2020.07.03 執筆
2021.05.06 改訂

二人の日常 

 

降り注ぐ雨の中、ゼルダは天を見上げた。
 どんよりとした黒い雲が厚い層を成している。噎せ返るような雨の匂い。石畳の上を大粒の雫がぱたぱたと跳ね回っている。
「思ったより酷いですね……」
 土砂降りになる直前になんとか木陰に滑り込んだものの、防ぎきれなかった雨粒が時折ゼルダの服を濡らしている。もう少し小雨であれば走って帰るところなのだが、バケツをひっくり返したような雨となるとそうはいかない。
 恐らく夕立だろう。そう判断して雨宿りを選んだものの、こんなことならもう少しプルアのところでゆっくりすれば良かった。家まで近いから。そう口にしたものの五分の間で、こんなに降られるだなんて思っていなかったのだ。
(暗くなる前には帰るとは言ったのですが)
 心配性なリンクのことだ。予定よりも遅くなっているゼルダのことを心配しているに違いない。とは言えこの雨だから、研究所で時間を潰していると判断してくれたらいいのだけれど……。
 雨はまだ上がる気配を見せない。後は家に帰るつもりだけであったゼルダが暇つぶしを持ち合わせているわけでもない。手持無沙汰になって、ゼルダはあたりを見渡した。
 ツツジの花が枯れていた。
 丁度季節が終わった頃合いなのだろう。咲き誇っていた頃はゼルダの心を沸かせたピンク色の花々は、すっかり茶色くなってしなびている。もう少ししたら根元から地面に落ちて、そうして土の養分になっていくのだろう。それが季節の移り変わりでもある。
「まあ」
 その中で一輪、遅咲きのツツジの花が咲いていることに気が付いて、ゼルダは思わず目を瞬かせた。
 ご丁寧にも分かり辛く、ちょうど葉と葉の間に隠れて咲いている。
「お寝坊さんですか? 恥ずかしかったのですね」
 そう口にしてから、思わず笑ってしまう。残念でした。私に見つかってしまいましたよ、と。
 こうして見ると、雨の檻に閉じ込められた世界だって案外悪くない。
 雨音は賑やかなメロディーを奏で、花々は瑞々しく咲き誇っている。刈りたての草の匂い。ほら、あそこにいるのはガッツガエル。ぴょんぴょんと跳ねる様は、見ているだけでも心が躍る。思いがけず笑みが零れるのが分かった。
(そう言えば、雨の風景をまじまじと見ることはなかったかもしれませんね)
 ゼルダは永い時の中を生きてきたが、その大半は厄災との戦いに費やされたといっても過言ではない。七歳の頃から修行を始め、十七の誕生日と共に復活した厄災との戦いにその身を投じた。
 百年の時を経た勇者が厄災を打ち倒し、ゼルダが聖なる力を以って封じて――そうして初めて、ゼルダは己の生を掴み取ったのだ。
 そこに至るまでに大きな犠牲があったことを知っている。そして、一度失われてしまった命は二度と戻ってこないことも。それは切なく苦い痛みをゼルダの胸に与えたが、同時に得たものもあった。
 百年の時を重ねた世界は、すっかり様変わりをした。
 ハイラルは一度滅んだが、人々は今なお変わらぬ営みを続けている。
 天は気まぐれ。その恩恵を受け、時に振り回されながらも、生き物は生きていく。なんと不思議で、未知なる世界なのだろう。
 見慣れたはずの道のりを、ゼルダは思い切って一歩踏み出した。あっという間に服がびしょ濡れになる。だけど、不思議と気にならなかった。この世界の一員になれたような気がした。
「ゼルダ!」
 遠くの方から聞き慣れた声が聞こえたような気がして、ゼルダは顔を上げた。
