2020.11.12 執筆
2020.11.12 更新

ヒメゴト

 ハイラル城に付属する王立図書館は、今日も密やかなざわめきに満ちている。
 基本的には「お静かに」と司書が目を光らせている場所だ。とは言え、人の出入りがあるということはそれだけ多くの物音があるということでもある。
 紙のページを捲る音。図書館の中を歩く人の足音。それから、羽ペンがさらさらと文字を記していく筆記音。そういった細々とした音が重なり合って、図書館という独特な空間を作り出している。
 リンクは長い耳をひくりと動かした。
 図書館は好きな方だ。別に勉強することが好きという訳ではない。この静けさの中にある微かなざわめきが心地いいのだ。
 幼い頃、それこそ野を駆けずり回っていた頃は、リンクにとって図書館は無縁の場所であったが、近衛騎士となるべく勉学を始めるようになってからはそうもいかない。
 最初に足を踏み入れたのは国立図書館だっただろうか。祖父に連れられて山のような本を見上げた時は途方に暮れたものだが、変われば変わるものだ。城で仕えるようになってからは、もう幾度となく王立図書館には足を運んでいる。何かとやっかみを受けることの多いリンクにとって、干渉のない静かな空間というのはそれだけで居心地がいいものだ。だから、大した用事もなくふらりと図書館の中をうろつくことも多い。背表紙を眺めて歩くのはけして悪くないし、運が良ければ勉強熱心な姫君の後ろ姿を遠巻きに眺めることができたからだ。……どちらかというと後者が目的であることは否定はしない。美しく、そして聡明なゼルダ姫の姿を目にできるのは、ただの騎士に過ぎないリンクにとっては確かな喜びであったのだから。

