瓶の中で十分に寝かされた液体が、とぷんと軽やかな音を立ててその存在を主張する。
普段夜の生活を照らす温かみのあるランプは、今夜という特別な日のために色取り取りの瓶の表面を滑るように妖しい光を反射させていた。
「――――それじゃあ皆、グラスは持ったわね?」
一人分の私室とは思えないほど、広くて豪奢な調度品に囲まれた部屋の真ん中で部屋の主以上にふんぞり返ったルーティが音頭を取る。その姿を、部屋の提供主であるはにこにこと楽しそうに見上げていた。その手には淡く薄桃色に色づいたグラスが握られている。
も元気になったことだし、今夜はパーっといきましょう!………神の目の奪還を祝って!」
そうしてにやりと口角を上げたルーティは、グラスを高らかに掲げて宣言する。
「乾杯っ!!」
「「「かんぱーい!」」」
チィン、というガラスの奏でる音が高らかに鳴り響く。
神の目を取り戻すという長かった旅の終わりを告げる祝杯は、急ぎで国へ帰ったウッドロウを除く、スタン、ルーティ、フィリア、リオン、という世界を救った五人だけで、こうしてささやかに開催されたわけだった。




























祝 杯

Tales of destiny and 2 dream
“can't lose my feelings” spinout novel






「――――だいたぁーい、城のパーティーなんかで羽を伸ばして飲み食いできるわけがなぁいのよぉー」
「いや、ルーティーは十分飲み食い楽しんでたと思うんだけど……」
「なぁによ!あんた!スタンのクセにあたしに口答えしようって言うのぉお!!?」
「だからルーティ、そんな大声出さなくたって聞こえるよ……」
「スタンさぁあん!お酒が減っていますよぉ〜。お酌して差し上げますね〜」
「いやいやいやいや、俺がこれ以上飲んだら二人を介抱できないだろ?」
「はぁあ!!?あんた、あたしとフィリアの酒が飲めないって言うのぉお!!」
「だからぁ〜……」
「………スタン、頑張れ。超頑張れ」
酒の入った席はものの一時間もしない内から盛り上がりに上がり、テンションの上がったルーティが遠慮をするフィリアのコップに豪快に酒を突っ込んだことが暴走の始まりだった。元々お酒に強くないと言っていたフィリアは、ルーティが注ぎ込んだ酒のせいであっという間に出来上がり、真っ赤な顔でケラケラと笑い始めてしまった。その上、何となく予想していたルーティの属性と似たようなカテゴリに属していたのか、標的をスタンに定めて、そう――――完全に絡みの姿勢に入っている。まさかフィリアも絡み酒だったなんて。正直、泣き上戸とかそっちかと思っていた。
とにかく、酒が入って今まで以上におやじな絡み方をするルーティと、いつもの清純さを遥か彼方に消し去って酒注ぎマシーンと化した神官の哀れな標的になったのはスタンだった。
そして、残った私とリオンはあくまで事態を静観することを選んだ。ごめん。私、そこに乱入しに行く勇気がない。ほら、馬に蹴られて死にたくないって言うし。………だから生贄になるけど、許してねスタン。
スタンが助けを求める子犬のような瞳でこっちを見ているような気がしたけど、気のせいだと言い聞かせてグラスを小さく傾ける。ほらほら、例え酔っ払いでも両手に花だっていうし。……ダメかな?
「………意外だな」
「んぅ?」
「お前、そのワイン一人で一本空けただろ?正直、そこまで飲めると思わなかった」
私の隣で静かにグラスを傾けたリオンの言葉にこそ、私は少し驚いて目をぱちくりさせてしまった。あのリオンがひねくれの装飾後を使わずに、こんなに素直に人のことを褒める事なんてあるんだろうか。
ぱちぱちと瞬きを繰り返していると、リオンは唐突に不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。……あ、しまった。拗ねられた。
見れば、艶やかな黒髪がかかっている耳や頬がほんのりと赤みを帯びている。ああ、そうか。リオンも多少なりとも飲んでるから酔っ払ってたのか。何となくそこまで考えが至ると、先ほど逃してしまった間を取り戻すように私は声を上げた。
「ごめんってリオン!……でもそう言ってくれて嬉しい。何だかんだで、女の一人旅で酔っ払う事ほど危ない事ってないからさ。お酒は飲み方を勉強したんだよ」
相変わらずリオンはそっぽを向いたままこっちを向いてくれない。だから私はちょっと慌てて言葉を足した。
「ほら、例えば飯ものとか食べてお腹膨らせておくとか、飲む前に牛乳飲むとか!」