 秋に頭を垂れる稲穂を思わせる、黄金色の髪を持った少年。リンク。彼が大きく手を振りながら、坂道を登ってくる。
「もしかしたらと思って来たら……随分降られちゃったね」
「ふふっ、そういうリンクだってびしょ濡れですよ」
「俺はいいよ」
 慣れてるし。そう口にしたリンクは本当に気にしたそぶりを見せない。
 旅をしていた頃、リンクが雨よけを使った試しがなかったことは、ゼルダも知っていた。そんな彼がわざわざ雨具を手に持って走ってくるのだから、何だかとても不思議な心地だ。
「どうかしたの?」
 くすくすと笑い出したゼルダを前に、リンクが怪訝そうな顔をしている。せっかく雨具を持ってきてくれた彼には悪いのだが、思いがけずお揃いになったことが嬉しかったのだ。
 かつては姫と騎士であった二人。百年の時を経て、同じ目線で歩いて行ける。
「何でもないんです。……さあ、帰りましょうか」
 ブーツで水たまりを越えて行く。ふと雨の勢いが弱くなったことを感じ取って、ゼルダは顔を上げた。いつの間にか空の向こう側が明るくなっている。
「やっぱり夕立だったのですね」
 突然降ってきて、止むのも唐突だ。間もなくこの一帯の雨も上がるのだろう。
 歩き出したゼルダの肩が引き寄せられた。濡れた体がゼルダの体を抱き留める。
「やっぱり、体が冷えてる。帰ったら早くお風呂に入ってね」
 ゼルダとサクラダが意気揚々と家を大改造した成果でもある。一般家庭にはほとんど存在しない薪風呂は、百年前のゼルダの知識と、先鋭的な工務店の力技によって実現した。以来、お風呂は二人の日常のささやかな楽しみの一つになっている。
「ふふっ、そうですね」
 ゼルダを気遣う言葉もすっかり所帯じみてしまった。これでリンクは元々、堅物騎士だったのだから、人間変われば変わるものだ。
 ゼルダは屈託なく笑った。ささやかな今の日常が何よりも愛おしい。何だか浮かれた心地になってしまって、普段なら言わない冗談が口から転がり落ちた。
「どうせなら一緒に入りますか?」
「え!?」
 リンクの空色の瞳が驚いたように丸くなるのが分かった。
「ふふっ、冗談で……」
「入る! 絶対入るッ! よっしゃーッ、早く帰ろう!」
「きゃあっ!?」
 唐突に位置の変わった視界に、ゼルダの口から驚きの声が上がった。慌ててリンクの首筋にしがみ付く。横抱きに抱き上げられたのだ。
「ちょっとリンク、降ろして下さ……」
「俺がぎゅってしたいの。ゼルダは嫌?」
「……そういう返しはずるいです」
 そんな風に言われたら、嫌だとは返せないではないか。ゼルダが真っ赤になっている内に、リンクはそのまますたこらと走り出してしまう。このままハテノ村の中を通る気なのだろうか。通る気なのだろう。
 小雨の中歩いている人はほとんどいなかったものの、まったくいない訳ではない。「お熱いねえ」なんて野次られて、ゼルダは真っ赤になってしまった。「熱々だから」なんて返せるリンクのコミュ力がちょっと信じられない。
 来た時よりも元気に道を走っていくリンクの腕の中で、ゼルダは観念して顔を上げた。
 雲の切れ間から、茜色の光が差し込んできている。今夜はきっと晴れるだろう。この調子なら、明日のお天気もいいかもしれない。
「ねえ、リンク。明日はお洗濯物がしたいから、今日はほどほどに……」
 リンクが視線を向けるのが分かる。その顔が満面の喜色になっていることに気が付いて、ゼルダは明日の寝坊を悟らなければならなかった。

   * * *

 速攻でお風呂沸かすから!
