らかな感触も。切なそうに細められたエメラルドグリーンの瞳さえも。
「ライトさんのここも、ぐちょぐちょになってます。本当は欲しいんじゃないですか?」
 己でさえもろくに触れたことのない場所を、七つも年の離れた少年にいいようにされているというのに、私はろくに抵抗もできずにいた。ほんの少し前までは武器さえ握ったこともなかったような細い指先が、下着の溝を辿っていく。腕にかかる拘束は大した力じゃない。それでもうまく跳ね除けられないのは、体に力が入らないせいか、それとも。
「……っ」
 びくりと分かりやすく体が跳ねた。ホープの指先が敏感なところを掠ったのだ。
 元々賢い子だ。私の反応の違いを学習したのだろう。ホープは的確に私が感じる場所を指先で探り当てていった。
「こんなに濡れてる」
「あっ、だ、ダメだ……!」
 指先が下着をかき分けて直に触れてきた。布越しではなくて、ダイレクトに指の腹を感じる。くちゅりと粘着質な音が洞窟内に響き渡った。
「僕のを触りながら、ライトさんも興奮してくれたんですか……?」
 下から上目遣いで見上げてくるエメラルドの双眸は、子供らしい大きさなのに、子供らしからぬ熱を持っている。ホープは気が付いてしまったのだ。彼のものに触れている間、私自身もまた下腹部の奥を熱く濡らしていたことに。
 辛うじて下着が吸い取ってくれた体液は、直に触れられてしまえば、どれほど熱い湿り気を帯びていたのかばれてしまう。
 たまらなくなって私は腿を剃り動かした。瞬間、ホープの指先が皮をめくって花芯を掠る。
「んんっ!」
 生理的な涙が零れた。短く痙攣した私の姿を捉えて、ホープがぐっと自身を秘部へと押し付けた。
「ライトさん……僕、ライトさんの中に入りたい」
「それは……っ」
「ねえ見てライトさん。こんなにライトさんもぐちょぐちょに濡れてるのに」
 くちり、と音を立てて指の腹が花芯を掠る。たまらなくなって喉を仰け反らせれば、震える胸の先端にホープの唇がかぶりつく。胸と下腹部の刺激で頭がどうにかなりそうだ。
「入れてもいいですよね」
 もはや質問の体を成していない。否定の言葉を紡ごうにも、私が声を発するより先に、ホープが胸の先端を舌先で転がしていく。充血して十分に張り詰めたその場所への刺激は、経験のない私を翻弄させるには十分すぎた。
「あ……」
 下着をかき分けて、ホープの先端が入口に密着する。湿り気のある水音がやけに印象的だった。
「だ……ん、んああっ!」
 もう十分すぎるほど興奮してほぐれた体内を、ホープが掻き分けていく。まるで電流が全身を貫いていくかのようだ。行き場のない両腕が、救いを求めるようにホープの背中を掻き抱いた。
「ライトさんの中、あつっ……」
「や、ぁ、っホープ……っ」
 体内をホープがぐんぐんと押し入ってくるのが分かる。十分すぎるほど焦らされたせいか、不思議とほとんど痛みはなかった。それよりも信じられないことは、ホープから与えられる刺激を、私自身が望んでいたということだ。
 体の奥が疼いているのが分かる。理性は拒みながらも、体はもっと奥へ奥へと彼を誘い続けている。
「ライトさんっ、ライトさんっ!」
 気がついた時には、私は荒い呼吸を繰り返しながら、両腕を彼の背に回し、自ら腰を振っていた。洞窟内に乾いた音が響き渡る。ホープが腰を動かすのに合わせて、腰を振れば子宮の入口にホープの先端がノックした。
「あっ、あっ、あ――――っ!」
 巨大な波のような痺れが全身を襲って、瞬間意識が真っ白に染まる。思わず喉を仰け反らせれば、まったく同じタイミングでホープもまた果てたのだろう。くたりと、彼は私の胸に顔を寄せた。
「あー…」
 激しい快楽の波が引くと、やってしまったという脱力感にも似た後悔が現実に連れ戻してくれた。
 流された。ホープの若さの勢いに乗せられて、最後までしてしまった。というか七つも離れた子供になんてことを。世間体という名が後ろめたさになってひたひたと押し寄せてくる。今更世間体もへったくれもないが、道徳心はそれなりに持ち合わせているつもりだった。良心の呵責が胸を抉る。
 その時ホープの左手が目に入った。ルシの刻印だ。ファングの刻印とほぼ同じ形をした、目玉がほとんど開きかかった刻印。このまま順当に行けば、まもなくシ骸になるだろう証。