――――ぎろり、とさらに睨まれてしまった。ああ、私の馬鹿!牛乳の話をしたらリオンさらに不機嫌になるじゃんか!!
標準より身長が低い事を気にしているリオンが密かに深夜牛乳を飲むと言う涙ぐましい努力をしていると言う事が発覚したのは、実はほんの数日前のことだったりする。その時面白がったルーティがリオンに散々絡みまくったから、あれ以来彼は『牛乳』という言葉に過敏になっているのだ。
「えーとえと!あの!とにかくお酒は飲んでも呑まれるな!ってことだねはい!」
せっかくリオンこんな風に二人で喋れるチャンスに恵まれたのに、私の不用意な言葉のせいで機会をおじゃんにしてしまいたくない。だから私はものすごく必死で弁明、もとい話を結論へと導いた。……だというのにリオンの反応がないものだから、言葉を切った後はしーんなんて擬音が聞こえそうな間が二人の間に落ちる。
………こんな時、いつだってシャルちゃんが間に入って会話を繋いでくれていた。
今は物を言わなくなってしまったリオンのソーディアン。流石に室内ということもあってか今は帯刀していないけれど、この宴は本来旅したみんなのためのもの。それは勿論―――神の目を奪還し、役目を終えて眠りに突いたディムロス、アトワイト、クレメンテ、シャルティエにも当てはまる。寧ろ彼らこそがこの旅で真の功労賞を与えられるべき立場だと思う。だからせめて………私たちに彼らの声は聞こえなくなってしまったけれど、彼らのまどろみの中に笑い声を届けたい。神の目を守る事ができたという、この幸福な時間を夢見て欲しかった。
そのために、スタンなんてわざわざ城にディムロスを返却しなければならなかったけれど、無理を言って貸し出しを伸ばしてもらったそうだ。スタンだけじゃない。ここにいる人たちはどんなに酒に呑まれていても、そういう根っこで大切にしないといけないものはちゃんと分かっているのだ。
今まで当たり前のように喋ってきていたから、こんなふとした瞬間に彼らともう繋がれないんだと言う事を思い知る。当たり前のようにシャルちゃんと私は話していたけれど、それは時を越えて巡り合う事ができた小さな奇跡だったのかもしれない。リオンとの間に広がった沈黙の中、ふと、私はそのことに思い至った。
「………まぁ、確かに……そうだな」
私が感じたのなら、シャルちゃんと小さな頃からずっといたというリオンはより強く感じたに違いない。
いつもだったらシャルちゃんによって繋がれる会話の切れ目を補うかのように、ぽつりとリオンが言葉を漏らす。なんだかそれが寂しくて―――――でも、嬉しいのもまた事実だった。
「あれはもう無様とかそういうレベルを超えている」
ちらりとリオンが横目で見た光景を目で追って、私は思わず顔が引きつった。フィリアがどぼどぼとコップから溢れるほどスタンに酌をし続けている。それを見てさらにテンションの上がったルーティは、皿に酒を盛って豪快に飲み始めていた。「返杯よー!」とか恐ろしい事も言っているような気がする。
「……ま、まぁ、あっちはともかく。リオンだって上手にお酒飲んでるような気がするけど」
「当たり前だろう。不本意だが、招待されれば城の夜会に出ないわけにはいかない。酒くらいは嗜む」
「あ、そっか。確かにリオンはそっちも顔出しているもんね」
「僕はお前と違って肩書きがあるからな」
「私は肩書きなんて重たいものはいらないからいいんですよ〜だ」
「フン、分からん奴め」
「分からなくていいもんー。私は自分の研究が出来ればそれでいいんです〜」
「………研究、か」
私の言葉を反芻したリオンが微かに暗い笑みを落としたような気がした。それに思わず、どうしたの、と訊ねそうになったまさにその瞬間、いつもの表情に戻ったりオンが言葉を続けたので、結局私はその機会を失ってしまった。
「え〜と、とりあえずさ」
お酒の席だと言うのに妙に暗くなってしまった空気を払拭するかのように、とりわけ明るい声を出すように心がけて。
「みんな無事で帰ってこれて良かった。……ここにいる人たちが誰か一人でも欠けていたらきっとこんな風に賑やかな宴会にはならなかったと思う」
本当はウッドロウさんやマリーさん、ジョニーとこの旅で一緒になった人たちとも杯を交し合えればもっと良かったのだけど、それは飲み込んで言葉を続ける。
「ね、改めて乾杯しよ?――――みんなの無事を祝って」
そう言えば、リオンはやっぱり憎まれ口を叩きながらも一緒にグラスを傾けてくれた。その口元が微かに笑っているのに気が付いたのは、私だけの秘密にしておこう。