 そう宣言してからのリンクは素早かった。ゼルダが焚こうとするとゆうに三十分はかかってしまうボイラーに軽々と薪を詰め込んで、火をつける。
 火打石がない時は、鉱石に鉄製の武器をぶつけて火を熾しても大丈夫だから。
 それが出来るのはリンクだけです、と口にしたのはいつの頃だっただろうか。ともかく、リンクの器用さはずば抜けている。回生の祠から目覚めてからというもの、旅という名のサバイバル生活を行っていたリンクは、しばしば人間離れした芸当をこなしてみせた。そんな彼なので、薪風呂を熾すのは朝飯前だ。
 恐るべき肺活量を持って火吹竹から送られる空気に、みるみるうちに炎は膨らんでゆく。追加の薪をぽんと投げながら、リンクは無邪気に笑った。
「あと十分くらいで俺も入れるようになると思うから、お先にどうぞ」
「ほ、本当に一緒に入るんです……?」
「ゼルダが先に言ったんだけど」
 むう、とむくれるリンクを前に、ゼルダは言葉を濁した。
 リンクと共に住むようになってそれなりになるが、一緒にお風呂に入ったことはまだない。体を清潔にするための場所です、とゼルダが宣言したためだ。(それ以外の場所はちょっと言葉に出来ない)
「それはそうですけど……」
 全部見えちゃうじゃないですか。今更と言えば今更なことをごにょごにょとゼルダは口の中で呟いた。
「やっぱやめる?」
 ゼルダが嫌ならやらない。リンクの言葉はあっけらかんとしている。彼の判断基準はいつだってゼルダだった。そのことをゼルダ自身もよく分かっている。
「…………嫌ではないです」
「じゃあ」
 打って変わって、きらきらと期待に輝く空色の双眸がゼルダを見つめている。百年前、鉄仮面とまで言わしめらせたリンクは、今ではすっかり表情豊かになった。ふう、と息を吐いてゼルダは顔を上げた。
「先に準備してますね。……お風呂、私がいいって言ってから入ってきてください」
 最後の方は若干早口になってしまったものの、言い切ったはずだ。耳がじんわりと熱を帯びているのが分かる。そのまま踵を返そうとして、ゼルダはリンクもまた耳の先が赤いことに気が付いた。
「どうしてリンクが照れているんですか」
 すっかり乗り気だったのはリンクだったと言うのに。言外にそう滲ませれば、彼は心なしか言いにくそうに口を開いた。
「……いや、ゼルダからそう言われると……その」
 なんかいいなあって思って。
 しみじみと零すその言葉に、彼の熱が伝染してしまったかのようだ。
「は、入ってますから!」
 木製のドアに体を滑り込ませ、それを背にしながらゼルダはすっかり熱くなった頬を両手で押さえた。熱くなりすぎて湯気が出そうだ。
 強引かと思ったら、時々初心な少年みたいな反応を返す。リンクが引き出す表情にすっかり翻弄されていることを自覚して、ゼルダは目を閉じた。騎士だった頃の有言実行ぶり、回生した後の奔放さ。二つ合わさったリンクは向かうところ敵なしなのではないだろうか。
 ……それに。ゼルダは息を吐いた。
 あんな風に照れるなんて反則だと思う。共同生活を送るようになってそれなりに経っているはずなのに、ふとした瞬間、こうしてこそばゆい気持ちになってしまう。
 それが、ゼルダには恥ずかしくて――…同時に酷く愛おしかった。

   * * *

 しゅるり、とコルセットのリボンを解く音がやけに耳に残ってしまう。
 一緒にお風呂、というのに自分でも思った以上に緊張しているようだ。深呼吸をして締め付けていた下着を落とし、丁寧に畳んでゆく。明日の洗濯物……そう一瞬思ったが、準備はしない方がいいだろう。多分、今夜は長くなる。そんな予感を持ちながら、ゼルダは身に着けていた最後の布地を取り払った。
 リンクが火を熾してくれたおかげで、浴室はすっかり温かかった。
 換気の為に僅かに開けた戸の隙間から、月明かりが差し込んでいる。ゼルダの読み通り、雲は流れて、上質なびろうどのような夜空が広がっていた。プルアの研究所のあたりまで登れば、降り注ぎそうな星空を望めることだろう。
(意外とよく見えますね……)
 暗くて分からないかと思いきや、案外月明かりで良く見える。一糸纏わぬ己の姿を見下ろして、ゼルダは愁眉になった。もう何度も彼に体を見られているし、昼間から行為に及んだこともある。とは言え、自分の体を……ましてや好いた人にまじまじと見られるのは、どうにも慣れないものだ。
 リンクも雨に濡れている。あまり待たせてしまうのも良くないだろう。意を決して、ゼルダは声を上げた。
「準備ができましたよ」
 少し離れたところで、はい、と返事をするリンクの声が聞こえた。それから、どたどたと騒がしい足音と、あっという間に取り払われる服の衣擦れ音。僅かな呼吸をする内に扉は開かれて、ゼルダの眼前に一糸纏わぬリンクの姿が飛び込んできた。
「えっ……と」
 すごく、そそり立っているのが見えるのですが、気のせい……じゃないですよね……?
