2020.11.09 執筆
2020.11.09 公開

赦されぬ契

「私なんて、生まれてこなければ良かった」
 それは、血を吐くようなゼルダ姫の叫びだった。
 生まれてさえいなければ、こんな惨めな思いなんてしなかった。御父様も出来損ないの娘を持つこともなかった。城の者に馬鹿にされることも。英傑の皆だって、落胆させることもなかった……。
 口にしながら、彼女は自ら言葉で自分自身を追い詰めてゆく。
「違います。姫様、そんなこと言わないでください」
 リンクは咄嗟に首を振った。そんな悲しいことを言わないで欲しかった。何よりその御身を守ると誓ったリンクの気持ちはどうなる。
 しかし、そんなリンクの痛切な想いとは裏腹に、他ならぬゼルダ姫自身が自らを傷つける。彼女を守りたいのに。傷つけるもの全てから守る盾になりたいと願っているのに。悔しさに唇を戦慄かせるリンクを見つめるゼルダ姫の双眸に暗い輝きが灯る。
「違いませんよ」
 羽織った外套がぱさりと地面に落ちる音がする。はっとしてリンクは顔を上げ、それから迂闊な自身を激しく後悔した。
 眼前にあったのは、ゼルダ姫の一糸纏わぬ白い肌だった。彼女の傷一つない玉のような肌が。指先が。……ゆっくりとリンクの腕に触れてくる。
「私が生まれた意味を……」
 まるでその瞳に魅入られてしまったようだ。リンクは目の前の光景が信じられず、ただ体を強張らせることしかできなかった。動揺ですっかり固まっていることを理解しているのか、ゼルダ姫はゆっくりとリンクの手を自身の乳房に押し付ける。途端、吸い付くような柔らかい感触がリンクの脳髄を電流のように駆け巡った。
「――私に貴方の子種をください」
 指先が融けてしまいそうだ。体の中心部が熱い。くらくらとする。煽られた劣情を必死に食いしばろうとするリンクの努力を瓦解させるかのように、ゼルダ姫は瞳を潤ませて囁いた。
「貴方に愛されたいのです……リンク」
 密やかに想いを寄せていた相手にそう切なく名を呼ばれて、果たして堪えられる男がいるのだろうか。……少なくとも、リンクはそうではなかった。頼りなかった理性という名の糸がぷつりと音を立てて切られたのが分かる。本能でリンクは手を伸ばした。そのまま、白く儚い花のような体を抱き寄せた。
「リン……きゃっ」
 よろめくその体を全身で受け止め、逃れられないようにがっちりと抱え込む。迫った彼女の顎を片手で持ち上げ、そのまま貪るようにリンクはその唇を奪い取った。
「は、ンッ……ぅ、あ………リン、ク…………」
 一度などでは足りない。もっと深く、深く彼女と繋がりたい。角度を変えて、齧り付くように彼女の唇を何度も奪う。降り積もった雪のような想いが、とめどなく溢れてくる。
「姫様……姫様……っ」
 ……愛しい。この方が愛しい。この方が果てぬ苦しみの中で求めたのが俺ならば、貴女の全てを俺で満たしてあげたい。
 執拗なほどの深い口付けに息も絶え絶えになりながら、それでもゼルダ姫はいじらしくも応えようとしてくれる。唇を尖らせ、絡みつくリンクの舌におずおずと返される彼女のたどたどしい舌使いに、リンクの猛りは膨れ上がる一方だった。
「はあっ……ん、う……」
 強張っていたゼルダ姫の体から、次第に力が抜けていくのが分かる。唇からは堪えきれない唾液が流れ落ち、その瞳はとろんと蕩けていてどこか夢心地だ。もたれ掛かるように体重を預けながらなおも口付けを強請る姫を抱きかかえるようにして、リンクは地面に腰を降ろした。外とは違って洞穴の中は乾いているが、その岩肌は冷たい。冷気から守るように膝の上に抱え、リンクは腕の中の姫に再び口付けた。そうすると、彼女はうっとりと目を細めてリンクの口付けを受け入れる。ゼルダ姫はすっかりリンクとの口付けに夢中だった。
 彼女の眩いほどの白い肢体は惜しげもなく晒されていて、今やリンクの体に絡みついていた。まるで己が見た都合の良い淫夢のような光景だ。そのような淫らな夢と共に汚らわしい欲を吐き出して目覚める己を吐き気がするほど嫌悪していた筈なのに、現実はなんと不可解なものなのだろう。
 リンクは自身の胸板に潰されている姫の乳房を掬い上げるようにして触れた。途端、口付けに溺れていた姫の唇から甘い声が零れ落ちる。
「……ぁ…」