「……………」
どうしてこうなった。
まず、僕はそう言いたい。
目の前には三人分の死体……ではないが、酒の呑みすぎてグロッキーになっているスタンと、標的を酔い潰させてご満悦のまま眠りに入ってしまったルーティとフィリアが床に転がっている。まぁ、こいつらはまだいい。僕に実害はさほどなかったのだから。……問題は僕の膝の上ですりすりと頬ずりをかましてくるこの女の方だ。
「………おい」
「んぅう〜?」
「……………」
酒の呑み方を偉そうに説いたその舌が乾かぬ内に、なぜ僕がこいつに膝枕をしてやる体制になっているのだろうか。まず尋問はそこから始めたい。
そもそも、事の発端はスタンがついに助けを求めて縋りついた事による。
僕はとっとと無視をしたが、はスタンに頼み込まれるとそうもいかなかったらしい。元々お人よしの上に、ある程度酒に強いという自負が彼女の判断力を鈍らせた。酒が入って上機嫌になっていたという事も効いていたのだろう。酒は呑んでも呑まれるなという話をつい先ほどしたばかりだったというのに、このザマなのは聞いて呆れる話ではあるが。
「離れろ」
「やぁ〜だあぁ〜」
「………コイツ」
完全に無防備な頭に向かって拳骨をくれてやる。ゴツン、ととても良い音がした。さてはコイツ、頭の中に大したものを詰め込んでいないな。
「いひゃ〜い」
「痛いぐらいまともに話したらどうだ」
「リォンがわかーってくれるからいぃ〜」
「……もう一発殴られたいようだな」
先ほどの拳骨がきいたのか、先ほどまで幸せそうに蕩けた顔でごろんごろんと膝の上で転がっていたはぴたりとその動きを止めた。酔っ払いと言えど、痛いものはやはり痛いらしい。
「やら」
「………おい」
どうやらこの酔っ払いは聞き分けも相当悪いらしい。というよりも完全に頭がおかしくなっている。明日コイツが正気に戻ったら「死にたい……」とか真っ青な顔で言いだしそうだ。とにかく、今のコイツは完全に頭の中が惚けた単なる酔っ払いに違いなかった。でなければこんなことをするはずがない。ついでに度胸も無い。
「暑苦しい、引っ付くな」
「やぁ〜らぁ〜」
膝の上に頭を乗せていたはずのがやっと頭をのけて立ち上がったかと思うと、今度は僕の背中にべったり張り付いてきたのだ。
「ぎゅうー」
「ぎゅうーじゃない」
「きゅー?」
「擬音にこだわってはいない!」
「きゅー!」
僕は怒っているのに、何がコイツは楽しいのか分からない。きゅーきゅー言いながら締りのないふやけた笑顔でぴったりと体を寄せてくる。
あー……、だからそんなにくっつくなと言ったのに。その、アレだ。……意外に質感のある柔らかなものが背中に押し付けられる感触がよりはっきりと伝わってくる。それに、何だか少し良い匂いがしているような気がする。夜会で近づいてくる女達のような強い香水の香りではなくて、もっと優しい………これは多分石鹸の香りだ。そう言えばこの飲み会の前に、少し汗を流してくるってコイツ言っていたっけ。
「んぅ〜♪りおんあったか〜」
「……じゃない!早く離れろこの酔っ払い!」
「やぁ〜らぁ〜」
……何だこのループ。
本気で頭痛がし始めてきたような気がする。
とりあえず背中にずっしりと圧し掛かってくるを容赦なく引っぺがして床に転がしておく。またもやゴチンといういい音がした。フン、そこで床とキスでもしていろ。
「あーうー……いひゃい……」
後ろで情けない声を上げているがいい気味だ。そもそも酒を呑みすぎて前後不覚になるだなんて、社会人として失格だ。いくら気の知れた相手だといっても物事には限度というものがある。不用意に異性にベタベタと張り付いていいものではない。大体あいつは……
「…………ひっく」
「…………ん?」
「ぐすっ………いひゃい……」
「コイツ……まさか……っ…!」
「ひっく……っく……ぐすっ……りおんがあぁ……」
「絡みの上に泣き上戸かあぁ――――――ッッ!!」
「……ぁ?あ、リオンが泣かせてるー」
「よっ!この女泣かせー」
「酷いですわリオンさん!女の子を泣かせるなんて!」
「貴様らも最悪のタイミングで起きてくるなあァ―――――――――――ッッッ!!!」
はっきり言おう。
………踏んだり蹴ったりだ。