 困惑しながらも、ゼルダは頬に熱が灯ることを理解して目を伏せた。リンクはここに来る準備をしながら昂っていたのだと思うと、恥ずかしいと思う反面、目が離せない。
「ちゃんと体、洗うから」
 ゼルダに見られていることを理解しているのだろう。リンクもまたほんのり頬を赤く染めて、照れ臭そうに短く区切る。とは言え、これほど張り詰めているならあまり待たせるのも可哀そうだ。「そうですね」と短く答えて、ゼルダは狭い浴室に向き直った。
「背中を洗います」
「いや、俺が」
 リンクの手にはヘチマを乾燥させて作ったお手製のスポンジが握られている。一体いつの間に、とゼルダが目を白黒させている間に彼は石鹸を手際よく泡立てていった。
「背中向けて」
 いつもより低いその声にどきりとする。促されるままにゼルダは木製の風呂椅子に腰かけた。リンクが近づいてくるのが分かる。
「お湯、かけるね」
 低い声。その宣言通り、湯が背中にかけられた。少し熱いくらいだったけれど、火はまもなく消えてしまうだろうからこのくらいが丁度いい。湯の温かさにゼルダが目を細めていると、たわしの繊維質が背中に押し当てられたのが分かった。
「痛かったら言ってね」
「……はい」
 言葉少なく、リンクがゼルダの背中にたわしを滑らせていくのが分かる。彼の邪魔にならぬよう、長い髪を束ねて体の前に流しているから、背中は良く見えているはずだ。
 意外にもリンクは余計なことは口にせず、黙々と職務を全うした。強すぎず、かといって弱すぎもしない絶妙な力加減で、ゼルダの背中を丹念に洗っていく。自分では届かないような場所も、彼は几帳面に磨き上げていった。そのあまりの職人ぶりに、彼とお風呂に入っている今の状況を忘れて、思わずうっとりとしてしまったほどだ。
「次は私が洗いますよ」
 すっかり綺麗になった頃合いを見計らって、ゼルダは振り返った。そうして、思いがけず近い位置にあった空色の瞳と視線がぶつかる。彼の瞳には――すでに燃えるような劣情の色が灯っていた。
「前がまだ終わってないから」
 潰れた豆だらけの固い手のひらが、ゼルダを抱き寄せた。そのまま真正面に向き合う形で座らされて、ゼルダはかあっと赤くなった。動揺するゼルダとは裏腹に、リンクは丹念に彼女の腕を洗っていく。
「……すごく綺麗だ」
 ベッドの中で何度も囁かれた言葉。それなのに、照れ臭くて逃げだしたくなってしまうのはどうしてだろう?