 先程彼女に導かれて触れた時も思ったのだが、なんと柔らかく、そして吸い付くような感触なのだろう。まるでつきたての餅のようだ。指先に力を込めれば自在に形を変える。リンクは無心になって姫の乳房を揉み上げた。姫が零す吐息も次第に熱っぽくなっていく。
「ああっ!」
 指先がその頂きにたどり着いた瞬間、姫から零れ落ちたのはこれまでとは明らかに異なる高い声だった。自らの発した声に驚いたのか、ゼルダ姫の大きなエメラルドグリーンの瞳は零れんばかりに見開かれている。困惑に揺れる瞳が動揺に変わる前に、リンクはすかさず先端部を指先で強く弾いた。再び姫の唇からは喘ぐような嬌声が零れ落ち、その体は傍目にも分かるほど大きく震えた。
「……感じているのですね、姫様」
 吐息と共に吐き出した己の声は欲に濡れていた。低く、唸るような獣のような声。捕食者のそれだ。
「わ、分かりません……ひゃんっ!」
 リンクの声に、再びゼルダの体が跳ねる。伺うように見上げるエメラルドグリーンの瞳は、何かを期待する色があった。彼女の反応を確かめるように、指先で強く先端部をこねくり回せば、ゼルダ姫は白い喉を仰け反らせて喘いでみせる。
 女神の力を今なお残すと言われる聖なる泉。本来であれば聖域として崇められるこの場、特に女神像のお膝元は王家に連なるもの以外は一般的に立ち入りを禁じられている。ましてやここは、極寒のラネール山。人目を憚る必要はない。同時に、女神のお膝元でこのような行為を行うことは、常識的に考えればありえないことだった。万が一誰かに知られようものなら厳しく罰せられることは間違いない。
 清らかでなければならない姫巫女が、女神のお膝元で男とまぐわい合う。赦される筈もないとんだ背徳行為だ。
 同時にそれは長年孤独に修行に挑み続けたゼルダ姫の意趣返しだったのかもしれない。どれほど祈りを捧げてきても応えることのなかった女神への。
 リンクの膝の上で乳首を尖らせ、白い肌を朱に染めて口付けを強請る姫のなんと愛らしくも淫靡なことだろう。姫の秘めたる泉はすでにぐっしょりと濡れて、リンクの膝を濡らしている。そっと指先で触れると、しがみつくゼルダの指先の力がいっそう強くなるのが分かった。
「力を……抜いてください」
 リンクの意図することを理解したのだろう。潤んだ瞳でゼルダ姫は頷いた。しかし、彼女にとっても初めてのことだ。緊張するなと言ってもそういうわけにはいかないだろう。かくいうリンクだって、どうしたものかと恐れる気持ちが全くないわけではないのだ。
 指先を泉の中に沈めてみる。すでにぬかるんでいるその場所は難なくリンクを飲み込んだ。この調子なら二本は余裕だろう。もう一本差し入れると、ゼルダ姫は愁眉になった。
「痛いですか?」
「い、いえ……不思議な感じで……」
 零すように口にして、淡くため息を零す。その様は普段の清廉なゼルダ姫と打って変わって悩ましく、官能的で、どきりとするような色香があった。すでにはち切れそうな股間から、じんわりと先走り汁が流れ出るのが分かる。リンクは今、どうしようもなくゼルダ姫に欲情している……。
「あんっ」
 じんじんと充血している胸の突起に齧り付くようにリンクは唇を寄せた。しかし、指先の動きは止めない。予想外の所から増えた刺激に、ゼルダ姫の唇からは再び甘い声が零れ落ちる。同時に、彼女から強張りが抜けるのが分かった。
 リンクは器用に舌先で桜色の果実を転がし、指先で姫の泉の出入りを繰り返した。その桜色の唇からは、噛み殺しきれない愛らしい声が次々に零れ落ちる。不意に親指が泉の入り口の少し上、張り詰めた花芯を弾いた。
「きゃうっ!?」
 胸の先端に触れた時以上の高い声が洞穴の中に響き渡った。びくんっ、と姫の体が大きく跳ねる。エメラルドグリーンの丸い瞳が動揺に揺れているのが真正面から見て取れた。
「ここがいいのですね……」
「そんな、リンク……ああっ!」
 駄目……。呟くその声は弱々しく、頼りない。しかし、ここまで来てしまっては姫の“駄目”もリンクを煽る要素にしかなり得なかった。それどころか姫の泉はますます潤いを増して、リンクの手首までぐっしょりと濡らしているのだ。主君の命令に背くなど、騎士であるリンクにとって本来あるまじきことだが、姫の泉は何より雄弁に語りかけていた。指先は誘うように奥へと飲み込まれ、その先を欲している。