          * * *



「死にたい……」
呑みすぎで頭の中がぐらぐらと大震災を起こしているの大概酷いけれど、昨晩の微かに残っている記憶の断片の方が私にとっては死刑宣告にも等しい恐ろしい出来事だった。穴があったら頭から突っ込んで蓋をして、もう二度と出てきたくないような思いだ。ああ、なんでルーティにそそのかされたとは言え、あんなことをしてしまったんだろう。自分の馬鹿、阿呆、この考えなし、ろくでなし、呑んだくれ。うわーん、リオンにどんな顔して会えばいいって言うの―――――――ッ!!
スタンが泣きそうな顔で助けを求めてきた時、それでもあそこまで呑むつもりはなかった。けれど、酒瓶を抱えたルーティがそっと耳打ちで語りかけてきた言葉。「あんた、結局リオンに何の行動もしないわけ?せっかくお酒の席なんだからボディタッチの一つや二つあってもおかしくないんじゃないー?」……それはまるで、悪魔の誘惑のような響きを持っていた。
リオンのことが好きだ。
もう自分ではどうにもならないくらい好きが大きくなってしまっていて、いつかきっと大爆発を起こしてしまうんじゃないかと思う。でも、私はそれを暴発させるわけにはいかない。
リオンはマリアンさんのことを慕っている。それはもう―――――私なんか眼中にないくらい。私の恋は最初から敗北確定なのだ。それなら今の関係を壊さないで、遠くからでもいいから私の好きな彼を見守っていたかった。ううん、そんなキレイな言葉で表せれるようなものじゃない。私は、ただ単にリオンのことが好きという事を伝えてしまった後、自分の今の立ち位置を失ってしまう事が怖いだけだ。こんなに好きで好きでたまらないのに、それを本人の口から否定される事が恐ろしくて、ただ逃げているだけなんだ。
………そんな現実が辛くないわけなんかない。
だから私はあの時ルーティの甘い言葉に思わず縋りつくようにして、酒瓶をひったくってしまったのだと思う。………お酒でも入れておかないと、臆病な私はリオンに触れる事すらできなかったのだから。
「それがどうしてああなったんだろう………」
もう馬鹿としか言いようがない。
常日頃からリオンには馬鹿者呼ばわりしているけれど、全く持ってその通りだった。
強引に膝の上に頭を乗せてごろごろかました上に、ひっつくは、駄々はこねるは、挙句の果てに泣き叫ぶは………ああ、思い出しただけでも死にたくなる。
あの時の自分を今すぐぶん殴って地中へ埋め込んで全てを無かった事にしてしまいたい。そうだ今からそうしよう。過去の記憶を改ざんしてあれを無かった事にしてしまおう。うん、それがいい。忘れよう忘れてしまえ忘れるのが一番いいに決まってる。
「―――――おい」
「忘れよう忘れよう忘れよう……あー今から全てを忘れるところなんだから、ちょっと静かにしてて」
「……………ほう?」
「おぼえてないおぼえてないおぼえてないーあー死にたい……ちがう、死にたくない、おぼえてないおぼえてない」
「取り込み中だったようだな、僕は出て行くぞ」
「……………ん?」
つーっと冷や汗が背中を伝っていく感触がやけにリアルに感じて、私は思わず呪文を唱えるのを止めた。
えー?あー?この後ろの方から聞こえてきた声は確か、昨晩私が絡みまくった方のモノと大変よく似ている気がしなくもないと言うかむしろ私が聞き間違えるわけないというか後ろを振り返りたくないと言うかあーもーほんとすいません、ごめんなさい。
錆び付いた機械のようにぎぎぎぎぎっとゆっくり振り返ってみれば―――――ニヒルさを演出する口元をがとっても素敵な美しいお顔があるではございませんか。
「ごごごごごごごごごごごごごっっっ」
「ご?」
「ごめッッ……んがっ!!!!」
…………噛んだ。
死にたい。もう今から飛行竜に乗って高度2000メートルくらいからノーバンジージャンプかましたい。
「…………」
とりあえず自殺の方法を頭の中でたっぷりシュミレートして現状から爽やかに逃避行をしていたわけだったけれども、流石にこの状況の私が哀れになったのかリオンの方が先に口を開いた。
「…………フッ」