 俯くゼルダとは対照的に、リンクの手はゆっくりと腕から彼女の鎖骨へ移動していく。やがて、首筋からまろく曲線を描く乳房へと辿り着いた。
「っ」
 硬い繊維質がその先端をひっかくように擦れて、ゼルダは思わず吐息を零した。
「そこ、は……っ」
「ちゃんと言ってくれないとよく分からない」
「んんっ……!」
 洗っているというよりも掬い上げるような動きが、執拗にゼルダの敏感なところを擦り上げて、堪らず身を捩る。思わず涙目になって背中越しに触れてくるリンクを見上げれば、彼は目を細めて、手のひらで直にゼルダに触れてきた。
「……っ」
 洗うというより、もはや揉みしだくという表現の方が正しい。彼の指によって泡に包まれた乳房の先端が、ぷっくりと充血していくのが分かる。恥じらいで赤くなるゼルダの耳を甘く噛んで、リンクは桶の湯で彼女を包み込んでいた泡を流し去った。ゼルダの白い素肌が月明かりの下で暴かれる。
 リンクから与えられる熱に、何もかも溶かされてしまいそうだ。
 唇へ。耳へ。首筋へ。
 まるでゼルダの体を余すことなく確かめる様に降りてくる。その唇がゼルダのなだらかな臍にまで降りてきたことを確かめて、彼女は逃げるように身を捩った。
「だめ、まだここが洗えてないから」
「リンク……はあぁっ!」
 堪え切れなかった甘い声がゼルダの唇から零れ落ちる。
 与えられる刺激に彼を待ちわびている泉はすっかり濡れそぼっていて、とろとろと太腿を濡らしていた。その源泉に彼の熱い舌が触れてくるのだから、たまらない。ゼルダは白い喉を仰け反らせて、与えられる快楽の波に震えることしかできなかった。
「ねぇ……ゼルダ、俺、もう……」
 荒い息を付きながら視線を滑らせれば、彼の猛りは大きく膨れ上がっていた。浮き出た血管が筋を作って、時折脈動している。思わずこくり、と喉が鳴るのが分かった。
 ベッドの中とは勝手が違う。リンクに跨る形で、ゼルダはそろりと腰を下ろした。ひくひくと震える入り口に、熱いリンク自身が押し当てられるのが分かる。
「~~~っ!」
 ずん、といきなり最奥まで貫かれて、ゼルダはその甘い衝動に大きく体を震わせた。
「っ、りん、く」
「ゼルダ……ゼルダっ!」
 込み上げてくる衝動を堪える間もなく、浅く、深く、彼が出入りをしていくのが分かる。その度に、いつもよりも深く内壁が擦れて、たまらずゼルダは唇を噛み締める。
「声、我慢しなくて、いいから……っ」
「あぁ……っ!」
 彼の上に跨っているからなのだろうか。いつも以上に深くリンクを感じてしまう。彼から与えられる振動に、何もかもがどろどろになって溶けてしまいそうだ。
 動きが一層激しさを増していく。込み上げてくる衝動に、リンクの背を強く抱きしめて、ゼルダは喉を震わせた。
 ……果てたのだ。
 荒い息を吐きながら、ゼルダはぐったりとしてリンクに身を預けた。温かい。素肌と素肌で触れ合う彼の体温は心地よく、このまま暫くこうしていたいくらいだ。すり、と身を寄せればなんだか幸せな心地だった。
「ひぅっ!?」
 お腹の奥に固いものが当たる感覚があって、ゼルダは思わず悲鳴のような声を上げた。
「う、嘘、さっき出したばかりなのに……っ」
 狼狽するゼルダと裏腹に、向き合う形で座っていたリンクは照れ臭そうに眼を細める。
「ゼルダが可愛くて……」
 つい。そう口にして頭を掻いている。
「ついじゃありませんよ……んっ、あんっ」
 ずるりと引き抜かれる。脚の付け根から彼と繋がった証が流れ出て、ゼルダは思わず赤面した。出したばかりなのにもうこんなになっている……!?