「すみません、もう我慢しきれません」
 手早くベルトを抜き取り、リンクはズボンの中から己の分身を取り出した。すでに痛いほどに張り詰めて、固く天を向いている。それを膝上にある姫の股ぐらに擦り付ければ、ぐちりと卑猥な水音が洞窟に響き渡った。
 自らの秘部に突き付けられたものが何なのか悟ったのだろう。姫は微かに目を見開いたが、すでに火が着いてしまった以上止まれる筈もない。荒い息を吐くリンクを前に、ゼルダの喉がこくりと鳴るのが分かる。
「お覚悟を」
 細められたエメラルドグリーンの瞳は潤んでいる。そこに灯っているのは確かな情欲の色だった。
「リンク、きて……っ」
 そう口にして、ゼルダ姫はまるでリンクを迎え入れるかのように両手を差し出した。彼女の細く美しい指先が背中に絡むのが分かる。リンクはぐっと位置を確かめると、一思いに彼女の最奥まで貫いた。
「あああっ!」
 官能的というよりはむしろ痛みを伴う声音。背中に回された姫の爪が食い込むのが分かる。痛みがないとは言い切れないが、姫はそれ以上の痛みを味わっているのだ。
 彼女の口から迸った苦痛を堪える声に、リンクはぐっと唇を噛みしめた。主を守るための盾になりたいのだと心の底から思っていた筈なのに、まさにその主を貫いているのは己なのだという矛盾。それは確かに胸を衝いているのにも関わらず、それでもなおリンクは嬉しいのだ。この世界でたった一人の愛しい姫君。姫自身がその純潔を捧げる相手としてリンクを選んでくれた。例えこの道が間違いだったのだとしても、今この瞬間、彼女が腕の中にいるという幸福は何者にも代え難かった。
「は……っ、ん……ふっ……」
 その可憐で清純な見目とは裏腹に、ゼルダ姫の中は貪欲で、リンクの何もかもを飲み込もうとしている。気を抜いてしまえばあっという間に達してしまいそうだ。必死で唇を噛み締め、リンクは湧き上がる衝動に耐えた。間もなく、強張っていたゼルダの体が少しだけ緩むのが分かった。
「姫様、動きます」
「あ、リンク……待って、やああっ!」
 リンクの鋼の自制心ももはやこれまでだった。脳髄が蕩けてしまいそうなほどの快楽が、体の中心部からせり上がってくる。腰を引けば水泡が立ち、深く差し入れれば襞の一枚一枚がリンクに絡みついてくる。リンクは女を知るのは初めてだったが、間違いなく姫は名器だと断言できる。
「あっ、やあっ、はああ……っ!」
 中を抉る度に、姫の白い喉は仰け反り、リズムに合わせて乳房が揺れる。桜色の唇からは高い嬌声と共に、堪え切れない唾液が伝い落ちた。その様のなんと淫らなことだろう。リンクに揺さぶられ、ただしがみ付くしかない主の痴態に、否応なしに高められていくのが分かる。
「姫様……ッ、姫様ッ!」
「ああっ、んッ、私の…中に……ッ!」
 ――リンク。叫ぶように名前を呼ばれるのと、リンクが猛りを解放するのはほぼ同時だった。目の奥がちかちかと弾けて、体が跳ねる。
 刹那の時間、空白があった。恍惚とした瞳でぼんやりと腰の上の姫を見下ろすと、彼女もまたぐったりとして、リンクの肩にしな垂れかかっている。
「……熱い……」
 未だ夢心地のようなとろんとした表情で、姫は吐息を零す。微かに身じろぎをすると、熱を放ってすっかり萎んだ自身がずるりと姫の中からまろび出たのが分かった。同時に、重力に従って白い体液が伝い落ちてくる。
「あっ……やあ、零れちゃ……」
 姫の細い指先が、体の中にリンクを留めようと宙を掴む。たったそれだけのことで、リンクの体の芯は再び熱くなった。――己の精をこの方に一滴残らず注ぎ込みたい。それこそ、子を孕むまで。
「ご安心を。……姫が望む限り、何度でも注ぎましょう」
 うっそりと目を細めると、まるでリンクのその眼差しに魅せられたとでも言わんばかりに姫の表情が歓喜に染まる。
「嬉しい……。私を、貴方でいっぱいにして」

 垂れ込めた雲は厚く、未だ雪は降りやむことはなかった。
 女神の力を授かれなかった姫と御付の騎士は、互いの熱を分け合うかのように深くまぐわい、契りを交わす。
 彼のポケットに忍ばされた青いペンダントは未だ光を見ぬまま、夜は静かに更けていった。

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