顔を見上げたら―――――あ、すごい邪悪な笑顔。
これ内心絶対蔑んでるわ、うん、この笑顔間違いないって言うかよし今から飛び降りに行こう。
「ちょっくら飛行竜まで行ってくるわ」
「どうでもいいが、飛行竜は今整備中だぞ」
「え、じゃあどうやって飛び降りよう」
「街外れの森の崖からはどうだ?」
「うーん、もうそこでいいかー………ってよくリオンそんないい飛び降りスポット知ってるね」
「ああ。どうせ朝起きてお前に記憶が残っていたら、真っ先に考えそうなことだと思ったからな」
え、リオンが私の考えを先読みしてたなんて………ちょっと嬉しい……ってダメだダメだダメだ自分!!!そんな読まれ方して嬉しがってどうする―――――ッ!!
「………………………ごめんなさい」
「フン、まぁ、もう仕置きは十分か。……確かにイラついたがすんだ事をこれ以上言っても仕方がないだろう。………次は無いぞ」
「うん、ごめん。もう呑み過ぎない。呑まれない。お酒、ダメ、ゼッタイ」
イラついたって言葉がやっぱりざっくり胸に刺さる。……うう、すごく迷惑かけたし嫌がってたもんなぁ……リオン。
「ほんとにごめんね」
「そう思うなら絡むほど飲むなよ」
「はい、もうしません反省してます……」
うう、偉そうに説教垂れたくせに次の日の朝これってどういうことなんだろう……。あまりの情けなさに頭が上がらなくなってしまう。何て間抜けなんだ、自分の馬鹿。
「………まぁ、そこまで騒げるようなら二日酔いの心配はなさそうだな」
「え?」
不意に落とされた少しだけトーンの柔らかい声に、思わず間の抜けた声が漏れてしまう。
「……スタンもルーティもフィリアも昨夜は飲みすぎて客間で唸っているところだ。お前もそうかと思ったが、どうやら問題なさそうだな。僕は行くぞ」
そうしてリオンは言うだけ言って踵を返そうとする。
え、ちょっと待った。え、え、え、それって、それってまさか、あの、もしかして……?
「リオン、私をしんぱ……」
「お前の心配をしたわけじゃないぞ!二日酔いで唸っている顔を笑いに来てやっただけだ!」
そう言っていつもより大股気味にドアに向かったリオンは、あっと言う間に部屋から出て行ってしまった。バタン、と大きな音を立てて部屋のドアが閉められる。
後に残されたのは――――沈黙と、それから、馬鹿みたいに真っ赤な顔になってしまった私で。
「………どうしよう」
自分でも自覚するほど熱を持った頬を両手で押さえながら、私は震える唇で呟いた。
「うれしい」
………本当に、どうしよう。
こんな風に不意打ちで優しくされたら――――もっともっと好きになってしまうじゃないか。
不器用な言葉の選び方も、ひねくれた態度も、分かりにくい仕草も。一年前とは違って、傍で見て、聞いて、感じて……そうして彼を好きになった今ならその意味が分かるから、胸がきゅっと締め付けられる。どきどきして、それからちょっと苦しくて、でもそれ以上に愛おしさが溢れてくる。
「反則だよ……」
お酒の力を借りないと何にも出来ないような臆病な私だけど、それでも、例え知らない内でもリオンは私の中をこんな風にいっぱいにしてくれる。
「―――――ばか」
それは自分に宛てたものだったのか、リオンへ宛てたものだったのかも分からずに私は呟いて。
………結局、寝起きのとんでもない顔でリオンと話していたと言う事が発覚するまで、まだ少しだけ時間がかかった。



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お届けするのが大変遅くなってしまいましたが、【雪原のローレライ】さまとの相互リンク記念に書かせて頂きました。
管理人の翔清永華さまより連載夢の夢主とリオンで甘々〜…というリクエストだったので、現在の本編で出来る限りの糖分を詰め込んだつもりです。……つもりです。
相変わらずゆるゆるな二人ですが少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、改めましてありがとうございました。

瀬羽 南途(せわ なと)


09.10.31執筆
09.11.1UP