「後ろ向いて」
 促されるまま浴室の壁に手を付けば、背後からリンクの逞しい体に包まれるのが分かる。ぬるりとした感触がゼルダの秘所を滑っていった。一思いに貫かず、濡れそぼったその場所をまるで確かめる様にして往復していく。
「や、あっ! それ、だめっ! りっ、リンク……っ!」
 風呂場の中に水音だけが反響している。
 リンクが腰を動かす度に、ゼルダの気持ちいいところが擦れてどうにかなってしまいそうだ。いやいやと首を振るゼルダに、リンクは執拗に往復を繰り返した。彼女の反応が「いい」と告げているのを分かっているのだ。
 がくがくと震えながら壁に手を付くゼルダの尻を持ち上げる。ふるんと揺れる、まるで瑞々しい果実のようなお尻だ。思わずかぶりつきたくなる衝動を堪えて、リンクはその泉の中に再び己を突き立てる。
「っは……」
 ゼルダの中はなんて気持ちがいいんだろう。突いても、擦っても気持ちがいい。空いた手のひらで彼女の乳房を摘まめば、いっそう高い声が上がる。
 先ほどとは対照的な、彼女を味わい尽くすかのようなストローク。ゆっくりと深く突けば、ゼルダは大きく震え、浅く擦ればもどかしげに腰がうねる。恥ずかしがり屋なゼルダは気が付いていないことだろう。もっと深いところにリンクが欲しくて、自ら腰を動かしていることを。
「あっ」
 目尻に浮かんだゼルダの涙に口づけて、リンクは彼女のおねだりに応えることにした。
 俺の大事な大事なこの人はこんなにも可愛い。人通りの真ん中で声を大にして告げたい反面、こんなにも可愛すぎる一面は自分一人だけが知っていればいいとも思う。
 ずん、と深く突き入れる。ゼルダのいいところに狙いを定めれば、善がる声の間隔はどんどん短くなった。そのリズムに応えるようにして、リンクもまた腰を動かしていく。
 カモシカのようにしなやかなゼルダの四肢が大きく跳ねた。同時に、リンクも自身の熱を放つ。ゼルダの中は、熱くてきつくて、どうにかなってしまいそうなくらい気持ちが良かった。

   * * *

 風呂はすっかりぬるくなってしまっていた。それでも、火照った体にはちょうどいい塩梅だ。狭い浴槽の中で二人身を寄せ合って入る風呂は、けして悪くはなかった。勢いに乗って風呂桶の中でもう一回シた。後でお掃除しなくちゃ……。翌日のことを考えるゼルダに口付けをする。俺がやっておくから。そんなことを話しながらお風呂に浸かっているとすっかりふやけてしまった。
 髪をふかふかのタオルで拭いて、寝間着に着替える。ベッドまで辿り着くと、まるで示し合わせたかのように、リンクはゼルダを押し倒した。
 洗いたてのいい匂いがする金色の髪がベッドの上には散らばっていた。一房手に取る。ふんふんと匂いを嗅いでいたら「何をしているんですか、もう……」と眉根を寄せる彼女の声。
「大切だなあって思って」
「髪が?」
「この髪の持ち主が」
 手に取った髪を口付けると、ゼルダがくすぐったそうに身を捩る。くすくすと笑う彼女の顔を追いかけて、その頬に手を添えた。鼻の頭に口付ける。
「もう……くすぐったいです」
「じゃあ、ここにする?」
 額に口付ける。そうすると、彼女は「そうじゃないです」と言いたげに上目遣いになった。
「リンクのいじわる」
 拗ねてむくれるゼルダも可愛い。ずっと眺めていたいくらいだ。だけど、ゼルダをもっと味わい尽くしたいという欲求もまた確かにあって。
「ん、ごめん」
 その柔らかな唇に口付ける。ふっくらとして柔らかいその場所を啄むように。
 じゃれつく子供達の秘密の遊びみたいに、リンクとゼルダはくすくすと笑い合って口付けあった。それもまもなく深いものへと変わる。相手の口内に差し入れながら、出迎えてくれるゼルダの舌にリンクは自身の舌を絡めていった。
 寝室の中に落ちる深い口付けの音に、既に何度もゼルダを貫いたと言うのに、リンクは昂るばかりだった。貪りながら、リンクはシャツ一枚しか身に纏っていなかった彼女の服を捲り上げる。
「んっ……リンク……」
 剥きたての卵のように、彼女の体は瑞々しく、そして美しかった。風呂で温められてゼルダの肌は薔薇色に上気している。お風呂上がりのいい匂いのするゼルダの胸にリンクは顔を埋めた。