 それを見つめ続けることがたまらなくなって、私はホープの腕を掻き寄せた。
 嫌だと素直に思えた。この子を失いたくないと思った。
「ライトさん……」
 上目遣いに見上げてくるエメラルドグリーンの双眸は、どこか熱っぽかった。きらきらと透き通っていて、まるで吸い込まれそうだ。
「あの、僕」
 戸惑いがちに告げられる言葉を、どうして聞き流すことなどできるだろう。私は目を細めてホープの言葉を待った。
「その……また」
「ん? また?」
「えっと、動きたくて……」
 いまだ繋がった箇所をぐちりと擦られた。完全に油断していて、思わず私の喉からは短い嬌声が零れ落ちた。
「あっ!」
「まだライトさんも感じてくれるんですね」
「ちょっと、おい、さっき出したばか……っ」
「わーん、ごめんなさいライトさん我慢できません!」
「おまえはそればっかりだろうがっ!」
 体を反転捻った状態で、尻を両手で掴まれる。やわやわと尻の形を確かめるように動くホープの手の動きは性的で、何をしようとしているかは明白だ。
 浅く挿入を繰り返される。入口を引っ掻くようにして出入りされれば、先程まで熱が篭っていた場所だ。すぐに熱くなって、吸い付くようにホープ自身を受け入れる。
「やっ、あっ、んっ! さっきイった……っところ、なのに……!」
「ライトさんかわいいっ」
「んんっ!」
 後ろから容赦なく突き立てられる。再奥まで貫く挿入に、たまらなくなって喉を仰け反らせた。顎を玉のような汗が伝い落ちていく。
「あっ、だ、ダメだって……んん、ホープ!」
 喉から迸る声はもはや悲鳴に近い。その時、ぐち、とホープの先端が今まで知りもしなかった箇所を抉った。
「んああっ!」
「もしかしてっ、ライトさんここがっ」
「やっ、そこはっ! んっ、ああっ!」
 背後からねじ込まれる楔は、明らかに私の反応の違いを意識していた。髪を振り乱していやいやと首を振る私のことなんてお構いなしに、ホープが一層深く尻を掴む。捻り込まれる衝動に、もはやわけが分からない。
「やだっ、わけが……わからなく……っ!」
「ライトさんっ、ライトさんっ!」
 先程よりも遥かに大きな波が頭の中を掻き回していく。付け根から伝い落ちる愛液はもはや下着で誤魔化せれるような量ではなく、腿を伝って、あるいは飛び散りながら乾いた地面を濡らしていく。
 ぐちん、と一層深く繋がる音がした。脳天を突き抜ける、稲妻のような快楽が全身を貫いていく。高く声を上げてこらえきれない叫びを零せば、その瞬間を待っていたかのように温かいものが胎内を駆け巡った。

   * * *

「…………」
「…………えっと、ライトさん。その……ごめんなさい」
 動物の耳でも生えていたら、しゅーんと垂れているに違いない。そう確信を持てるほどに、目の前で両膝を付いて乞うように見上げてくるホープは申し訳なさそうな顔をしていた。うるうると見上げてくる大粒の瞳。……分かっていてやっているのだろうか。ホープのその仕草に、分かりやすくほだされてしまう自分が嫌になる。
「……すんだことをつべこべ言っても仕方ない」
 見るからに落ち込んでいるホープにこれ以上追い打ちをかける必要もないだろう。まあ……その、若さゆえの一時の過ちだと思うしかない。思春期の少年相手に、自分も無防備だった節もあるわけだし。
「雨、すっかりやんでいるな」
「わ、本当ですね」
 洞窟の出口を見やれば、そこからはさんさんと輝く太陽の光が差し込んでいる。どうやらとっくの昔に雨は止んでしまっていたらしい。行為に夢中になりすぎて、雨が止むまでなんて口約束を忘れてしまった自分にほとほと呆れてしまう。今頃、仲間たちも帰りの遅い二人のことを心配しているだろう。
「帰るか」
「そうですね」
 大した食料を見つけることができなかったが、いつまでも姿を見せないわけにもいかない。私は手のひらを差し出した。黄色いバンダナに覆われた華奢な左腕が、私の手を取る。
「二人で怒られましょう」
「……ああ」
 へにゃりと目元を細めて笑うこの少年の笑顔に、私はどうにも弱いようだ。
 ――失うわけにはいかない。瞼を閉じて、もう一度顔を上げる。私たちは、“希望”
を掴みにグラン=パルスまで降りたのだから。
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