2020.09.28 執筆
2020.10.04 公開

ゲルド人にとっては女子扱い

「よし、通っていいぞ」
 よく通る声がゲルド砂漠に響く。
 リンクは思わず目を剥いて、眼前の光景を二度見した。
「おう、助かるぜ」
 巨大な剣を背負った髭面の大男――こと、ダルケルがてくてくと歩いていく。リンクは慌てて彼の後を追った。途端、二本の槍ががしゃんと交差して、リンクの前に立ち塞がる。
「お前は駄目だ」
 てっきりダルケル同様通してくれるものだとばかり思っていたので、この展開はよく分からない。リンクは今度こそ首を傾げてゲルドの門番たちを見た。
「ゴロン族はいいのだ」
 種族で差別するのは良くない。目で語ると、リンクの思いが伝わったのか、門番の女は呆れたように息を吐いた。
「大体、お前はヴォーイだろう。ヴァーイ以外は街に入れない掟だ」
 リンクは今度こそ大きく首を捻るしかなった。
 たった今? 門を潜ったのは? 男性ホルモンゴリゴリの髭面大男じゃなのか? ……と。
 ビジュアルだけで言えば、リンクとダルケル、両者でより男性らしいのは一目瞭然であろう。髭。筋肉。岩のような尻。すべてにおいてダルケルの方が男性的だ。少し考えていて、悲しくなった。
 しかし、相変わらず門番はリンクを前に槍をかざしながら首を振る。
「駄目なものは駄目だ。ヴォーイは帰ってくれ」
 けんもほろろな言い草だ。しかし、ここを突破しなくてはウルボザに会いにいけない。
 リンクとダルケルはゼルダ姫から大切な言付けを預かっているのだ。当初はカラカラバザールで落ち合う予定だったが、急遽予定が変わってしまった。このままではリンクだけが門前払いを受けるという情けない結果になってしまう。リンクは大いに唇を噛み、そして――…。
「……それで、そんな恰好になったんだな」
 ゲルドの街の中。ヤシの木が作る木陰の下で納得したようにダルケルは頷いた。目の前には淑女の衣装を身に纏ったリンクが仁王立ちしている。
「……背に腹は代えられない」
 役目を果たせず姫にがっかりされるか、男のプライドを捨てるか。リンクは後者を選んだわけだ。
「俺は気にしたこともなかったが、改めて考えてみるとゲルドの掟も面倒だな」
「むしろ意識しない方がすごいというか……」
「ガッハッハ、俺はゴロン族だからなあ」
 ダルケルが豪快に笑い飛ばす。しかし、やはり解せない。リンクは口を挟もうとしたその瞬間、激しい突風が巻き起こった。
「きゃああ!」
 甲高い悲鳴が上がる。弾かれたように中腰になって、リンクとダルケルは視線を向けた。見れば、ハイラル人らしい観光客のスカートが捲り上がっているではないか。
「……!」
 リンクは咄嗟に明後日の方角を向いた。背格好が少しばかりゼルダ姫に似ていたのだ。思わず頬が赤く染まる。
「?」
 対するダルケルは不思議そうに見つめていた。
「なんで服を押さえてんだ? リンク、分かるか?」
 つぶらな黒目が心底不思議そうにリンクに尋ねてくる。
 その純真な輝きを前に、リンクは静かに目を細め、そのまま無言で族長の屋敷へ向かっていったのだった。
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