「いい匂い」
「もうっ」
 呆れる彼女の可愛い胸に唇を寄せると、その声音に艶が混じる。柔らかく張りのあるその形を確かめる様に触れれば、とうとう堪え切れない吐息が零れ落ちた。たまらなくなって、ぷっくりと主張を始めたその頂に口を寄せる。
「あっ」
 短い、だけど確かに感じている声。
 その声に導かれるように、リンクはゼルダの頂きを唇の中で転がした。つつくように、こねるように。そうすると、彼女の太腿がもじもじともどかしげに揺れるのが分かる。
「ここに欲しい?」
 指先でゼルダの泉に触れた。
 元々下着を身に着けていなかったその場所は、すでに熱くぬかるんでいる。触れた傍からリンクを呑み込もうとするその場所を人差し指で往復すれば、ゼルダはふるりと体を大きく震わせた。
 もう何度もリンクを受け入れたと言うのに、その場所は今か今かとその時を待ち望んでいるかのようだ。リンクは一枚しかない布切れを脱ぎ捨てた。猛る自身は早くゼルダの中に入りたいのだと叫んでいる。どうしようもない熱を彼女の中に埋め込むように押し付ければ、ゼルダの唇からは高い嬌声が零れ落ちた。
「……っ」
 ぐうっと彼女の脚を大きく割り開く。あられもない格好をしているというのに、ゼルダにはそれに構う余裕はないらしい。かく言うリンクもまた、さほど余裕は残されていなかった。ゼルダの中は何度入っても、熱くて、きつくて、蕩けてしまいそうなほど心地がいいのだ。浅くと深くを繰り返すピストン運動に合わせるかのように、彼女の中がきゅうっと締まる。それがまた、意識が飛びそうになるほど心地いい。
「リンク……もうっ……!」
 ぶるり、と彼女が大きく震えるのが分かる。高みに上り詰めようというのだ。
 応えるようにリンクはゼルダの手のひらを握り締めた。指先と指先が絡み合う。共に登り詰めたくて、リンクは彼女が反応を深くする場所を一思いに突き上げた。
「――ッ」
 背が跳ねる。熱いものが迸る。
 シーツの波間に溺れながら、リンクとゼルダはお互いに荒い息を吐いたのだった。

   * * *

 目が覚めた頃には、お日様はとっくに南の空を登り切っていた。
 どこの家でも煙が上がっている。恐らく昼食を作っているのだろう。ほんのりと漂ってくるお米の香り。今年のハイラル米はとても出来が良くて、粘りもあって甘味がしっかりとしている。あのお米で作ったおにぎりは本当に美味しいのだ。そんなことを考えていると、ゼルダのお腹は盛大な音を立てた。
「ご飯にしようか」
 隣で腕枕をしている恋人にもしっかり聞かれてしまったらしい。穴があったら入りたいとはまさにこのことを指すだろう。ゼルダは真っ赤になりながら頬を膨らませた。
「……こんな時間までベッドにいることになるだなんて、自堕落ですよ」
「いやあ、昨晩は盛り上がりましたねえ」
「リンクのせいですからね」
 半眼になってじとりと睨み付けるものの、当の本人はにこにことしたものだ。ごめんね、と口にはしているものの、すっかり目尻が下がっている。
「でも、ゼルダだって昨日……」
 そこまで口にして、にやりと口元を持ち上げる。
「洗濯物準備しなかったし」
「そ、それは……」
 寝過ごしコースを予見していたと口にするには、何だか期待していたみたいで恥ずかしい。思わず言葉を詰まらせていると、リンクのにこにこ顔は、今度はふにゃふにゃ顔になっていた。締まりのない蕩け切った表情だ。
「……リンクが意地悪です」
 唇を尖らせてか細くそう口にすると、リンクは突然真顔になった。その突拍子のない切り替えに、ゼルダの方が目を丸くしたくらいだ。
「そういうことを言われると」
 よく見ると、彼の耳は赤い。
「……また自制が効かなくなりそうなんだけど」
 そう口にしたリンクのお腹からくうう、となんとも情けない音が立って、ゼルダとリンクは顔を見合わせた。
「……やっぱりご飯にしましょうか」
「くっ……正直者め……!」
 リンクは項垂れている。ゼルダは笑った。
 着る物を羽織り、連れ立って階下に降りていく。
「食べたいものある?」
 そんなことを口にしながら。

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