 その日のリンクは一人ではなかった。追記しておくと、ここ最近はもっぱら同じ目的で図書館を訪れている。果たしてこれでいいのだろうか。そう自問自答する日々が続いているものの、結局のところリンクには決定権などないのだ。
 リンクは前を行く豊かな金髪へと視線を移した。ハイラル王家の第一王女、ゼルダ姫。彼女のお付に任命されたのは半年ほど前だっただろうか。当初はぎくしゃくとした関係が続き、どう接するべきなのか苦悩したものだが、イーガ団の一件以来目に見えて付き合い方が変わっていた。それどころか今は……。リンクがぼんやりとそんなことを考えている間に、ゼルダ姫は手慣れた様子で一冊の本を抜き取ると、その奥に手を伸ばしてみせた。まもなく奥にあった装置が起動し、緩やかにフェイクの本棚がスライドしていく。
「さ、リンク……」
 促されるままに姫と共に秘密の空間に滑り込む。まもなく後ろ背に本棚が元に戻る音を聞いた。リンクは手早く部屋に設置しておいた松明に火を点けた。途端、暗がりの中にぼうっとしたオレンジ色の光が灯る。図書館にはいくつか隠し部屋が用意されているが、ここはその中の一つだった。
 隠し通路の一つとして密かに掘り進められていたのだが、城の地下に眠っていた巨大な遺物に阻まれ、結局ただの空き空間として捨て置かれた寂しい場所だ。剥き出しの鉱石が岩肌からは突き出ており、掘削も半ばでこの空間が投げ出されたことが伺い知れる。巨大な遺物はそれほど強固でびくともしなかったのだろう。
 何の役割を果たすものなのかは分からない以上、こうして放置するしかなかったのです。初めてリンクをこの場所に連れてきた時、ゼルダ姫はそう口にした。長年謎のまま放置され、そうしてこの隠し部屋は人々の記憶から忘れ去られた。船着き場や書斎といった他の隠し部屋のような場所としての価値も薄いことから、存在を知っている僅かな人間でさえもまず立ち入ることがない。そういった理由で、この隠し部屋は今やすっかりゼルダとリンクの秘密の部屋となった。
 削り出された岩の上に、場違いなほど鮮やかで手触りのいい敷物とクッションが広げられている。いつの間にかちゃっかりとゼルダ姫が持ち込んだもので、さながら秘密基地のようだ。初めてそれを口にした時、彼女は嬉しそうにはにかんだことをよく覚えている。お気に入りの本を持ち込み、時間の隙間を縫ってこっそり城の中で密談じみた行いをするのが習慣化したのは、果たしていつの頃からだっただろう?――ささやかな触れ合いが、秘め事に変化していったきっかけを今となっては思い出せない。
「……リンク」
 二人きりになったことを待ちかねていたかのように、ゼルダはそっとドレスの裾をたくし上げた。目の醒めるようなロイヤルブルーの下から現れたのは、白いストッキングに包まれた肉付きのいい太ももだ。ストッキングを引き上げるガーターベルトに揃いの繊細なレースをあしらったショーツまで見えている。肌の露出はほとんどなく、ただ立っているだけでも気品が香る王家のドレスの下がこのような蠱惑的な格好であるなんて、一体誰が想像できるだろうか。
 もうすでに何度も目にしている筈のリンクでさえ興奮してしまうのだから、やはりギャップというのは大きな要素だ。姫はその清楚な顔を真っ赤にさせ、潤んだ瞳でリンクにその場所を見せつけてくる。誘われるままにリンクの股間は暴れ狂い、ズボンはすでに大きなテントを張っていた。
「早く貴方を私にください……もう、待ちきれない……っ」
 そんな風に可愛くおねだりして、よりスカートの中が見えやすくなるよう彼女は高く手を持ち上げた。もはやそこに気品ある姫の姿はない。好いた男を誘いねだるただ一人のゼルダ。
「そんなに欲しかったのですか」
「はい……。今日が待ち遠しくて、私、もう……」
 口にしながらたくし上げたスカートの下で彼女はもじもじと腰を揺らしている。よく目を凝らすと、純白のショーツはすでに湿り気を帯びていた。実際に触れようものなら、すでに火がついたように熱が灯っているに違いない。
 すっかりおねだり上手になった姫の頬に手を添えると、待っていましたと言わんばかりにうっとりと目が細められる。
「……姫様」
「ん……っ」
 すぼめられた唇に齧り付くかのように唇を寄せる。薄く開かれたその口内を犯すかのように荒々しく蹂躙すれば、ゼルダは嬉しそうに舌先で応えてみせた。彼女は口付けが大好きだ。すっかり夢中になって舌先を絡めてくる彼女のスカートの中に手を差し入れ、その中心部を指でなぞる。リンクの見立通り、下着越しでもはっきりと分かるほどその場所は熱くぬかるんでいた。
「もうすっかりこんなにして、いやらしいですね」
 触れるか触れないかの唇の距離で低く囁けば、ゼルダのエメラルドグリーンの瞳には明らかな悦びの色が灯る。
「姫様なのに」
「……そうなんです。私は姫なのに、こんな……ああんっ!」
「いやらしい」
「ごめんなさ……っ、んっ、ああっ! ゆるしてぇ……!」
 ぐちり、と下着の隙間から差し込んだ指先が音を立てる。同時にゼルダの唇からは高い嬌声が零れ落ちた。
「いくら別室とはいえ、ここは図書館ですよ。お静かに」
「……っ!」
 両手を唇に当てて、彼女はこくこくと頷いている。従順で愛らしい姫。そんな彼女の強欲な泉に指を挿し込めば、まるで待ち望んでいたかのように何もかもを飲み込もうとする。
「〜〜〜っ、っ、っ!!」
 びくびくとその体が激しく痙攣する。感じやすい初心な体は、たったこれだけの刺激で達してしまったようだ。
「姫様ばかり気持ちよくなってずるいですよ」
 ぼんやりとしている彼女のドレスを手慣れた様子で剥ぎ取りながら、リンクは手早く準備を整えていく。手触りのいい敷物も、程よい弾力を返すクッションも、全てはここで過ごすヒメゴトの為。すっかり生まれたままの姿になったゼルダを横たえ、リンクはその足を高らかに持ち上げた。

 ――きっかけは、些細なことだったような気がする。
 それこそ本当にどうしようもないこと。
 ゼルダは十七の祝いを迎えても、姫巫女としての力を授からなかった。知恵の女神ネールからも見放された穀潰しの姫。その存在意義を己自身で否定した彼女は、リンクにもまた否定を求めた。姫なのに。民から望まれていたのに。厄災を封じる為には、力に目覚めなければならなかったのに。
 呪いのような言葉に囚われる彼女と過ちを犯したのは、果たしてどれがはじまりだったのか。
「っ〜〜〜!! っ! っ!」
 リンクの背中には美しい白い太ももが絡みついている。
 どこを触れても感じてしまう、愛しくて愛しくて可哀想な姫。一時でもその痛みを忘れさせるために始めた間違いの報いは、いずれ必ずやってくるだろう。
 自嘲的に唇を弧に描き、リンクは深く深く、彼女を貫いたのだった。
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